“海への関わりで、料理人は社会でもっと大きな存在になれる” Sincère 石井真介
海のことを何も知らないで魚を扱うのは「すごく無責任だな」と思った
——海の問題に注目し始めたきっかけは何ですか?
今回のプログラム「THE BLUE CAMP」は、海の未来を考えるシェフたちがともに学び合う団体「Chefs for the Blue」の活動のひとつ。僕は2017年の立ち上げ時期から活動に関わってきました。とはいえ、それよりも前から海に対して危機感を覚えていた訳ではありませんでした。
2017年当時、料理人は築地などの市場には行くものの、漁港に行ったり漁師さんにお会いしたりする機会はまだまだ少なく、僕自身も「魚はお金を出せば買えるもの」というような意識でしかなかった。魚が海から消えている現状とか、どんな魚がいま減っているとか。また、水産資源はどうすれば回復していくのか、僕も知るまでは全く知識がゼロでした。料理人としてずっと魚を扱ってきたのに、です。
これは僕自身が「Chefs for the Blue」での勉強会や、実際に漁業の現場で見聞きすることを重ねて得たことですが、自分たちが食材として扱っているものの前段階……海のことを何も知らないで魚を扱うのは「すごく無責任だな」と思うようになりました。これからの料理人として、食材のこと、それらを生み出す環境のことを積極的に知っていく必要があるし、発信していく必要もある。
やっぱり知ろうと思わなかったら、知識は入ってこない。知識がないと、社会課題の解決に加わることってできないんです。
利用されていない魚をおいしくできたら、魚たちの価値を高め、食べ手と漁師、そして海にも貢献できる
——石井シェフは普段、どんな魚を取り扱っていますか?
旬のものを取り扱うことは大事にしていますが、いろんな魚を扱っています。スーパーにはほぼ並ばない、いわゆる「未利用魚」も積極的に使っています。
「分かりやすくてお客さんが喜ぶ魚を出そう」という考えがあった頃の自分は、自分本位でしたね。海の現場を見ると、市場では見たことがない魚に触れる機会がたくさんありました。獲れているのに売値がつかない魚なんかも。
贅沢で高級だというイメージも強いフランス料理ですが、じつは「ハードルのある食材をどう調理するか」が発達している料理のジャンルでもあるんです。たとえば、肉や魚の臭みを抜くためにハーブを使うとか、単体では旨味の少ない食材に、ソースを用いて味の底上げをするとか。おいしくするためにひと手間、ふた手間かけることが多いんですよね。
だからこそフランス料理は、クセが強いとか骨が多いとか、いろんな理由で利用されない魚たちを一流の味にできるんです。そして、じつはそういう料理の方が、お客さんが喜んでくれることが多いんですよね。
聞いたことのない魚がすごくおいしかったら、お客さんに感動と発見、そして学びを提供できる。魚たちにも価値がつくし、それを獲った漁師さんにも利益を還元できるんです。
海に関わり続けることで、料理人はもっと大きな存在になれる
——石井シェフご自身が海の現場に出ていく理由をぜひ教えてください。
いまはインターネットのおかげで、いろんな情報が手に入るようになりましたよね。でも、現場を見ないとわからないことっていっぱいあるんです。ひとつひとつリアルに知っていくことが、海を守ることにとっていちばんいい。
ただ、僕たちがやってる活動というのは、すぐに結果が出ないかもしれません。僕たちがやることを見てくれた次の世代が、また新しいことを始めて、それがまた次の世代に繋がって……と時間が必要なのかもしれない。でも、繋げ続けないと50年後、100年後の海の未来を守れないと思うんです。未来の大きな目標のために、小さいかもしれないけれど確実に積み重ねていく。今回の取り組みはそのひとつです。
こうして取り組みを繋げていくことで、料理人の価値も変えていけるんじゃないかと思うんです。日本の料理人の技術やモチベーションというのはすごく高くて、本当に世界に誇れる技術です。でも、日本においてはその価値がまだまだ認められていないのが現状です。
海を未来につなぐ活動も含めて、社会貢献に技術でもって応えていくことで、料理人が担える役割がもっと増えていくはず。「ただ料理する人」ではない、大きな存在になれるんじゃないかな。
スキルがなくても大丈夫。一緒に新しいものを生み出していきましょう!
——「THE BLUE CAMP」に参加したい人たちに向けて、メッセージをお願いします。
うちでは若手の登用も積極的におこなっています。こないだ高校を卒業したばかりの18歳とか、20歳とか。「THE BLUE CAMP」で募集する人たちと変わらない若手がスタッフとして働いているんですよね。
師匠たちからいろんなことを教えてもらった恩返しも含めて、自分の技術を上げてお客さんに喜んでもらうということだけじゃなく、次の世代の育成にも力を入れるべきだなと、年齢や経験を重ねて感じるようになってきました。
うちで働いていたスタッフが新しい店に行ったり、独立して新しい表現をしたりしているのを見ていると、僕自身、とてもうれしいんです。それに、若い人たちから僕自身が学ぶこともたくさんある。
「THE BLUE CAMP」では、すごく包丁が使えますとか、調理のスキルを持っている必要は全くありません。世の中に対していろんな好奇心や疑問を持った人たちが集まってこそ、作り上げていくことができるんです。僕にとってもやりたい企画で、すごくモチベーションが高い。ワクワクするような企画ですね。
僕たちが学んできたことも含め、皆さんが知らないことは全て共有します。そして僕たちにも、若い方たちが持つ意見や情報をどんどん共有してほしいなと思います。一緒に新しいものを生み出していきましょう!
(photographs by Kaori Yamane/ text by Yasuko Hirayama)
↓今回のインタビューのダイジェスト動画です
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