ネイルに月一で通う話。

梅雨明けましたか?これはもう、梅雨が明けましたか?

私は東京の西の方に住んでいるのだがここ数日とにかく暑い。エヴァンゲリオンの第一話ではないかしらと思うくらい暑い。いつの間にセカンドインパクトが起こったのか。ファーストすら知らなかった。

真夏に都心に行くのは本当に気持ちが重いが、月に一回渋谷に行くのはウキウキする。

姉が経営している渋谷のネイルサロンに月に一回通っている。私がデザインをリクエストをすると「似合わないからやりたくない」というし、私の短い爪を見て「何でこんなことになるのかな…」とブツブツ言うが、姉の技術は本当にすごく、彼女にかかれば不細工だったはずの私の爪がたちまち輝きだす。それはまるで、シンデレラのボロボロのエプロンがキラキラのドレスに変わるように。はたまた、寂れた私の街の街路樹が一日でクリスマスムードになるように。
しかもやっぱり、私がリクエストしたネイルの柄よりも、姉にお任せする方が格段に可愛く、私に似合っているように思う。

ネイルって本当にいい。爪が綺麗なだけで仕事をしてやっても良いかなと思える。するかしないかは別として。
しかも、誰かに自慢したくなる。わざと手の先を見せるように接客したりする。ほらほら見てよ、私ってば本当に可愛いでしょうと、爪が主張してるんじゃないかと思うくらい見せる。いや、主張するのは私の自意識なのですけど。

私は自分の爪が大嫌いだった。汚い話をしてしまうと、私は幼少期より爪を剥く癖があって常に深爪だった。足の爪も手の爪もボロボロで、夏に友人と海に行くとラッシュガードやバスタオルで必死に隠していたし、誰かが綺麗にネイルをしていると何故か「どうせ私なんて顔もブスなら爪も性格もブスですよ…」なんて卑屈になったもんである。今ならマジでばかだなと思うが、当時は全てにくさくさしていたのだ。嗚呼、二十代前半フリーターの劣等感。
まぁしかし、自分の爪が嫌いだからといって不器用なせいもあり、自分でマニキュアを塗る気にもならなかった。塗ってもどうせ爪を剥いちゃうし、不器用だからはみ出しまくるし、そもそも「塗ってからちょっと待つ」ができない。あれを飲もうこれをしよう、携帯をいじろう。そうするとどんどんよれていくのである。

そんな数年を経て、いい加減自分の爪を人間にしよう!と思い、姉のサロンにて「自爪再生計画」を立てた。こんな不細工で豚みたいな爪で、他のネイルサロンじゃ陰口を叩かれるかも…と躊躇してしまうような不恰好な私の爪でも、素っ裸を常に見ている姉がネイリストだと思うと見せることができる。
卒業式や参列する結婚式以外で初めてしたのは、たしか当時流行っていたクリアレッドの単色ジェルネイルだったと思う。「血色ネイル」として流行り、可愛い女はこぞってそのネイルをしていた。羨ましいな、と思った。ブスだって血色ネイルがしたい。ブスが血を通わせたっていいだろう。生きてるし、一応。

姉のサロンで約2時間。ジェルネイルというのはUVで硬化させるため、神経が細かい指先は猛烈に痛みが走る瞬間がある。

ギャッッッッ!!!!!!!!1

とUVに当てられる度に叫んでしまうのだが、そんな叫びも、姉のネイルサロンだからできることだ。きっと他のサロンでは「フシュ〜〜〜ッッッ……っつ、あっ、フゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」と、声には出さないけど超気持ち悪い吐息を漏らしてしまって、陰で「ボイラー」というあだ名をつけられていたに違いない。

そうして出来上がったクリアレッドの手の爪は泣けるくらい可愛かった。ハートの飾りなんかもつけてくれたりして。
わぁ、本当にこれが私の爪かしら。サクマドロップスのいちご味が並んでいるみたい。と思った。ツヤツヤとしていてとっても綺麗だった。この瞬間に、私の劣等感というか、もっと大きく言ってしまえば、存在自体が救われた気がした。

そこから私は、私の爪が大好きになった。あんなに「なくなればいいのに」と隠していた私の爪は、今では「全人類見なさいよ!!!!」と言わんばかりの輝きを放っている。

あのくさくさしていた頃の私に教えたい。大丈夫、自分のことを好きになる瞬間はもうすぐ来るよ。夢中になってる男の子に振られて泣きながら帰る夜だって、気になる男の子に蔑ろにされた朝方だって、その悲壮をSNSに放つ私の爪はこんなにもキュートで最高なんだからいっかと思える瞬間が来ることを。

そんな気持ちにさせてくれる姉も、いつも優しくて面白い姉も大好きだけれど、姉のせいでこれが詳しくなってきてしまった。

ネット配信者の人間関係

嫌だよ。お姉ちゃんがふわっちとかイチナナにハマるの。

ここまで読んでくれた方ありがとうございました。本当はネイルサロンに行く途中にある店で買ったエッセイについて書こうと思っていました。次はその話を書きます。
さようなら。



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