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何者にもなれない人間の駄文3

 ここ最近、入浴剤やバスソルトを使って入浴する事が多くなった。
 特にこれといったきっかけなんてものはない。ただ、浴槽用の洗剤を買いに某ドラッグストアに寄った際に、ふと棚にボケーっと陳列されている入浴剤の数々に目が留まったから、というだけの事にすぎない。
 買い始めたきっかけはない。
 でも、買い出したことで、生まれたきっかけはある。

 ここ最近、いたずらに年齢を重ねてしまったからなのか、以前にも増して疲れが抜けにくくなった。推測ではなく、実感として。
 十数年前ならば徹夜でゲームに耽ったその足で大学の講義を平気で受けたり、一夜漬けで大学の教科書を暗記したりしても(カフェインの力に拠るものなのか)大して疲れたりしなかった。
 なのに今となっては、仕事である荷物の運搬作業を終えてきっちり睡眠も取った次の日の朝には、頭も身体もほんの少しばかり鈍くなっている。筋肉痛とか無気力などといった明確な症状ではない。でも、少し錆びついた機械のように動かし(働かし)辛くなっている。
 そのほんの少しの違和感が週五日間、連続して繰り返し積み重なった、休みの日の朝になって気怠さや無気力、腰の痛みなどハッキリとした症状となって、身体がエマージェンシーめいたアンサーを送ってくる。
 昔ならばこんな事も気にせずに、同人即売会やらサークルのイベントに参加していたのに。なるほど、父親が仕事の休みの日は家でゴロゴロしていたいと言っていた気持ちが、こういうところから来ているのかもしれない。

 とはいえ自分としては、休日を無気力に呆けたようなムダな時間として費やしたくない。休日は休日でシャキっと執筆だったり、あるいは映画や読書、外出など少しでも充実した一日にしていきたい。
 その為に、どうするか――導き出した答えは『仕事のある日の疲れを、その日のうちに可能な限り減らす』だった。

 まずは、睡眠時間の確保。可能な限り最低5時間、そして寝る時間も22時前後には寝るように心がけるようにしている(そもそも仕事の関係上、朝4時には起きなければならないし)。
 次に、過度なカフェイン摂取を控えるようにした。それまで仕事中に飲んでいたコーヒーやエナジードリンクなどを、麦茶に変えた。そして夜に書き物などをする時は梅昆布茶やホットミルクにするなど、自分なりに少しでも眠りに就きやすいように意識するようになった。


 そして三つ目に変えたのが、入浴の仕方。そう、ここでやっと冒頭の入浴剤に話が戻るわけである。
 偶然見かけた入浴剤の数々。これらを使ってゆっくり入浴するようになれば、疲れも取り除けるのでは、という何ともふわっとしたきっかけだったが、一番時間の使い方がハッキリ変わったのはココだと思っている。

 それまでは素早く入浴を終わらせようと、44~45度のお湯に数分浸かる程度だった。それが今では、41度前後のお湯に入浴剤を入れて、25~30分程浸かるようなった。
 また浴室の中では電気を消して(念の為脱衣所の電気は点けて)、セルフマッサージを施しつつ、何も考えずまったりと浸かる。
 暗い部屋にうっすらと差し込む光、そこに反射する入浴剤お湯の色を眺めながら、無心にふくらはぎや太もも、腰や背肉をもみほぐす。鼻に入る香りをゆっくりと4秒吸い込んで、ゆっくり4秒吐き出していく。この時間が、最近のお気に入りとなりつつある。
 それがシャワーで洗い流して着替えてから、20分ほど軽くストレッチなりマッサージなりして、そのまま就寝に至る。
 これが自己流の「マインドフルネス」ならぬ「マインドフロネス」である。

 こういった自己変革をしてからというもの、完全にとまではいかないが、それまで翌朝感じていた違和感めいたものは、ほとんどなくなった。それに比するように、休日に覚えた疲れに関しても、今ではほぼ感じなくなった。
 おかげで最近は平日も休日もだらける事なく、それなりに充実した日々が送れるようになった。あくまで主観であるけれど。

 だけどなあ、こうしてある程度律した生活を自ら心がけないといけなくなるなんて。
 今日もお湯を張った浴槽に、入浴剤を落としていく。
 サーッと砂を転がすように小さく弾け続ける微発泡の音は、どこか淡く儚く聞こえた。
 濁り染まったお湯の中で、疲れと一緒に若さも溶かされていくような気がして。

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