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おなかいっぱいたべてみたい(1)~函館旅行記(1)

『食べ放題』――それは、僕が小さい頃から大好きな食事形態だった。

初めての食べ放題は、小学3年の夏休みだっただろうか。
同級生ら数人と近所にあったレジャープール施設で散々遊んだ帰り道に、引率を担っていた友達の父親が「近くにある食べ放題の店、行ってみようか」と軽いノリで連れて行ってもらったと記憶している。
幸い母親から予め多めにお小遣いを貰っていたので、お金の心配はなかった。とにかく『食べ放題』という言葉の響きが、当時の僕にはあまりに眩しすぎた。一体どんな料理をどれだけ食べられるのだろうか――スイスイとお店に向かっている車とは対照的に、僕の頭の中はワクワクで渋滞した。
果たして、到着したお店で待ち構えていたのは、色とりどりに並ぶ数多の肉と数多の寿司たちだった。

焼肉コーナーには牛カルビに牛タンに牛ホルモン、鶏肉に豚ハラミ。
振り返って寿司コーナーにはマグロにサーモン、エビにたまご、ネギトロやいくらの軍艦も。
更にカレーにラーメン。大好物の唐揚げにポテトも備わって……「天国じゃないかここは」と、齢一桁のちっぽけな僕は多幸感に包まれながら、制限時間いっぱいまで肉もご飯も腹いっぱいになるまで一心不乱に食べ続けていたのを、今でも鮮明に覚えている。

それ以来『食べ放題』は、そこそこ大食いな自分にとって、ある種の憧れのワードとなっていった。
なぜなら、そこから中学高校と十数年近くもの間、『食べ放題』というイベントに遭遇することがなかったからだ。
大学生の頃には一応何度かビュッフェやバイキングの機会に巡り会えたものの、いずれもホテルでのパーティー形式のものやサークルのイベントの幹事などで、満足に食べることは叶わなかった。

とにかく人の視線を気にせず(無論最低限のマナーは守りつつ)、好きなものを腹いっぱいに食べたい!
そんな欲望を叶える機会が、とうとう先日訪れたのである。

きっかけは、私用も兼ねて函館へ二泊三日の旅行を計画していた時の事だった。宿泊先のホテルをどうしようかとネットで検索してみると、どのホテルの朝食もこぞってバイキングやビュッフェといった食べ放題形式のものばかり。
調べてみると、なんでも函館は『朝食戦争』と称されるほど、どこもホテルも朝食バイキングに力を入れているらしい。ブラボー! まさに僕にとって、うってつけの旅行先ではないか!
俄然気合を入れてホテルの比較検討を進めた末に、僕が選んだのは函館駅と函館空港の中間ほどに位置する湯の川温泉にあるリゾートホテル。数年前に開業したばかりのそこは、なんと朝食だけでなく夕食までバイキング形式だという。僕は迷わずそこのホテルの朝食夕食付きプランを予約した。もちろん連泊で。

実を言うと、函館自体は既に去年の冬に一度訪問済みだったりする。その際に五稜郭や函館山に赤レンガ倉庫などといった主要な観光地は一通り観光し終えている。そして観光に重きを置きすぎた結果、夕食や朝食といった食事はハセガワストアのやきとり弁当やラッキーピエロのチャイニーズチキンバーガーのセット、あじさいの塩ラーメンなどと外食ないしはテイクアウトで済ませてしまい、ホテルでの食事は取っていなかったのだ。
なので今回の函館旅行は、最初から観光には比重はおかないと決めていた。『私用』と『バイキング』、この二点を全力で満喫する。

さてさて、どんな旅行になるのやら――決意を胸に、僕は函館行きの新幹線に乗り込むのだった。

(長くなりそうなので、分割します)

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