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ひねくれ学生が一度は罹患する、旅先マウンティングという病について

学生にとって、旅先(たびさき)、というのは常に悩ましい問題である。

大学生になるとバイトでお金を貯め、海外旅行を計画できるようになる。
はじめは、憧れの観光地に行きたいという気持ちからスタートするが、
徐々に旅に慣れてきて、友人と旅の話をするようになったりでもすれば、話が変わってくる。
周りの人がまだ行っていないところに行きたい、面白い話をもってきたい、という気持ちが、純な旅への好奇心を蝕んでいく。

所謂、旅先マウンティング、という病気にかかる。
筆者自身、夏にミクロネシアのジープ島を訪れたばかりで、
ミクロネシアの素晴らしい景色(現地で感じたことについては、純な気持ち以外のなにものでもないが)を武器に、2019年は各所で旅先マウンティングをしてきた(意識的/無意識的、両方)覚えがある。

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ある日、数年ぶりに再会した友人と、上野で酒を交わしていた。
その友人とは、高校1年の時トロントでのサマースクールで知り合った。
滞在2週間、二人でよくつるんでいたもので、チャラついた他の日本人の男女グループを小ばかにしながら過ごしていた。
はじめは会っていなかった空白の数年の報告をしあう。
高校の時に感じた”似た者同士”というのは、案外本能的で間違っていないもので、人々の表面的な行動や態度に対して尖っていく姿勢は共通していた。つまるところ、ひねくれ学生である。

ある程度経過報告が終わったところで、旅行の話になった。
ニューヨークの自由の女神が大きくてすごかった!
イタリアの青の洞窟がすごい綺麗だった!
パリでのエッフェル塔が素敵だった!

なんて話は、ご想像の通り、全くない。
東南アジアで遭遇した変な話を、お互いジャブのように繰り出す。
次は中南米とか東欧にも行きたいんだよね。

定番をバカにし、ザ・観光地に対して背を向ける。浅い感動の感想や投稿に対して興味をまったく示さない。
旅先マウンティング患者によくみられる症状である。
基本的な兆候としては以下の2点が考えられる

症状1. 周りの友人が多く行っている場所には行かない
症状2. 旅行の話をする際、変わった場所での面白エピソードばかりを話す

この2つを抑えていれば、あなたは旅先マウンティング患者であると診断される可能性が高い。
もちろん、旅先マウンティングが悪い、とは一言も言っていない。
今やネットに情報が溢れる世の中、写真や動画が巷にあふれていて、いわゆる観光地での出来事は、誰でも頭の中で疑似体験できてしまう。旅先マウンティングが起こってしまうのにも頷ける。

ただ、一通り病状を発露しあった東大生二人が上野で出した結論はこうだ。

なんか、俺たちダサいな(笑)

ニューヨークにも、イタリアにも、パリにも、全部行きたい。
インスタにきれいな写真をあげちゃいたい。
欲を言えば、自撮りもしておきたい。
旅先マウンティング患者であった筆者が、なぜそれを治療できたのか。
続きの話をしようと思う。

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一通り、おもしろ旅行話を終えたところで、別の話題へと移った。

一番相手に勧めたいと思った旅行先はどこ?

筆者は真っ先にミクロネシアと答えた。
ジープ島という南国の孤島での体験を撮った写真と共にプレゼンし、友人も深く感動していた。
このミクロネシアでの出来事は、また別のnoteに詳しく書こうと思う。

友人のターン
友人は、スマホで撮った写真をこちらに向け、ニヤつきながら言った。

恥ずかしいけどね、結局ね、グランドキャニオンよ(笑)

数々の写真を見て、聞いて、感動を覚えた。
なぜなら、巷に溢れる自己顕示欲全開のSNSの投稿、これでもかと加工された写真、面白いことやってますアピールが甚だしい動画などとは違って、
そこには嬉々として思い出を語ってくる友人がいたからである。

そして友人は、今までの会話を総括するようにこう言った。

結局さ、みんなが行ってるところって、やっぱ、すごいんだよね(笑)

思えば、パリでは、地下から出てきて、青空の下そびえたつ凱旋門を見たときは夢中になって写真を撮った。
ハリウッドでは、数々のスターの手形に手を重ねて興奮した。
上海では、バーから夜景を眺めながら思いにふけった。
バンコクでは、おいしいタイ料理に舌鼓を打った。

こうした、たしかに誰もが感じられるかもしれないような思い出たちも、なんら優劣はない。そんなことを改めて感じたのだ。

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上野駅までの帰り道、さっきまで旅先マウンティング患者だった自分たちのことを
”一周回ってダサかったな”
とどこか他人事のように顧みつつ、また旅の思い出を語り合う約束を交わした。

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飲み会から二ヵ月がたち、2020年1月末から、研究の合間を縫って一週間ほど南インドへ一人旅に出向く予定である。
インドでは、下痢や食中毒にかからないように気を付けなければならない。
屋台の料理、水道水、あらゆるところに病原菌が潜んでいる。

でもそれ以上に、再び旅先マウンティングにかからないようにしなければならない。
この病気は、どこに潜んでいるのかわからない。少なくとも、料理や水ではない。
いつどこからともなく気付かないうちに罹ってしまい、発症すると心が荒ぶ。

罹患には細心の注意を払い、帰国後、純な気持ちでインド旅行紀をnoteにしたためたいと心に決めた。
そんな大学院生活である。







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