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2023/5/21 ジャン=レオン・ジェローム《ピュグマリオンとガラテア》

ちょっと体調を崩していて文章を書く気にならず、更新があきました。こういう時のために書き溜めをしておくべきですね……今日はSNSでも話題の作品について紹介します。


ジャン=レオン・ジェローム《ピュグマリオンとガラテア》1890年 メトロポリタン美術館

ジャン=レオン・ジェローム《ピュグマリオンとガラテア》1890年 メトロポリタン美術館

「ピグマリオン効果」という心理学の言葉がある。期待をかけられるとその期待に応答するような成果が得られる、ということらしい。この単語のピグマリオンこそ、この作品で今まさに彫刻から人間へと変貌している女性にすがるように抱きついている男性である。「ピュグマリオンとガラテア」の物語は、オイディウスの『変身物語』に収められている神話のひとつである。ことのあらましはこうだ

彫刻師であったピュグマリオンは、現実に生きている女性に辟易していた。自身の技術を活かして最高の乙女の像を作ったらこれがもう生きてるとしか思えない。次第にこの像に恋い焦がれてしまい、贈り物をしたり着飾らせたりして、周囲にも自分の妻だと主張するほどになった。アフロディテの祭でピュグマリオンは、像のような乙女を娶りたいと女神に祈る。女神はすべてを悟り、像を人間の女性へと変貌させた。

手元にある岩波の「ギリシア・ローマ神話」を相当要約しました。興味のある人は読んでみてください。改めて読むと結構ピュグマリオン気持ち悪いな……現実の女には辟易してたはずなのに結婚願望はあるんかい!みたいなツッコミがないでもない。現代の女性の感覚で読むとガラテア気の毒な気もしてきた。そういった倫理的な話は古代の神々には通用しないのだ。

話を本題に戻す。薄ら寒い神話ではあっても、ジェロームの《ピュグマリオンとガラテア》のドラマチックな美しさは揺るがない。女神アフロディテがピュグマリオンの恋心を悟り、象牙の像の乙女を人間に変えたほんの一瞬をジェロームは描いている。乙女はまだ下半身の多くが象牙のままであるが、ピュグマリオンが手を回している腰や脇はすでに人間で、上半身を捻ってピュグマリオンの接吻に応えており、背中や腕の筋肉の表情で彼女がもう硬い象牙でないことを示している。そしてピュグマリオンの衣服が一方に靡いていることから、彼がいかに歓喜し像に駆け寄ったかが見て取れる。

恋い焦がれた相手との情熱的な一場面。こういうドラマチックさはやっぱり新古典主義が強い。そしてきっちりエコール・デ・ボザールで学んでるだけあって人体スケッチが上手い。身体を撚るガラテアの背中や駆け寄ったピュグマリオンのふくらはぎの筋肉の描写が本当に素晴らしいので、象牙から人間へという超常現象的な状況の絵も不自然に見えない。

ロマン主義絵画のほうが先に好きだったので、新古典主義の絵画って昔は固くて権威的でつまらないなと思っていた。とくに作品例として挙がることの多いダヴィッドの《ホラティウス兄弟の誓い》とか全然魅力を感じなかったんだけど、最近はやっぱり安定した構図やデッサンに裏付けされた作品は画面が完成していて素直にすごいなと思えるようになった。とりわけその中でもジェロームはオリエンタリズムな題材を多く描いているし、《ピュグマリオンとガラテア》も連作で残しており、よりロマンチックな作風なのが好みの理由かもしれない。ダヴィッドよりアングルのほうが好きなのも同じ理由かも?

こうやって1つずつ好きな作品を挙げていると自分の好みの傾向とかがわかって面白い。ちょっとサボっちゃったけど、このシリーズはなるべく続けていきたい。

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