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2023/9/7 クリスチャン・ディオール 《ディナー・ドレス「カラカス」》

さすがに毎日コンスタントに更新するのは難しい……。でもなるべく間をあけないように頑張りたいです。
ついに本日は絵画じゃなくなりました。実は自分の研究対象はファッション文化だったので、今日は好きなドレスについて語りたい。


クリスチャン・ディオール 《ディナー・ドレス「カラカス」》1953年 島根県立石見美術館

クリスチャン・ディオール 《ディナー・ドレス「カラカス」》1953年 島根県立石見美術館

このドレスはあのクリスチャン・ディオールによるデザインのディナー・ドレスで、ベネズエラの都市の名前がつけられている。
デザイナーのクリスチャン・ディオール(メゾンの名前と紛らわしいのでここからはメゾンの創設者でデザイナーの彼をムッシュ・ディオールと呼ぶ)が栄光のさなかに亡くなるのが1957年なので、かなり晩年の作品と言える。

赤い花模様の絹シフォンに細かくプリーツが寄せられ、裾をアシンメトリーにすることで情熱的ながらも軽やかでフェミニンなイメージに仕上げられている。

この作品は、名前の通りベネズエラにディオールが出店したのを記念して発表された。クチュールの都パリから遠く離れた南米にも「ディオール」というメゾンがいかに熱狂的に受け入れられたかを物語るドレスである。

このドレスを最初に見たのは、パナソニック汐留ミュージアムで2016年に行われた『モードとインテリアの20世紀展』でのことだった。サンローランやシャネル、バレンシアガといった20世紀を代表し、今も連綿と運営の続くビックメゾンの立役者たちが直々にデザインしたドレスが並んでいた。

正直なところ、私はさほどディオールのスタイルは好きではない。戦後のニュールックにシャネルが憤慨したように、ムッシュ・ディオールのスタイルというのは「華やかな女性らしさ」を過剰に押し出していると感じる。クリノリンなどの女性の身体や行動を妨げるような衣服の再解釈でしかない、という指摘は妥当に思える。

その証左に、ムッシュ・ディオールの描いたデザイン画の身体は異常なまでに砂時計型である。先に東京都現代美術館で行われたディオール展に足を運んだ際、ムッシュの描いたデザイン画も複数展示されていたが、すべてと言っていいほど女性の身体は砂時計型だった。胸が強調され、ウエストが引き絞られた身体に膨らむスカートというムッシュ・ディオールのスタイルは現代女性として生きる私には受け入れ難いものだと思ってしまう。
(超余談であるが、「女性らしさ」を前面に出したディオールの商品が「パパ活」などの過剰に女性であることを強いる行為の代名詞のようになっているのは興味深い現象だと感じている。)

2023年ディオール展にて ムッシュのデザイン画

そうした「女性らしさ」を全面に出したものはあまり衣服では好まないので、《カラカス》を「このドレス好きだな〜」と思ってキャプションをよくよく見たらディオール、しかもムッシュによる作品だと知って結構驚いた。

かなりの数のドレス、しかも20世紀前半が研究対象だったのでそこに絞って作品数を見ているので、キャプションを見る前に大体どのデザイナーのドレスかわかるようになってきたが、2016年はまだファッション文化に足を踏み入れたばかりでそういった見分けがつかなかったというのもある。

ディオールのドレスって、なんだかきちんと上質なハイヒールを履いて、小さめのバッグを持って、ヘアメイクもしっかりしていないと釣り合わないような作品が多い。しかし、この《カラカス》のドレスにはディオールらしからぬ何か迸る情熱のようなものを感じた。

《カラカス》には、髪も結ばずにノーメイクのまま、裸足で南米の熱気の中を駆け抜けても良いような軽やかで自由な熱さがある。もちろん小ぶりなパフスリーブやウエストマークのベルト、そしてたっぷり取られたスカートの布にいつものディオールらしい女性らしさもある。他のディオールのドレスはいつも展示室で静止した状態で完成しているが、私は《カラカス》の動いているところが見たい。

あと何よりも嬉しいのが、このドレスを所蔵しているのが日本の美術館という点だ。島根県立石見美術館は、ファッション研究の分野では有名な施設で、国内でも有数の衣服の所蔵数である。昨年亡くなった森英恵氏が島根県出身なことからこの美術館ではファッションをコレクションの1ジャンルとして扱っている。所蔵作品には数えきれないほど出くわしているが、美術館自体には行ったことがないのでぜひ今度訪れてみたい。


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