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2023/5/25 ルカス・クラナッハ(子) 《アンナ・フォン・デーネマルク》

このシリーズは私が愛してやまないゲーム「どうぶつの森」と同じく、午前5時まで同日制を採用しています。なので、今日の回も余裕でセーフです。今回はちょっと志向を変えて北方からご紹介。

ルカス・クラナッハ(子) 《アンナ・フォン・デーネマルク》1565年 ウィーン美術史美術館

ルカス・クラナッハ(子) 《アンナ・フォン・デーネマルク》1565年以降 ウィーン美術史美術館

クラナッハはルネサンス期にドイツで活躍した画家で、父子で画家だったために(父)と(子)で区別される。ルネサンスといえばイタリアというイメージがどうしても強いが、ドイツやベルギーのあたりは油彩画の技法が発達した土地で美術史上では「北方ルネサンス」と呼ばれる。ヤン・ファン・エイクやデューラーといった北方の巨匠が活躍するのもこの頃であり、クラナッハもまた、北方で強い人気を誇った画家である。

クラナッハについて知らなくても、世界史選択であればきっとクラナッハ(父)の描いた、宗教改革の立役者マルティン・ルターの肖像画は見たことがあるかも知れない。

ルカス・クラナッハ(父) 《マルティン・ルター》1529年 ウフィツィ美術館

本日取り上げた作品《アンナ・フォン・デーネマルク》は、夫婦で一対を成す肖像画である。夫である《ザクセン選帝侯アウグスト》の肖像画と一緒に飾られることが多い。

アンナ・フォン・デーネマルクは、デンマーク王の娘として生まれ、ザクセン選帝侯に嫁いだ。名前のデーネマルクは「Danmark」なので、彼女の出自が伺える。作品の詳しい制作年代がわかっていないが、少なくとも彼女が30代以降の作品である。夫婦で揃いの黒い衣装に身を包んでおり、落ち着いた雰囲気がある。しかし、随所に施されている刺繍が大変豪華である。とくにドレスの裾の刺繍は金糸だったのか、絵のほうでも金彩で描かれ実際に見るとチラチラと光りとても美しかった。本物の刺繍かと見紛うほどの繊細さで圧倒された。

例えば、以前取り上げた《侍女に囲まれたウジェニー皇后》に出てくるような色鮮やかで豪奢なドレスが大好きで、それに比べて北方はあまり華やかな印象はなかったが、《アンナ・フォン・デーネマルク》は、そんな地味な印象のあった北方ルネサンスの印象を変えてくれた作品である。見るからに上等な重たそうな生地に、果てしない時間を描けて施された刺繍。よくよく見るとクラナッハ父子の描く女性の服は大変豪華である。くどいほどの金彩や細かいスラッシュ、重たそうなアクセサリーが沢山描かれる。最たる例がサロメの作品たちだろうか。

私が色の印象だけでそう判断していただけで、実のところ北方ルネサンスの作品に出てくる服飾は大変豪華である。ヤン・ファン・エイクの作品などは、装飾が少ない布でもそのドレープの多さからかなりの面積を贅沢に使っているものだとわかるし、デューラーの作品の宝飾品は重厚なのに繊細でかなり凝っている。「暗くて硬そうでなんか苦手かも」と思っていた北方ルネサンスが大好きになった。クラナッハの作品は元々薄気味悪い部分が好きだったが、私の美術史的興味を広げてもらった。感謝しかない。

なんか思ったような作品じゃないな、とか、これはあんまり好まないのでは?みたいな時代というのは、美術と接していると必ずある。ただ、それはもしかしたら何かのきっかけで変わるかもしれない。もしこのシリーズの文章が、そうした鑑賞体験や切り口を広げる一助になっていたら嬉しいと思っていたりする。



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