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2023/05/15 サンドロ・ボッティチェリ《春》

色々あって時間ができたので、書く練習も兼ねて自分の好きな作品について簡単にまとめていきたいと思う。ここ数年はとくに、好きかどうか以外の視点で作品を考えなければならないことのほうが多かったので、鑑賞の最初の感情を思い出すためでもある。美術史的な薀蓄はあってもこのシリーズにアカデミックな裏付けは全くない、完全に趣味の文章です。

サンドロ・ボッティチェリ《春》 1477-78頃、ウフィツィ美術館

サンドロ・ボッティチェリ《春》 1477-78頃、ウフィツィ美術館

最も好きな作品は何か?と思ったときにやっぱり真っ先に《春》が思い浮かんだ。なので奇を衒わずにこの作品について話をしたいと思う。

私がこの作品と最初に出会ったのは幼稚園のときだった。大型本に載っていた作品を見て一瞬で惚れ込んでしまった。この本にはボッティチェリの他の代表作である《ヴィーナスの誕生》や《東方三博士の礼拝》、《受胎告知》も掲載されていたが、私が最も心奪われたのはこの《春》だった。典雅なるヴィーナスの庭園の風景。

この作品の中でも私が特に愛してやまないのがダンスを踊る三美神である。女神の足元で跳ね返る薄衣、身体に巻き付くドレープの流れの美しさは、数え切れないほどの作品を見てきた今見ても、改めてしみじみと本当に好きだなぁと思う。薄衣のドレスとは対照的な重厚なアクセサリーや丹念に編み込まれた髪型もまた素晴らしく、今より乙女趣味全開であった幼少期の自分の憧憬を掻き立てるには十分だった。

人生で一度は必ずこの作品をこの目で見たい!と強く意気込んで美術史の世界に足を踏み入れた20歳の夏、念願叶いウフィツィ美術館を訪問することができた。
実際に作品の目の前に立ったとき、自分の足元まで庭園が広がり、庭園の主であるヴィーナスが笑いかけてくれたような気がした。これは作品の前に立ったからこそ得られる感覚であり、最初にこの作品を見たメディチの人々もきっと同じように、「ヴィーナスが自分に笑いかけている」と思っただろうと直感的に理解出来た。

2015年 ウフィツィ美術館にて 画質の悪さが年代を物語る

今や重たい画集を開かなくても作品は見られるし、思いのままに作品をズームアップできるし、複製されたイメージをコレクションすることも容易で、その恩恵に私も大いに預かっているけれど、やっぱり作品は実際に目の前に立って見たいという鑑賞の原初に立ち返らせてくれるのもまた《春》である。

《春》は私にとって最も大切な作品で、あまりに「美術」「ルネサンス」でベタだなと思うけど、こうやって色々書き綴りながら、「好きだなぁ」と何年経っても思える作品があることはとても幸福なことだと感じている。また、きっと今までたくさんの人々が「好きだなぁ」と思えた作品だからこそこうして何百年も後まで保存されているのであり、たった1枚の板絵がここまで人の心を動かすことができる「芸術の力」に思いを馳せざるをえない。そういった意味でもやはり《春》は私にとって根源的な作品である。

ちなみに、ウフィツィ美術館では三美神が身につけている装飾品からインスパイアされたアクセサリーが売っていたのだが、貧乏旅行で買える金額ではなかったのでその時は泣く泣く諦めた。次回は絶対に買いたい。




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