人間の条件

2019年、東京大学在学中にZRによって立ち上げられた演劇団体。「それなしには人間が生…

人間の条件

2019年、東京大学在学中にZRによって立ち上げられた演劇団体。「それなしには人間が生きていくことのできないもの」をコンセプトに舞台作品を上演する。noteでは公演に向けた文章や寄せられた批評を掲載。

マガジン

  • The Human Condition

    2024年9月に上演するThe Human Conditionのために書かれた記事をまとめています。

  • 条件の演劇祭vol.1-Kabuki

    条件の演劇祭vol.1-Kabukiのために書かれた文章のまとめです。

  • 母の誤謬シリーズ『巣』

  • 番外公演Vol.1『絶触』

  • 第二回公演『リトル・ブリーチ』

最近の記事

「この作品は植松聖を救う作品になっていないか?」(ある日の鈴木励滋さんとの議事録より)

いよいよ来週末に本番を迎える人間の条件『The Human Condition』。本作では、生活介護事業所カプカプの元所長であり、演劇ライターでもある鈴木励滋さんに、アドバイザーとして参加してもらっています。特に立ち上げ期には脚本・演出のZRと鈴木さんとの間で定期的にミーティングを行い、ZRが気になっていること、つまづいていることについて逐一相談しながら作品作りを進めました。 今日の記事では、作品の基本的な構想が出来上がってきたころの、ある日の議事録から、二人のやり取りをピッ

    • 『The Human Condition』のキャスティングについて

      人間の条件『The Human Condition』では、2人の障害のある俳優に参加してもらっています。津久井やまゆり園事件を扱った作品を作る上で、障害というものを自らのものとして抱えている人に参加してもらい、私たちの当たり前を揺さぶってほしい、という思いがあったからです。 一人は野澤健さん。bug-depayseのメンバーで、軟骨無形成症(低身長症)のある俳優です。また、脳出血による左半身麻痺の中途障害があります。bug-depayse主宰の宗方勝さんが、今回の人間の条件

      • 演出ノート

         5月、6月に行った全3回のリサーチ発表の中で議論された、『The Human Condition』の土台となる3つの考え方について共有します。 ①能力主義津久井やまゆり園事件では、「意思疎通の取れない者には生きる価値がない」という基準のもと、19人の知的障害を持った人々が殺害されました。 『The Human Condition』においては、この犯行の土台にあるのは「能力主義」という価値観だと捉えています。 「何ができるか」によって命の価値を測る、普遍的な考え方の先に

        • あらためて、なぜいま『やまゆり園』なのか?

          5・6月に行われた3回のリサーチ発表を終え、3か月の稽古期間のうちの2か月が過ぎ、作品が形を成してきている。俳優の体を通じてこの作品が立体化される中で、予想もしなかった自分自身の感情の動きに触れることもある。どのようにしてシーンを思い付いて書き進めたのかなど、作品の制作過程のことはもうすでに忘れかけている。しかし、はっきりと分かるのは、多くの人々との出会いと協力なしにはこの作品をここまで作ることはできなかっただろうということだ。前回の文章でこの事件と向かい合うことを発表してか

        「この作品は植松聖を救う作品になっていないか?」(ある日の鈴木励滋さんとの議事録より)

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        • The Human Condition
          8本
        • 条件の演劇祭vol.1-Kabuki
          2本
        • 母の誤謬シリーズ『巣』
          3本
        • 番外公演Vol.1『絶触』
          4本
        • 第二回公演『リトル・ブリーチ』
          4本

        記事

          第3回リサーチ発表レポート 〜『The Human Condition』にむけて〜

          演劇団体・人間の条件は、2024年9月に新作『The Human Condition』を上演します。 当作品は津久井やまゆり園事件を題材にしています。2016年7月26日未明、神奈川県相模原市にある知的障害者福祉施設の入所者19名が、元職員であった植松聖によって殺害されました。 作品制作の事前準備として、リサーチ発表というオープンな場を3回に分けて用意してきました。 各時点でのリサーチ内容を共有するとともに、来場者の皆さんと対話をすることによって、事件の社会的背景として何が

          第3回リサーチ発表レポート 〜『The Human Condition』にむけて〜

          第2回リサーチ発表レポート ~能力主義に抗するために~

          はじめに人間の条件は、津久井やまゆり園事件を題材にした新作『The Human Condition』(2024年9月発表予定)に向けてリサーチを進めています。 そのうえで、リサーチ内容を都度共有し、開かれた対話の中でさらに理解を深めるための連続企画を行っています。 5月4日の第1回に引き続き、6月1日には第2回リサーチ発表を行いました。 会の構成は大まかに以下の通りです。 前半:人間の条件主宰・ZRによるリサーチ発表 後半:参加者全員での座談会 この記事では、第2回で行わ

          第2回リサーチ発表レポート ~能力主義に抗するために~

          第1回リサーチ発表レポート ~能力主義の終末点としての「津久井やまゆり園事件」~

          はじめに人間の条件は、津久井やまゆり園事件を題材にした新作『The Human Condition』(2024年9月発表予定)に向けてリサーチを進めています。 ※『The Human Condition』の制作に先立って先日公開した、脚本・演出のZRによる覚書はこちら。 また人間の条件では現在、リサーチ内容を都度共有し、開かれた対話の中でさらに理解を深めるための連続企画を行っています。 5月4日におこなわれた第1回リサーチ発表では、人間の条件のメンバー2名(ZR・野田帰

          第1回リサーチ発表レポート ~能力主義の終末点としての「津久井やまゆり園事件」~

          なぜいま『やまゆり園』なのか?

          2020年3月16日、植松聖被告に死刑判決が言い渡された。「計画的かつ強烈な殺意に貫かれた犯行であり」「動機の形成過程を踏まえても酌量の余地は全くなく」「死刑をもって臨むほかないと判断」された。 19の命を奪った者に対する判決としては、現行の刑法上これ以外の判決はあり得ないだろう。裁判で議論された責任能力についても、疑いなく「あった」のであり、被告当人もそう判断されることを望んでいた。 「頭がおかしければ無罪という理屈は間違っています。心神喪失者こそ死刑にすべきです」 判

          なぜいま『やまゆり園』なのか?

          条件のスケッチとは?企画の経緯と現在

          人間の条件は「条件のスケッチ 2023」というイベントを11月11日(土)、11/12(日)に開催します。 人間の条件として、初めて行う「イベント」です。 それってつまり、何をやるのか。そもそも、なぜ今「イベント」をやるのか。このnoteでは、そういった疑問を整理し、条件のスケッチが目指す体験を伝えるべく、本企画の経緯と、コンセプト、そして開演1週間前の現状を書いていこうと思います。 書き手は、人間の条件で広報を担当している近江諒哉です。 人間の条件には第一回、第三回、番

          条件のスケッチとは?企画の経緯と現在

          『桜の森の満開の下』演出に臨んで(書き手:ZR)

          美しいものは、恐ろしい。 この命題は、その意味を理解するのが簡単な一方で、それを現実のものとするのは全く簡単ではないと思います。 しかし、僕はこれを見てみたい。 今回の『桜の森の満開の下』では、舞台の上にこの風景が現れることを目指します。 この作品での「美しいもの」とは桜のことです。ただし、原作では「桜の森は涯てがなくて恐ろしい」ということは繰り返し語られますが、直接的に「桜は美しい、それゆえに恐ろしい」とは語られません。頭の中にある桜の美しさをあまりに自明に感じてしまう

          『桜の森の満開の下』演出に臨んで(書き手:ZR)

          新作試演会『桜の森の満開の下』出演者コラム / 黒橋拓

          同じく桜がモチーフになっている作品に、梶井基次郎の『桜の樹の下には』という短編があるのですが、僕はこれを大変気に入っています。 どう気に入っているかというと、とにかく口に出して読むのが気持ちいいんです。演劇を始めて少し経った頃に出会って、それから事ある発声練習の度にこの作品をそらんじています。「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」という書き出しからもう最高です。 すぐ読めるしネットにあるのでぜひ調べてみてください。 今回の『桜の森の満開の下』は2か月前くらいに初めて読み

          新作試演会『桜の森の満開の下』出演者コラム / 黒橋拓

          新作試演会『桜の森の満開の下』出演者コラム / 樽見啓

          脚本を読むと映像のイメージが頭に湧き、大体それは自分が見たことのある映画、劇、何かの光景だったりがベースになっているので、ならば、と見てきたいろんなシーンをもっと思い出してイメージを具体的にします。 思いだしたおもしろい映画を今自分が向かっている劇にくっつけてくっつけて、どんどん名作で補強して、そしたら「これは面白い!」、「これは良いねえ!」と傑作が出来上がり、ひと段落して、タバコに火をつけて息をつきます、ふう、やりきった。実際にセリフを読む前に。本番、劇が出来上がる前に。

          新作試演会『桜の森の満開の下』出演者コラム / 樽見啓

          新作試演会『桜の森の満開の下』出演者コラム / 野田恵梨香

          長生きしたい派の野田恵梨香です。 長生きしたいと思うのを、生への前向きさがいいねと言ってもらえたこともあるけど、 純粋にそれだけじゃなくて、何も為さずに死ぬのが怖いから生きたいという負の感情もあったりします。 どうすれば立ち向かえるかなと考えたりして、人生の目標を最近2つ決めました。 一つ目は、何歳になっても、できるだけずっと俳優を続けていくことです。 とある90代の俳優の方が、「この歳になって初めて見えてきたものがある」と仰っていたという話を聞きました。 私もそれを見てみ

          新作試演会『桜の森の満開の下』出演者コラム / 野田恵梨香

          『四谷心中』解題(条件の演劇祭vol.1-Kabuki『四谷心中』にむけて)

          『四谷心中』は、実はすでに二度上演されています。 一度目は僕が所属していた劇場創造アカデミーの成果発表として座・高円寺地下の稽古場にて、二度目は昨年11月に行ったワーク・イン・プログレスとして東大駒場キャンパスの路上にて。 昨年11月にワーク・イン・プログレスを行ったのは、劇団にとって大きな意味を持つ今回の演劇祭の準備を早いうちに始め、後悔の無い作品を上演せねばならないと考えたからです。 しかし、異なる空間で異なる俳優と作るため、作品はどんどんと変わり、新しい挑戦をせざる

          『四谷心中』解題(条件の演劇祭vol.1-Kabuki『四谷心中』にむけて)

          歌舞伎について(条件の演劇祭vol.1-Kabuki『四谷心中』にむけて)

           高校生の頃に何の知識も持たずテレビで見た歌舞伎は、言葉もよくわからないし話し方もゆっくりすぎてあまり聞いていられないし、自分が作る演劇とは遥か遠くにあるもの、「格式」を持った「伝統芸能」ととらえていました。ある意味で、美術館、あるいは博物館の中で鑑賞するようなものとして考えていたのです。  時が経って、いくつかのリアルな(生活に近い)言葉と体で構成された作品を作っていったのち、どこか行き詰まりを感じるようになりました。自分が作りたいもの、つまり「ドラマを抱えた美しい風景」

          歌舞伎について(条件の演劇祭vol.1-Kabuki『四谷心中』にむけて)

          人間の条件 母の誤謬シリーズ『巣』について(書き手:榎本純)

          はじめまして、劇作家もしている榎本純です。 風雲かぼちゃの馬車の重信くんと同じように、主宰のZR君から文章をお願いされました。形式は自由というので、作品を観て、感じた気持ちを、素直に書いていこうと思う。 まず、とても面白かった。 最近ではあまり観るようで観ない、喜劇になれなかった僕たちのストーリー、だった気がする。 つまり、ストーリーがあるようで、あまりないのだ。 希望もない。頑張れない。そのまんま、先がない人達。ハッピーエンドにも、バッドエンドにもならない。言うなら、ずっ

          人間の条件 母の誤謬シリーズ『巣』について(書き手:榎本純)