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ニッポン・サブカルチャの過去と未来 ~第壱廻 ポストデジタル・アート~

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"Return of the Machine God -機神再臨-"(Red Warrior ver. 3D printed)
2019  フルカラー3Dプリント(Full color 3D print) supported by Mimaki Singapore

ポストデジタル・アーティストの小林武人です。今回は初の投稿なので、まずは自己紹介から始めたいと思います。僕は大学の頃からCG(コンピュータ・グラフィック)のソフトを使い始め、東京工科大学クリエイティブ・ラボ、アニメ会社のGONZOを経てフリーランスのCGデザイナーになりました。色々経緯を経て今はシンガポールに住んでCG/VRなどを制作する会社をやっています。2011年に起こった東日本大震災の後は自分の持っているCGのスキルをアートの制作に活かして行こうと決めました。「世界や社会を変える!」というような大それたことは思っていませんが、自分のアートやアートを制作する過程を通じて、社会やコミュニティに少しでも貢献したり、僕という切り口から見た日本の文化、縄文から現代のサブカルチャまでを、より多くの世界の人たちに知ってもらいたい、また日本人にとっても自国の文化を再認識するキッカケになればと思って作品を創り続けています。
歴史の中で生まれてきたどんな大きな国家、帝国もかならずその成熟期を経て斜陽の時代を迎えます。経済大国として世界トップクラスだった日本も今は人口減少の時を迎え、経済偏重の近代的な考え方から抜け出さなくてはならない、大袈裟にいうと亡国の危機を迎えています。自分の国の文化を見直し、より成熟したゆったりとした国をめざしていくことがこの危機をチャンスに変える良い機会なのではと、僕は考えています。このコラムでは海外から見た日本文化や、僕の作品、そしてその根底となっている考え方などを少しずつシェアしていけたらいいな、と思ってます。

【ポストデジタル・アート】

まずは僕が肩書きにしている「ポストデジタル・アーティスト」を切り口にしていきます。ポストデジタル(アート)というタームは一般的にはまだ馴染みが薄いかもしれません。2017年にオーストラリア、シドニーを訪れた際に「out of hand -materialising the digital」という展示がMAAS(Museum of Applied Arts and Sciences /応用芸術科学博物館)で行われているのをたまたま見かけ、「これは!」と思い入ってみました。平日の閉館間際の展示には全く人がおらず、今までweb上の写真でしかみたことがなかったアーティスト/デザイナの作品を生で堪能できました。
3Dプリント、レーザーカッター等々デジタル機器を駆使し、ファッションとテクノロジを融合し続けているIris van Herpen (Iris van Herpen)、3Dスキャンしたアーティスト自身の全身を3Dソフトでディフォームし、波打った形状のセルフポートレートを作るRichard Dupont (Richard Dupont)、3Dプリントしたコップと、3Dプリントの元となっているコップの3Dデータを2進法で記述したものを紙にプリントし(かなりの量の紙の束)並べて展示するというコンセプチャルな作品のKijin Park (Kijin Park | Visual artist Kijin Park | 대한민국)、等々そうそうたるメンバーでした。図録によると「out of hand」展は2013年にニューヨーク、Museum of Arts and Designで行われたものを新たにキュレーションし直した展示とのこと。2013年といえば僕が初めて3Dプリントで作品を制作、展示した年なので、”ポストデジタル”というコンセプトに関しては海外に大分先んじられているなという印象を受けました。

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左)Iris van Herpen (source)SYNTOPIA RUNWAY LOOK17
中央) Richard Dupont (source)Frameweb.com
右) Kijin Park Who this am, 2014 Paperm 3D Print, PLA Filament (source)

では、”ポストデジタル”とは何か?ということになりますが、人により解釈は異なると思いますが僕の定義は

◯当然ですが、デジタルツールを使っている。3Dプリントをはじめとし、CNC、レーザーカッター、デジタル・ニッティング等手法は多岐にわたります。
そして…
◯デジタルツール/テクノロジの特性を理解し、それが結果としての作品/形状に反映されていること。MIT教授のNeri Oxmanがストラタシスのプリンタを使ったvoxcel printという3Dプリントの手法自体を開発し、その手法でなければ作り得ない作品を創造したことが良い例です。(Researchers Develop Multimaterial Voxel-3D Printing Method) 3Dプリント自体を製造してる会社さんも想像しなかった、ナナメ上の手法でアーティストがデジタルツールを使用している、というところでしょうか。

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”Acalanatha 不動明王(Fudo-myo-oh)”
2018 フルカラー3Dプリント(Full color 3D print) supported byホタルコーポレーション(Hotaru Corporation)

そしてもう一つが非常に主観的な話ですが

◯デジタルツールというヴァーチャル(身体性の欠如)なモノに対してアーティストがフィジカルな繋がりを持っていることです。

本来アートとは技術のことです。目には見えないもの…、エネルギーの流れ、人の繋がり、愛や平和、その他様々のコンセプトを目に見えるカタチに落し込むためのテクノロジです。伝統的なアート、絵画、陶芸、彫刻においてはマテリアルとの対話が欠かせないものでした。例えば、陶器を作るときには“土”というマテリアルがあり、その強度、粘性と重力のバランスにより形の枠が決まってきます。手、指先を通じた土というマテリアルと対話というフィジカルな行為により作品に“魂”が吹き込まれるという、アニミズム的な考え方でした。それに対して“デジタル・アート”の特徴は「身体性の欠如」と言えます。僕が行う3DCGソフトを用いての立体物制作工程は完全にヴァーチャルなものです。ヴァーチャルな空間で作品制作を行うことにより、既存のアートがかならず直面しなければならなかった“重力”と“マテリアル”の限界から開放された造形を行うことができます。もちろん3Dプリンタを用いて作品をマテリアライズすれば重力の制限をうけることになるのですが、制作の段階で重力に囚われるということはないのです。この自由な場を作品として発表するには映像か画像、2D的な手法しかありませんでした。しかし、3Dプリントを始めとするデジタル機器=新しいアートのツールのおかげで、ポストデジタル・アーティストは自由にアナログとデジタルを行き来する越境者となったのです。身体性のないデジタルツールに“魂”的な、アニミズム的な感覚を持ちうる、マシンにゴーストが宿るという感覚がポストデジタルなのだ、と僕は考えます。

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”the NamelessOne"
2020 フルカラー3Dプリント(Full color 3D print) supported by Mimaki Singapore

プロフィール

小林武人プロフィール


小林 武人 ポストデジタル・アーティスト
ARTSTATION
Instagram ID @humanoise

NPO法人JOMONISM 代表
https://humanoise.artstation.com
慶應義塾大学 環境情報学部卒。東京工科大学クリエイティブ・ラボ、株式会社ゴンゾを経てフリーランスに。現在は“ポストデジタル・アーティスト”として、CGや3Dプリント等のデジタルツールを“筆”として使いこなし、立体作品から映像まで幅広く制作。海外でも積極的に活動しており、美術家 坂巻善徳 a.k.a. senseとのコラボレーションプロジェクト“XSENSE”では、デジタル作品をストリートアートに活かし、ミューラル(壁画)を制作(コロラド州、デンバー)。また、独自の世界観のアニメーションを舞台美術として使い、コンテンポラリー能劇団とコラボレーションで公演も行った(サンフランシスコ、デンバー)。
自身の作品制作の他に、NPO法人JOMONISMが行う”ARTs of JOMON”展のキュレーションも担当。縄文文化から影響を受けた現代美術作家を世界に紹介し続けている(青森県立美術館、スパイラルガーデン、デンバー国際空港、クアラ・ルンプール等)。
目に見えないモノ、感情、エネルギー、意識の次の次元…等をカタチにすることがミッション。
現在はシンガポール在住

職歴・作品履歴(抜粋)

2004年
TVアニメーション「岩窟王」:背景デザイン、モデリング担当
2005年
スズキ「バーグマン」WEBプロモーション:バーグマン、モデリング担当
2007年
NHK アニ・クリ「火男(ヒョットコ)」:デザイン、モデリング担当
2012年
「MYSTICAL ABYSS」
アメリカ、サンフランシスコ、コンテポラリー能劇団Theatre of Yugenの公演、Mystical Abyss でオリジナルアニメーション制作、ライブプロジェクション担当
2013年-
アメリカ、デンバー、Art Across Cultures, Hope Onlineなどと共同で公演に参加。デンバーアート・ミュージアム等でアニメーションのプロジェクションを担当
2014年
2月 NPO法人JOMONISM企画「ARTs of JOMON展」@青森県立美術館、キュレーション担当
5月  シンガポール南洋工科大学3DPコンペティション参加。カンファレンス招待
11月 企業コラボーレションアート参加:オークリーストア原宿店にて作品展示
2015年
1月 NPO法人JOMONISM企画「ARTs of JOMON展」@スパイラルガーデン、キュレーション担当
2017年
“ARTs of JOMON -Hyper Subculture-” 展 キュレーション担当
伊勢丹 the ジャパンストア、クアラルンプール、マレーシア
2018年
”YouFab Exhibition - Imagination Manifests”@青年廣場 HongKong “More Than Human”プロジェクト、3Dプリント義足を展示
2019年
グループ展『童心』出展 銀座ホワイトストーン・ギャラリー
2020年
「Lights to the Night」アーティストに選出。シンガポール、アジア文明博物館にプロジェクション・マッピング

受賞歴等

オリジナルアニメーション『祭』(2010)
シーグラフ・アジア アニメーションシアター入選
YAOYOROZシリーズ『薬師如来』(2013)
3Dプリント用3DCG作品。日本図学会モデリングコンテスト、入賞
『SC1-EXP』(2014)
3Dプリント作品に映像をプロジェクション・マッピングしたインタラクティブ作品。
逗子国際プロジェクション・マッピング・フェスティバル、グランプリ
More Than Human『type-Unicorn』(2015)
3Dプリント義足。Ufab Global Creative award、ファイナリスト
“Eisen Herz”(2016)
構造計算を用いた3Dプリントミニ四駆カヴァー
Ufab Global Creative award、ファイナリスト

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