Lifetime Recipe~ & landscape:Page.01-2


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 神奈川に入った。それから川崎を通り過ぎて、横浜に入ると、少し長閑な風景がちらほら増えてきた。交通量もそこまでじゃない。けど道幅はちゃんと確保されている。
 けどまだまだ止めて営業できるような区画じゃない。もっと山間に進めてみようか、と、やや西に方向を変える。
 次第に高いビルや車よりも自然が多くなってきた。田んぼも畑もその割合を増す風景になってきた。メレンゲを作るときのようなグラデーションみたいに、けど着実に風景が変わっていくのが面白くて車を走らせすぎたかもしれない。気づけばもう3時間以上走っていた。仕込みも考えれば、もう少しでちょうどアフタヌーンティーの時間だ。いわゆるおやつの時間。
 暖かいせいか、人もそこそこ出ているような河原の側道を見つけた。大きい川がゆったりと流れている。ランニングしている人や、犬の散歩している人、ちょっと早めなのだろうか、下校している学生ちらほらもいる。道幅的にここなら、道に乗り出さずに車を止められそうだった。道脇が平な土手になっているところを探すため、端から曲がって少しだけ進むとすぐに見つかって、寄せて止める。
 まずは、キャンピングカーをきちんと止める。サイドブレーキガッチリ引いて、前後の車両への車止めもしっかり。万が一にも自走しないように。次にキッチンカーにも同じ処理をする。走行中はブレーキは解除しているから同じくガッチリサイドブレーキ引いて、車止め。
 エプロンとバンダナをして、入念に手洗いをする。これで自分の準備は一旦OK。
 次は庇を開く。ペインティングされた店名がカウンター窓の上にちょこんと乗っかっている。走行中は車両の両側面にデカデカと書いてあるけど。
 次は火を入れてお湯を沸かす。沸くまでの間に立て看板を設置したりキャンピングカーを開放したりしてみる。折り畳み式のカウンターを開放して、メニュー設置もOK。簡易スピーカーで申し訳程度にBGMをON。特段大袈裟に拡声器とかで宣伝するつもりはないけど、一応フライヤーもカウンター端に積み置く。その上に、お土産用の小さいお菓子を数種類。キッチンカーから簡易的なテーブルと椅子を4脚組み立てて、キッチンカーの後ろに広げる。一応のイートインスペース。日差しも強くないから、パラソルはいらないだろう。
 そんな準備を進めている間にも、通行人は物珍しそうに一瞥して行った。河野あたりではあまり見ないのかもしれない。
「そりゃそうかも、かぁ」
 と、独り言が口をついて出た。
 外側の準備は一旦終わって、キッチンカーに乗り込むと、ちょうどお湯が沸いたところだった。
「よし」
 と、ドリップでコーヒを入れる。自分の分と、もし売れたら分で、まずは5杯分。一杯150円でコンビニのMサイズくらい。
「……ぃよしっ、と」
 次は家で作り終えてきた冷蔵庫の中の在庫をチェック。アフタヌーンはケーキ4種とお茶のセット。飲み物は紅茶のアールグレイ、ダージリン、各レモン、ミルク、ストレート。そのほかにも数種類。フレーバーティもあるし、ジャスミンもある。ジャスミンは趣味。にコーヒー。これはアイス、ホットOK。カフェオレもできる。あとはココアにフレッシュジュース3種。オレンジとアップルとグレープ。あと冷凍してあるオニオンとポタージュのスープラインナップ。これはモーニング、ランチ、アフタヌーン、ディナー共通。コーヒーや紅茶などの飲み物は次々に沸かすお茶からポットに移して作り置きする。
 そうしてカウンターの内側に張り付いていつお客さんが来てもおかしくないように、どんな注文にも対応できるように細かい準備をしていると、声がかかった。開店から30分ぐらい経ったときだった。
「あのー…」
「はい!」
 正面から声をかけられた時は、思いっきり紅茶のポットにお湯を注いでいた。
「えっと……1人ですけど、注文いいですか?」
 下校途中だろうか。女子高生だった。
「あ、ありがとうございます。お好きなメニューどうぞ」
「えっと、チョコケーキひとつと、アールグレイのミルクティで」
「はい。ミルクティはホットでよろしいですか?」
「はい」
「ありがとうございます。お持ち帰りになりますか?後ろのベンチと、キャンピングカーの中でイートインもできますよ」
「あ、じゃあベンチで頂いていきます」
「はい。ではお会計済んだら座ってお待ちください。お持ちしますね」
「わかりました」
「450円になります」
 粛々と会計を終えたその子はベンチに座って携帯をいじり出したようだった。
 ダージリンはもうできているし、ロイヤルじゃないのがごめんだけど、ミルクを注いでマグカップ完成。ケーキは冷蔵庫に作り置いてあるので、そのままGO。提供まで5分なんてかからない。
「はい、お持ちしました。ごゆっくりどうぞ。
「ありがとうございます、お姉さん。え?ケーキ、これで300円ですか?大きいですね。もっとちっちゃいと思ってた」
「そうですか?あ、小さい方がよかったですか?」
「あ、いえ、お得だなーと思って。美味しそう。いただきまーす」
 と言って彼女は一口分をフォークで掬って口にした。
「あ、うま」
 素が出た。やった。
「そうですか、よかった」
「いやこれ、300円のクオリティじゃないですよ。大きくてびっくりしたけど全然食べれるし友達にも奨めときます」
「ありがとうございます!あ」
 とあたしはカウンター横からフライヤーを一枚取ってくる。
「よかったらこれどうぞ。開店位置は結構変わりますけど、アプリでキッチンカーの位置、その都度HPに出してるので。ちなみに、ここでは最初のお客さんでした。ありがとうございます」
「あ、なんか雰囲気いいので、つい寄っちゃったんです。こういうところ、この町にはなかなかないので」
「そうなんですか。じゃあしばらくこの町のあちこちで営業してみようかな。貴重な情報、ありがとうございます」
「全然ですよー」
 そんな会話をしてキッチンカーに戻ろうとすると、散歩途中だろうか。老夫婦が、カウンターから中を覗いていた。
「あ、ご注文ですか?」
「え、ええ、いいかしら」
「はい、今戻ります。すみませんお待たせしてしまって」
 あたしは急いでキッチンカーに乗り込んで受け付ける。
「はいすみません!何にしましょうか?」
「えーっと、わしはコーヒーだな」
「あの、お嬢ちゃん、お茶ってできるかしら。緑茶とか、ほうじ茶とか」
「あ、はい、ちょっと他のメニューよりお時間いただいちゃいますが、いいですか?」
「ええ。ならほうじ茶をお願い」
「かしこまりました。
「向かいの河原に座ってるから、持ってきてもらえるかの?」
「はいもちろん」
「あ、コーヒーなんだが、少なめで頼めたりするかの?」
「はい。Sサイズぐらいの分量でお届けしますね」
「助かります。で、幾らかの」
「コーヒーひとつと、ほうじ茶ひとつ、計2点で300円になります」
 その場でお釣りなしの会計を済ませると、言葉の通りカウンターマン前の河原の土手の上の方に並んで座って陣取った。その姿を見ながら、あたしは沸騰しつつあるポットのIHの出力を最大に上げて一気に加熱した。日本茶は一回沸騰。
 ほうじ茶とコーヒーを入れて、2人に同時に届けると、すごく和やかな表情で話している2人がいた。
 個人だと、こういうところに感傷的になれるのが、嬉しくもあり、少し切なくもある。妙に抱えてしまうかもしれないからだ。楽しいけど。まさか初日から二組もきてくれるなんて思わなかった。ロケーションナイス、あたし。
 それからもう2組のお客さんの応対を終えたタイミングで、一番乗りの女子高生がとれいを返却しにきてくれた。
「あ、わざわざすみません。置いておいてもらってもよかったですよ」
「いえ、ちょっと聞きたいこともあって」
「はい?」
「お店、写真撮ってもいいですか?ケーキとかの写真と一緒にSNSにあげようかなーって」
「ほんとですか!全然いいですよ!お好きにどうぞ。わざわざありがとうございます」
 効果とかはどうでもいいけど、その子の周囲にだけでも広まることはいいことだ。それに越したことはない。
「アカウント、教えてもらっていいですか?店のアカウントでフォローしておきます」
「あ、いいですか!ありがとうございます!えっと……これです」
 エプロンのポケットから出したアイフォンで差し出してくれたコードを読み込むとスギに接続したのでフォローする。
「そこにTwitterも載ってるのでもしよかったら」
 フォロー完了したのを確認したのか、声をかけてくれた。
「ありがとうございます。2つやってるんですね」
「そうですね。お店もインスタとTwitter?」
「あと、頻度はゆっくりですけど、もう一つやってます。フェイズブック。あとウェブサイトかな」
「全部更新もお一人で?」
「そうですねぇ。私しかスタッフいないし」
 と言いながら、おどけて笑ってみる。
「すごいですね。お一人で。あちこち回ってるんですか?」
「そのつもりです。最終的には全国行脚目標で。でも、今日のお客さんと触れ合わせてもらって、すごく雰囲気の良い町なのかなぁって思ったので、ここ二社ちょっとしばらくようかなと。毎朝営業地点はSNSとかいろんなツールで発信するので、タイミングあったらまたぜひお越しくださいね」
「はい。ランチとかやってますか?」
「あ、そっか。えーっと、モーニング、ランチ、アフタヌーン、ディナーの4タイミングでやってます。メニューは、その町で確保できた食材で変わるので、逐一SNSで更新してます。少人数だけどイートインと、メインはやっぱりテイクアウトですね」
「ランチボックスとかあります?」
「全然あります。毎日3種類ぐらいずつメニューにするつもりです」
「ほええ。すごい。わかりました!SNSチェックしておきます!いろいろありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。フォローありがとうです。また、機会があれば」
「はい。じゃ、また」
「あ、その脇、左手にお菓子、お土産用に小さいのあるので……
 と、あたしは小声になってから言う。
「本当は1個なんですけど、今日は特別に2個どうぞ」
「え、良いんですか?」
「はい、皆さんにお土産をかねて、試食みたいな感じでお配りしようかと」
「うわあ。すご。これもSNSニアップしても?」
「全然OKです!むしろお願いします」
「じゃあ……」
 と、その子は少し迷いつつもクッキーと紅茶のガトーショコラを選んでくれた。
「ちょっと面白そうなのでこれで」
「どうぞどうぞ。ぜひお楽しみください。今度会えたら感想聞かせてください」
「はいもちろん。アップもバッチリします!」
「わ、嬉しい。今日はありがとうございましたー」
「はい!じゃ、またー!」
 と、バイバイの仕草で手を振りつつ元気に帰っていった。
「……なんか、嬉しいなこういうの」
 飲み物用のお湯を沸かしながらつい独り言が漏れる。
 初日からラッキーな土地にたどり着いたのかもしれない。嬉しい。もともとキッチンカーで全国回ろうと思ったのは、就職して以降、仕事をやめて終えば腐り切ってしまう人間関係しか育んでこなかったと言うことに、病気の宣告後の気づいたからだ。学生の時は、もっとみんなでワイワイとか、大人数で遊びに行ったりしていたのに、就職してから激減した。最初の一年くらいはまだあったけど、うしろ2年なんてもう皆無だった。かろうじて繋がっていたあの恋人とも2週間に一回会えればまだ良い方だった。やっぱり遊ばれていたで確定だったし。やめてから明恋との関係も復活した。やっぱり良いやつだ。あの子。
 こうしてこれから本格的に全国巡って行くとなれば、こう言う一期一会みたいなことがきっとたくさんある。いくらその時だけの関係性であっても、冷え切った人間関係を続けるよりは全然良い。しばらく滞在したら友達とかできるかもしれないし。
 人を知るには、時間だけじゃない。先入観がないって言うのもハードルを下げてくれる。
 関係性が長いから逆に言えないことを抱えてる人だっている。あたしみたいに。
「あの」
 そんなことを考えてながらホット飲料の準備をしていたら、カウンターん向こうから声がかかった。

基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw