色彩の権利{R/G/B/A:1.0.0}

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 その日は、東京でも寒波の可能性が予報されていた。
 12月も下旬に差し掛かりつつある中での寒波の予報は、例年に比べれば少し早い。師走で天気も何かを急いでいるのだろうか。もしかするとホワイトクリスマスが訪れるかも知れない、と各局の天気予報は年末商船への演出を連日囃し立てていた。
 そんな中、とある学園に属する高等部は、冬休み前の考査最終日を迎えていた。横文字の好きなその学校では通称「2nd-exam」と呼ばれているその行事は、年末の生徒たちの体力をテスト対策によって容赦なく奪っていったが、そんなものは、exam終了とともにどこへやら吹き飛んでしまうのだろう。苦行からの解放によるテンションは想像を遥かに超えて張り詰める。部活もexam1日目の前日から起算してから2週間は一切禁止となるため、部活に前向きに取り組むものたちは尚のことその終了を心待ちにしていた。学校自体としては部活動にそこまで注力している訳ではなかったが、真剣に取り組んでいる生徒は一定数いる。そして学校側も蔑ろにしているという訳ではない。実際それなりの成績を残している部活もきちんと存在している。
 しかし中心はあくまで勉学、というのは、やはりどこでも同じだった。
 東京都内でも西側、やや神奈川県寄りに存在する大きな学園は、名を私立酉乃刻学園といった。その高等部、私立酉乃刻高等学校に、ついに最後の試験時間の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。examの事後対応はあるものの、これで実質冬休みのようなものだ。今年の2nd-examの最終日は前週から溢れるように月曜日の午前で終了した。その週の金曜日、クリスマスイブが、2nd-term、2期の終わりを告げるクロージングセレモニー、所謂終業式が開かれる。テスト結果の通達、対策、解説、成績発表などが行われる金曜までの間は基本授業も短縮され、連日昼過ぎの5thまでで終了する。それ以降は帰宅する者、部活に励む者など通常の放課後と変わらないが、普段よりも時間が潤沢にある。まるでテスト完了の褒美のような時間だった。
 部活勢は、年内の部活動最終解放日になるとそれ以降は部活動は実質学校ではできなくなる。今年は12月27日が実質の年内最終日となっていた。躍起な部活はいつも以上に力が入っていく。校外のでの自主トレに関して制限はないが、チーム性の部活はどうしても練習は難しいため、その気合いは尋常ではない。
 運動部を中心にexam終了後はそんな中にあって、文化部にカテゴライズされる吹奏楽部などはそちらと同じような勢いだが、そこまで勢いを上げる部活は多くない。
 exam最終日、最後のテストが終わると、荷物を整理して教室を後にする生徒が普段より多い。通常時ならばランチ後にも授業があるため大半は教室や直結のベランダで昼食を取る生徒が多いが、もう昼で解放されれば部室に行くもの、そもそも昼を持ち込まずに帰宅するものなど様々だ。教室の空席具合は、普段と比べると異常なほど高くなるのが、exam最終日以降しばらくの光景だった。
 そんな中にあって、Class:epcironの教室では1人の男子生徒が帰りの荷造りした後に、クラスメイトに声をかけた。
「都ー。今日は帰る?行く?」
「あ。明吏。うーん。いや、ちょっと職員室寄ったら行くよ。先行ってて」
「おーけー。じゃ、後で」
「うん」
 そう言葉を交わすと、明吏と呼ばれた男子生徒は通学バッグを肩に掛け直しながら教室を後にして、昇降口とは反対側に向かって歩き出した。
 普段は教室棟に集中しているランチタイムの喧騒はやはり普段よりは部室や校外などの各所に散らばっているようで、明らかに静かだった。
 明吏はそんなことをちょっと違和感を持って感じながら、特別教室棟の、教室と同じ階層の4階にあるとある部室に向かって歩を進めた。
「あ、篠坂明吏」
 私立酉乃刻高等学校の校舎は、大まかに3学年各8クラス編成の24教室を2階から4階までに納め、5階は屋上施設、1階には事務、庶務関連の施設を納める通称教室棟と、渡り廊下で繋がった職員室や会議室、特別教室、生徒会室、文化部などの部室などを含む5階建の特別棟、さらに運動部関連の部室、1階に体育館や道場、2階に屋内プール、3階に運動部の部室や倉庫などの体育関連の設備を集約した3階建の施設棟、さらに屋外に野球場、テニスコート、サッカーコート、陸上競技トラックなどがすべてフルサイズで作られた屋外設備によって構成される、都内においては常識はずれな程に馬鹿でかい規模を誇っていた。
 明吏がフルネームで声をかけられたのは、教室棟から特別棟につながる渡り廊下への曲がり角に差し掛かった所だった。
「お。天崎。テストお疲れ。どうだった?」
「まあまあ。いつもどーりな感じだと思われる」
 天崎と呼ばれた女子生徒は、明吏と進む方向が一緒のようで、どこに向かうのか確認せずとも2人並んで渡り廊下へ歩を進めた。
「と、言うことはまたそこそこ上位?」
「それはどうかなぁ。今回、範囲は長いけど、あんま複雑じゃないから、平均点高め予想なので下げるかも。」
「全体的に、か。そう言う読み当てるからなー君」
「大体の雰囲気よ。結局感触だけの適当な話ね。そっちは?」
「なんとも。自己採点してみてからかな」
 そんな、テスト終わりの学生にありがちな話をしながら、2人は特別棟5階の部室に到着した。
「お疲れ様でーす」
 明吏がそんな挨拶を飛ばしながら、リーダーに学生証をスキャンすると、ドアが自動でスライドする。これはきょうしつもふくめ、全てのセキュリティ管理の精度を上げるために施設を回収したために近年始まったシステムだ。校門も鉄道駅の自動改札のようになっていて、学生証がなければ構内に立ち入ることすらできないのがこの学園の特色でもあった。生徒はもちろん、主に保護者に対して安全性を保障したことで大きな特色となっていた。
「あ、きたね」
 明吏の声に反応してか、部室の中にいた女生徒から声がかかった。
「真燈先輩早っ」
「今日は金曜日の準備に向けて時間が必要だから速攻で来たんだー。まあ、まだまだ時間はあるんだけれど、決めることがいくつかあるから」
「金曜?」
 聞き返したのは天崎だ。
 真燈先輩と明吏が呼んだ人物は、一般的な教室よりやや狭い部室の中央に置かれたテーブルの奥に座って、何やらノートに向かっていた。
「そう金曜。セレモニー後にクリスマスパーティやるから」
「……聞いてない」
 明吏がごちる。
「言ってないもーん。あ、篠坂は買い出し要員ね。部員じゃないけど」
「何で…」
「予定ないでしょ?イヴ」
「ありませんけど、ないって決めつけられるのも何かなぁ」
「篠坂にあるわけないじゃんねぇ?奏慧」
「…そうですね」
「悲しい同意を噛み締めるな」
「悲しいんだ?」
 明吏の指摘に奏慧が聞き返した。明吏は決まりきったように1番出入り口の下座の席につきながら、「そりゃ嬉しくはないだろうよ。さっきのうちのクラスもうすごかったぞ。都にだけ声かけて逃げてきたもん」と半ば呆れ気味に返す。
「すごかったって?」
「一気にクリスマステンション。イプシロンは同じクラス内で付き合ってる率高いみたいだからな。浮き足立っちゃてる感じがひしひしと」
「まあ、テスト明けすぐだししゃーないわな」
 受けたのは真燈だ。こちらも呆れ気味に肩をすくめて見せる。
「で、真燈先輩、金曜何するんですか?また妙なこと考えてます?」
「あ、いや、今年のクリスマスは至って普通に行こうかなとおもっちょるよ。部活外から知り合い呼んでも引かれないように」
「ええ?珍し。どういう風の吹き回し?」
 真燈の発言に返したのは奏慧だ。どうやら心底珍しがっている様子だった。
「たまにはいいじゃない。普通にやっても!」
「って言いながら、また4人で校内範囲制限なし鬼だらけの鬼ごっことかしませんよね?」
 明吏が過去の例をひっぱりだしてくると、「1200文字以上限定黒歴史発表会罰ゲームを添えて、とかね」と奏慧も続き、「時期が時期だからって最強告白選手権とかもやめてくださいね。あれ判定も先輩の演出も厳しすぎでガチで恥ずいんですから」と明吏が続くが、真燈はどこか呆気にとられたような顔で「…そんなことやったっけ?」と目を丸くした。
「やりましたよ!あの罰ゲームの匂いどっから持ってきたのかいまだに謎なんですけど!」
「あははは。やらないやらない。面白かったけどね。まあ、クリスマスっぽいゲームはあるかもだけど」
「たとえば何?」
「クリスマスプレゼント交換会とか」
「プレゼントにヘドロとかやめてくださいよ」
「しないって!もう!あたしどんな印象なの!」
「そんなです。なあ奏慧」
「もちろん全肯定で」
「ふん!見てろ!びっくりするぐらい普通にやってやる!楽しみにしておけ!」
 と、真燈はふんぞりかえるが、その瞬間に明吏はノートに記載された文字を見てしまった。
「……すみません。プレゼントくじ引き、はずれは激辛顔面パイってなんですか」
「読むなぁ!」
「…ボク金曜速攻で帰ろうかな」
 奏慧がボソリと逃亡宣言をした瞬間に、明吏のクラスメイトの都が用件を終えたようで部室に入ってきた。
「あ、また部員じゃない人が来た!テストお疲れ!」
 真燈はここぞとばかりに話を逸らしたが、明吏と奏慧の表情を見てしまった都は「お…疲れさま、です」とためらいがちに挨拶を返すのだった。
 私立酉乃刻高等学校、1年に当たるclass:Thetaの天崎奏慧、2年に当たるclass:Omicronの京野真燈が所属するこの部活は、その名前を放課後部と言った。真燈の二代先輩に当たる世代が作った部活らしい。活動の実態は「”放課後”をする」という明確で不明瞭だったが、活動を重ねる上で実質部長的なポジションに入った形になっている真燈に言わせれば「人生の中で基本的に3年間という、“今”しかない”高校生の放課後”という時間をどれだけ科学できるかを全方位的に探求・検証していく」ということに落ち着いたとのことだった。その部活としての終着点の見えなさ(大会やコンクールがあるわけではない夏休みの自由研究のような性質)もあり、他の部活の常識は通用しない。中でも仲のいいということはあるにしても、奏慧が真燈に敬語を使わなかったり、他の部員に関しても上級下級の区別も曖昧で、何ならば明吏と都は部員でもないのに部員同様に部室へ出入りしているほどの緩さだ。セキュリティ上本来は難しいはずなのだが、顧問が雑なのだろうか。保護者へのセキュリティアピールは何処へやらだった。
「真燈先輩。普通ってわかりますか」
 何となく察したであろう都を差し置いて、明吏が言い放った。

基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw