Projekt;ALICE:SS#01「An;ReAll」


紅宇篇01

「え?」
「いやだから、女の子へのプレゼントだよ」
 ピンクやらパステルブルーの多い女の子マックスなあたしの部屋にそぐわない兄は、使い古されたまっ赤なクッションを抱いて床にあぐら座りをしたまま唐突にそんな事を口走る。
 発端は、兄が部屋の扉をノックしたところ。あたしはパソコンを閉じて、いつもの通りに兄を招き入れた。
 折り入って相談したい事があるというから聴いてみたらコレだよ。
 まったく、この朴念仁が。
「な、なんでそれをあたしに聴くのかな?」
 よりにもよって。
「なんでって、そりゃあ、相談できるヤツが他にいないからに決まってるだろ」
「いや、他にいないって、お兄ちゃん。女友達いるでしょ?知ってるよあたし」
「だから、あいつらじゃダメなんだって。趣味が違うし、多分、プレゼントしたいヤツとはちょっとセンスが合わないっていうか」
 ほっほう。それはあたしと似ているという解釈でいいのですかお兄様。
「なに?あげたい相手って、あたしに似てるの?」
 浮き足立つなあたし。あくまでも似ている相手であってあたしじゃない。
 ここは冷静に行くのよ、紅宇。
「ま、まあ。似ていると言えば、そう言えなくもないか?って思ったから相談している訳で」
 ふーん。
 そうなんだ。
「じゃあ、そんな相談に乗ってあげるからには一つ正直に白状しなさい」
「ああ、いいぞ」
 何だこのハードルの低さは。何でも喋りますよ状態?
「お兄ちゃんはその娘の事が好きなのかにゃ?」
 緊張して噛んだぞ。まあきっと、なんで噛んだのかまでは気づかないだろうけど。
「噛んでる噛んでる。ま、まあ、そうなるかな。少しは好きじゃないと、プレゼントあげようとか思わないだろう?」
 ま、確かにね。それなら…
「じゃあ、お兄ちゃんはその娘のことはどういう風に好きなの?友達?親友?家族?恋人?」
「質問は一つって言ったろ。それに答える義理は無い」
 ちぇっ。甘々な恋バナ展開に持っていってさりげなく告白してその気にさせた上で押し倒してひっくり返されてキャッってしてあげようかと思ったのに。いやそんなことは絶対に出来ないけど。
「ううー。……わかりました。で、どんな娘なの?」
「うーん。それを説明するのは難しいなぁ。素直に、紅宇が…プレゼントもらえるとしたら、どんな物だったら嬉しい?」
 この質問は、その実質問として結構難しく、受け取り方によっては崩壊しているとも言える。
 だって、寒いときに聴かれたら防寒具になるだろうし、暑いときに聴かれたら避暑グッズになりかねない。あたしがその時々の気分で答えるような人間だったらあまり考え込む事もせずに損な答え方をしていたかもしれない。ところがだ。あたしは違う。
「待って。何も情報が無いのに考えろって言うのは難しくない?」
「まあ、そうなんだけど、紅宇が欲しい物でいいよ。いくつかあげてくれ」
 コレは多分、お兄ちゃんはこれ以上その相手に関して口を割らないな。
「うーん。新しいペンケース欲しいかも。ちょっと古くなってきて金具が固いんだよねー。あとはなんだろ……あ、クッション欲しい。お兄ちゃんが今使ってるのももう大分ヨレーってなってるし」
「いや、それはちょっと実用的すぎるだろ」
「えー?でもクッションとかは結構みんな持ってるからいいかもよー。あ、でもデザイン選ぶの大変か…」
「そうだなぁ」
「お兄ちゃん、その娘の部屋に行った事あるの?」
「ああ。何度か」
 なあああにいいいい!?
「そ、そうなんだ。そっか、じゃあインテリアとかわかってるからいいんじゃない?」
 落ち着けあたし。落ち着きなさい紅宇。
 まだ、まだよ。お兄ちゃんに彼女がいると決まった訳じゃないわ。
 大丈夫。
「あー……まあ。大体の雰囲気は。そんなんで選んじゃって大丈夫かな?」
「わ、悪くはない、んじゃなかなー」
「そっか。紅宇としてはもらったら嬉しいもんなのか?クッション」
「あ、あたしはほら、み、見ての通り沢山あるし、好きだし、嬉しいと、思う、よ」
 どもるなどもるな動揺するな!まだ、決定打じゃない!
「そっか。あ、あと最後に」
「な、なに?」
 まだこの責め苦を続けるつもりですかお兄さん。ちょいといやだよよしておくれよ本当に気が利かない鈍感がぁ!
「紅宇って、アクセサリー何付ける?普段。ペンダントは知ってるけど、指輪とかピアスとか」
「ピアス怖い。穴明けるの怖い。指輪はしてないよー。持ってないし。」
 そうそうその調子。
「耳はマグピかな」
「マグピ?」
「マグネットピアス。磁石でくっつけるんだー」
「…落ちないのか?それ」
「これが以外に落ちないんだよ。水平とびもへっちゃら」
 お、いいぞいいぞ。その調子だ紅宇ちゃん。でもその喩えはどうなのよ?
「へぇ。そんなのあるんだ。いいなそれ」
 もう。そのしたり顔で誰の事想ってんのよ。むかつくなぁ。
「ま、その相手が付けるかどうかは知らないけどね。ピアスホールある人にマグピあげたりしたら、かなり間抜けだよー?」
「そりゃそうだな」
 にやりと笑う。口角が上がる。
 くっそう。その唇、そいつの唇で塞がったことあんのかなぁ。あーあ。
「もういい?あたし宿題片付けちゃいたいんだけど」
「あ、ああ。ありがとう。邪魔して悪かったな」
「本当ね。こんな話だってわかってたら部屋いれなかったのに!あーあ。なーんにもあたしのためにならない相談受けちゃったなぁ」
「いいじゃねーか。そのおかげで兄が幸せになれるかもだぞ」
「そんなの、勝手にどーぞ」
 へいへい、と言って、兄は部屋を出て行く。
「……まったく」
 言ってあたしは半分ほど終わった宿題を広げたままの机に背を向けて、兄が抱いていた真っ赤なクッションを拾い上げる。
「……っ!」
 壁に叩き付けようとして、持ち上げたところの熱を右手が覚える。
 …卑怯だ。
 あたしが、一番欲しい物を最後において出て行くなんて。
 卑怯だ。
 でも、認めなきゃいけない。
 あたしたちは兄弟だ。
 けれど。
 やっぱり、早く家を出た方が良いのかなぁ。
 


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基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw