キミに伝うきっかけの、爪先。-2nd Act.Ver.1.2.2


=2nd Act.Ver.1.2.2========================
 
 午前の授業を終えた私たちは、昼休みに突入するとこぞって部室に集まっていた。別に約束したわけでもないのに、だ。空衣君はいなかったけれど。お互いPC前に着いて、弁当を開く。今日のは結可お手製った。
「ねえ、秋海」
「ん?」
 結可お手製のお弁当に猛烈なまでにがっつく浬を差し置いて、その結可が声をかけてきた。
「あの曲流してよ。もうPCで読み込めるでしょ?」
 見透かされてた。なんなら、あと2ステップくらいで編集もできる。ウチからCD持ってこなきゃいけないから今はできないけど。
「ぬ?なのひょふ?」
 思いっきり頬張っている浬は何言ってるのか一聴ではわからないかもしれないけど、でも私にはわかった。「ん?なんの曲?」だろう。そう言えば浬には聴かせていなかったな。
「最後まで出来たんでしょ?」
「まあ、あのラフは一応最後まで。アレンジとか手直しは必須だけどね」
「それでいいから」
 結可が、ちょっとだけ強めに言ってくる。まあ、聞いてみたいと言う気持ちはありがたい。
「じゃあ、流すけど、BGM程度よ?」
「いいから、早く」
 珍しく、結可が急かすので、私は準備して再生ボタンを押す。
「あ、そうこれこれ」
 結可が呼応してくれた後で、みんな会話もそこそこにしつつも曲を聞いてくれるらしく、私たち3人にしては会話も少なめに食事を進めた。聞いてくれていたのなら嬉しいけど、興味なかった場合は切ない。ど、どうなんだろう。
 作品を他人に手渡しするときは本当に緊張してしまう。
「なんかぼく湧いてきた気がする…」
「……うん。あたしは何も作れないけどそんな感じする」
 浬に続いて結可までもそんなことを言い出したところで、曲は全てを再生して終了した。
「…どう、かな?」
「……想像以上にいい」
「……なんですかこれ、泣きそうなんですけど。歌詞もないのにグッときちゃった」
「本当に?!」
 思わず立ち上がる私。
「本当。やーいい曲じゃん」
「すげーっす秋海先輩」
「ピアノソロってのもそれなりに魅力だよね。詳しいことはわかんないけど曲の旋律に音色があってると思う。デモって言ってるけど、これはこれで別バージョンとしていいんじゃないかなぁ」
「アレンジはしようと思ってるけど。そんな感じ?」
 立ち上がったまま私も聞き返す。
「アレンジされたやーつ、要は、えーっと、秋海さんが理想とする音も聞いてみたい気がしますね」
「…そっか。デモなんだけど概ね、お2人には好評?」
「うん。あたしは好き」
 と、結可が過ぎに反応を返してくれたが、浬は何か考え込んでいる様子だ。
「…浬は?」
 と、恐る恐る聞いてみる。
「……うーん。あ、ぼくも好きっすよー。今返事すぐできなかったのは、着手しようと思ってる作品のイメージソングになりそうだなと妄想が優先してました」
「……そっか。よかった」
 私は改めて座り直して、昼食を続けたけど、すぐに終わってしまいそうな量しかの残っていない。
「しかし、すごいね2人とも。浬の小説も読んで、秋海の曲も聞いて思うよ。あたしはなんで何も作れなかいのかなぁ?」
「そう言う人だっているよ。私たちが特殊とか言うつもり毛頭ないし、逆にそうやって物作ってるあたしたちの方が人間としては弱いんじゃないかなって思うことある」
「弱い?」
「うん。そう言う武器を得ないとやっていけなかったから、って言う。浬なんかもそんな感触ない?」
「あります。めっちゃあるるーん」
「なんで自分が存在するのか意味がわからなくなる瞬間が何回も来たり、そんな期間があったり。居場所を求めて探し回った結果、結局自分で作るしかなかったり、普段の自分に存在価値が見出せないとなると、下ばっかり向いて歩いてるんだよね。私はそれを変えてみたかった。才能があるなしじゃなくて、好きなことで爪痕残したかったって言うか」
「あーそれ、それもめっちゃわかります。ぼくの場合の感覚は、自分が見えなくなるから、それはダメだって言うような感覚から始まってるかもしれません」
「……なんか、おちょくったり茶化すわけじゃないけど、ちょっと憧れるなぁ」
「憧れる?」
 同意してくれた浬に続いて結可がつぶやくように言ったので、私が返すと、
「うん。ちょっとそう言うことを考えると、思う。あたしは周りのことばっかりで自分のことなんて勉強しか見てこなかった。色々やって、とりあえずそれさえできてたら将来なんとかなる、って思って。家のこととか、弟のこととか。両親が仕事バカなことも影響してるんだけど。だから、FTC作れたのは本当に奇跡みたいな。やりたいことってこう言うふうにやるんだ!って感じに包まれております」
 最後だけふざけたな。
「そっか」
 同意すると、また結可が口を開いた。
「うん。だから2人には、あと、あの日の夕日に感謝してる」
「それは私も」
「ぼきゅもでーしゅ」
 昼休みはもう少しで終わろうとしてる。
 そろそろ予鈴がなるだろう。
 放課後、いよいよ持って、作戦開始の狼煙が上がる。
 部室に初めて踏み入れた日までにここkまで計画が練られているとなると、かなりテンポ感を早めたいのだろう。確かに、高校2年生の5月だ。時間は潤沢にあるわけじゃない。
 さあて、背筋、伸ばしますか。

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基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw