Nervous Fairy-19"SCenE chaNgE"


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「え……」
 そのまま布団の中に引き戻して、さっきよりちょっと強いハグをする。震えてるやつ放り出せるわけがあるか。
「わかったよ。もう、これでいいんだろ」
「……ごめん」
「じゃない」
「………ありがとう」
「そうそれ」
 そう言って、俺は想の背中や後頭部を、まるで赤子をあやすみたいにゆっくりと撫でる。
「…結城?」
 俺の胸元に顔を埋めたまま、何か探るように想が声をあげる。
「……お返し、なだけで、申し訳ないけど」
「……なに」
「代わりになんて絶対なれないけどさ……お前の、想の、お父さんの分」
 その一言以降は、もう会話にならなかった。
 しばらく、両親と逸れた子供みたいに泣きじゃくる。さっきのは、安堵の涙。でもこれはきっと、恐怖と懐古の涙。どれだけ泣いてことができないできたんだろう。新刻 想というたった1人の、か細い女の子は。
 それからしばし続く嗚咽とか一方的な言い分やら、散々聞かされて。
 なんでか八つ当たりみたいに胸板ガッツンガッツン殴られて。
 なに言ってるかわからなくなってきて。
 その果てで一旦泣き疲れて緩やかになる。
 今晩、しばらく寝やしないなこいつ。
「はあああ。ごめん。駄々こねて。でもちょっとスッキリした」
「そう?ならよかったんじゃん。付き合った甲斐があるって話ですよ」
 と言って体勢を解こうとすると「だめ」と言って聞かない。
「…ねぇ?」
「それ多いな。なに?」
「なんでそんなに他人に優しくできるの?」
「他人に、じゃねーよ。俺部活にも入ってないし、友達だって少ない。入学初日の暴言で多くの男子に目つけられたやつで有名なの知らない?」
「知らない。ってことは有名じゃないじゃん」
「それは想さんがコミュニケーション取らないからじゃないかなーとは思うけども、そうなのよ。あの日、新刻に声かけたじゃん」
「うん。なんで呼び方戻ってんの?」
「癖だわ。いいからスルーして。で、その会話見てた奴がいたらしくて、それを「早速唾つけてんですかー」みたいに茶化されて軽ーく切れたんだよね」
「……知ってる。それ、あたしが後ろ歩いてった。その時にちょっとだけ聞いた記憶が蘇ってまいりました」
「そう。あれから同じクラスの奴らからはしばらく総スカン食らってたから。他人に優しいんじゃなくて、そうしたいと思える人を選んでるだけ」
「じゃあ、あたしはその中に入ってるの?」
「……恥ずかしいことを聞くんじゃありません」
「……ふふ」
 腕の中で、俺の胸に向かって微笑む想。これは見ようによっては完全にそうだけど、ち、ちがうからな。
「なに」
「ううん。ただ、優しいなぁって。それだけ。あ、もうちょっと頭撫でてて」
「へいへい」
「……へへ。なんか、懐かしい」
「懐かしい?」
「うん。お父さんが生きてた頃、たまーにこんなことしてもらってた。記憶がちょっと蘇って。懐かしくなった」
「……それはいいのか?逆に寂しくない?」
「全然!むしろ、こんなことしてくれる人いなかったんだもん。今もいっぱい頭の中でお父さんとか仲良かった頃の家族がブワーって。でも…」
「でも?」
「今一番優しいのは、結城かなぁ」
「……そりゃどうも」
「あー信じてないでしょう」
「そんなことありませんよ?」
「本当に?ならいいけど。じゃあ、もうここまできたから勢いで」
 そう言って想は俺のことを抱き返してきた。
「ちょ、ちょっと」
「いいじゃん。さっきと一緒だよ。ハグしあってるだけ。キスもその先もないよ?期待した?」
「想像もしねえわ」
「でしょう?一緒。でもあたし、多分結城のこと好きだな。普通に」
「ほう?それはどうも。じゃあ、さっきの構想は乗っかってくれるってことでいいかな?
「うん。やろう。凹んでばっかり、被害者ヅラばっかりなんてごめんだあたしだって。やろう!」
「よっしじゃあ早速明日……明日は無理だった」
「それはしょうがないー」
「……だなぁ」
 と、俺が同意するとしばらくそのままで無言が続く。
「……なあ想」
「なに?」
「寝不足だと乗り物酔いするタイプ?」
「車とか電車酔ったことない」
「ならいいか」
「なに?」
「ちょっと、コーヒーじゃなくてもいいから、白湯飲まない?」
「……あ、いいかも」
「じゃあ…」
 と言って、ハグした体勢を解いて起きあがろうとすると、
「あ、でも5分後。もしくはもうちょっと。まだこのままがいい」
 と引き止められた。
「……眠くなっちゃわない?」
「少しだけ。でも、なんていうかな……この流れでここまできた夜を、今を、逃したくない」
「……なんですかそれ」
 なんて言いつつ、引き止められたせいで、引き続き頭を撫で続けていた。
「あ、じゃあ、逆にする。今日一緒に眠っていいなら、布団出る」
「もうそれしか選択肢ないだろ」
「よし、ならちょっと飲むー。ほっこりしよう」
 布団を出て、豆をセットしないでコーヒーメーカーを動かす。質は高くないけど、温度は一緒だ。その隙に階下のキッチンに新しいマグカップを二つ取りに行き部屋に戻ると、想が窓から空を見ている。
「今日、星すごいね」
「そうなのか?まだ見てないからなんともだけど」
 と言って、部屋の間接照明だけを機能させる。
「え。この部屋ってそんな機能あるの?」
「これは俺が設置した。作業する時大体これ」
 実は部屋の四隅と天井の蛍光灯に計5灯、一つのリモコンで動作する間接照明があるのだ。作業するときはこれと、工房のデスクライトでやっている。
「ほら、できたよ。白湯でよかった?」
「うん。もう眠るだけだし」
「おう。あー」
 窓際に並んで立つと、確かに星が綺麗だった。
「晴れてんなー。明日も晴れかねぇ」
「だといいね。せっかく学校サボっておでかけだし」
「……あれ。一緒にサボったら俺またなんか言われるんじゃねぇのか」
「もう気にしなくていいじゃん。そんなのどうでも」
「いや、流石にこれで付き合ってるとかなんとか勝手に噂されても!流石に高校生活恋愛の一つや二つ欲しいぜ?」
「じゃあ、あたしが紹介したげるよ」
「…お前友達あんまりいないんじゃ」
「バレたか」
「……終わったな。まあ、いいや」
「いいの?」
「そういう想はどうなのよ」
「あたしは嫌悪感強い系だから余程の人がいない限りないなぁ。恋愛したいって感じじゃない。この人、ってなったらって感じかな。だからまぁ、噂のレッテル程度で人判断するような雑魚は論外」
「それはすげーわかるわ」
 夜空の下で、2人で。
 マグカップがゆっくりゆっくり熱を覚ましていく感覚だけが時間の経過を告げてくる。
「ねぇ。あたし、いつまでここにいていい?っていうの考えてたんだ」
「ああ、うん。あの両親だったら永久って言いそう」
「それは流石に。結婚するんじゃないんだから。でね?流石に明日明後日ってわけないは行かないけど、うちの人たちと話をしてみようと思うんだけど、一緒に来てくれたりしない?」
「いいよ?むしろ俺1人でも行くつもりでいた」
「それは喧嘩売りに行くだけだからダメ」
「はいはい」
「もしかしたら1週間ぐらいかかるかもだけど、どうかな?」
「そんなもん楽勝だろ。大丈夫大丈夫」
「そっか。なら良かった……かな」
「まあ、でも。その辺の相談は、明日出かけて、どっかで飯食いながらみんなで改めてしよう」
「…そう、だね。2人で話してもね」
「おう」
 そういうことで相談を終えてマグカップは机の上に2つ。そして今度は想の提案でベッドに2人で入る。
 彼女とかいたらこういう感じなのだろうか。
「布団いらなかったね」
「想が我儘言うからだろ」
「結城が我儘聞くからだろ」
「聞かせたのはそっちだろ」
 と言い終わった瞬間、またしてもおもっきりハグしてくる想。おいおい。これはまずいんじゃないのかぁ。まじで。扉開いた途端、なんだこのデレデレ娘。出会った当初のあのツンツンはどこに行ったよ。
「おやすみ」
 その癖一方的に挨拶して眠ろうとする。でもまあ、時間も時間だ。
「……」
 一応同じ体制ってのが条件だからな、と思って、ハグし返す。同じように、後頭部をゆっくりと撫でる。
「おやすみ。また明日」
「うん。ありがとね、結城」
「……大丈夫だからな。想。できるならゆっくり休め」
「…うん。結城もね」
「おう」
 と、その会話を最後に静寂が訪れる。
 あるのは、俺が想の髪を撫でる音だけ。
 正直その日、俺は徹夜だと思っていたから、ラッキーではある。けど。
 別の不安要素は、なくもない。

基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw