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    K Sをまとめました。the story of true love between us.

  • Tee Happy Days

    ITMTまとめ

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Last Goodbye

コーヒーの香りがする。名前を呼ばれている。彼の声だ。頬に指が触れた。目を開けたら目の前に端正な彼の顔があった。 「起きて。朝ごはんできたよ。」 鼻の頭にキスをされる。なんで起こさないんだよ、と僕は文句を言う。今起こしたよ、と彼は微笑む。そうじゃなくて、彼が起きる時に起こしてもらいたいのだ。眠りの浅い彼は、僕がかけた目覚ましよリも早く起きて、目覚ましを止めてしまう。それからシャワーを浴びて、朝食を作り、僕を起こして一緒に食べる。身だしなみを整えると、ぴしりとスーツを着て、仕事に

    • Another Rainy Day

      俺の仕事は、まず一杯のコーヒーを煎れるところから始まる。湯の温度を確認し、きれいに洗った清潔なネルを使い、ある人に教わったやり方を忠実に再現して慎重かつ丁寧に煎れる。自分のためにではない。俺のただ一人の主人であり、雇い主でもある旦那様にせめて朝のひととき、芳しいコーヒーの香りと奥深い味わいを楽しんでもらうためだ。日中は激務続きで、なかなかコーヒーブレイクもままならない。朝、一杯のコーヒーを飲みながらその日のスケジュールを確認するのは貴重なひと時だ。俺にとっては旦那様と二人きり

      • undercurrent

        [ A Coffee Shop ] カララン、と入口のドアベルが音を立てた。俺はコーヒーをドリップする手を止めずにいらっしゃい、と声をかけた。店にやってくる客は限られている。一応はコーヒーショップだが、路地裏の人通りの少ないところにあるし、看板も出していない。エントランスのしつらえも古臭いし暗くて狭い。席はカウンターに8つだけ。入ってくる勇気のあるやつは少ない。 「おはよう。アメリカンふたつね。」 明るくて感じのいい声が返ってきた。数少ない常連客だ。顔を上げたら人懐こい笑顔

        • By the Sea

          真夜中を過ぎてもまだ昼の蒸し暑さが残る駐車場で、僕は彼の住むコンドーを見上げた。場所は知っていたが来るのは初めてだ。電話をしてエントランスを開けてもらう。もう着いたの、と彼は焦っていた。部屋の掃除でもしていたのかもしれない。ベッドのシーツを替えたのかな、などと考えてしまって少し恥ずかしくなる。ここに向かう前の電話で「僕をあげる」とは言ったけれど、彼がそれをどう捉えたかはわからない。もともとそういう方面のアンテナが彼はとことん鈍いのだ。 エレベーターの鏡に映った自分の顔がふと目

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        記事

          A Love Letter

          車窓を流れる車のライトを眺めながら、僕は胸をそっと押さえた。鼓動が少し早いのに気づく。期待と、不安と、恐れ。胸の内ポケットには彼からの手紙が入っている。まだ読んではいない。くれぐれも一人になってから読むように、と念押しされたからだ。 その手紙は、まるで秘密の指令のように僕に届いた。彼から彼の後輩に、それから僕の後輩に、そして僕に。間に立ってくれた後輩は、スパイ映画みたいに辺りを見回しつつ僕に忍び寄って大きめの封筒を押し付けると、とてもプライベートなものだから誰もいないところで

          A Love Letter

          Believe Me

          「ところで、来月結婚するよ。」 昼下がりのカフェでさりげなさを装いつつ、僕はそう切り出した。彼は心底驚いた、という顔をしたが、それを口には出さずシンプルに誰と?と尋ねた。 「確かに、会わせたことはなかったね。」 「会わせるどころか、そんな相手がいることも知らなかったよ。昨日出会ったとか?」 彼はびっくりするとちょっと怒ったような顔になる。今も友人の結婚報告を祝うというより不意打ちを食らって警戒する表情だ。 「知り合って2年だよ。式に出てくれると嬉しいんだけど。」 僕がそういう

          Believe Me

          Our Rhythms

          名前も知らない誰かが、グラスを合わせて去っていった。時計の針はそろそろ真上に辿りつく。明日仕事だと言って帰る者もいれば、やっと仕事が終わったと言ってやってくる者もいる。友達が連れて来た知らない顔も結構いる。今日の主役は俺のはずだが、もうケーキの蝋燭はとっくに吹き消したし、そんなことは皆忘れてしまったかのようだ。それぞれ自由に楽しんでいる。 人が多いのは苦にならない。賑やかなのはむしろ好きだ。人の話す声、笑い声、歓声、歌声、そして音楽。人生になくてはならないものだ。そういうもの

          Our Rhythms

          Heart Driver

          自宅のリビングに足を踏み入れて、すぐに異変に気づいた。俺は他の奴らよりも遅い時間に帰宅するので、いつもならリビングルームは無人で薄暗い。それなのに今夜はキッチンに煌々と明かりがついている。しかも酒臭い。部屋中にアルコールの匂いが充満している。住人の誰かが友人を連れ込んで酒盛りでもしたに違いない。その証拠にキッチンカウンターには夥しい数のボトルが並んでいる。内心で舌打ちしつつキッチンをのぞいてぎょっとした。人が倒れている。 「おい。どうしたんだよ。何やったんだ。」 「うーん。ご

          Heart Driver

          Shade, Haze, Dim Light

          控え室は珍しく静かだった。別室からスタッフの話す声が微かに聞こえてくる。誰かの足音。エアコンの低い振動音。車のクラクション。都会の日常につきものの雑音はどれもどこか遠い。間近に聞こえるのは彼の吐息だけだ。 眠る彼を起こさないようにそっと抱え直す。凛々しい眉、綺麗な鼻筋、笑顔のためにあるようなカーブの唇。頬の丸みが取れて、顎のラインがシャープになってきた。少しずつ大人の男になりつつある。雛鳥の産毛はもうわずかにしか残っていない。美しい大きな羽根が生え揃ってはばたく準備ができてい

          Shade, Haze, Dim Light

          One Spoon of Happiness

          目を覚ましたら、いい匂いが漂っていた。誰かが動く気配と、食器がかちゃかちゃ言う音。電気ポットがシューという音。窓から差し込む朝の明るい日差し。何もかも充足していた頃の記憶が蘇ってきそうになって、俺は慌てて体を起こした。思い出すな。思い出しても辛いだけだ。もう戻っては来ないのだから。 「おはよう。」 いつものように朝からきっちり身支度をして、これまたきっちりエプロンをつけたアイツが俺に笑顔を向けていた。挨拶にもならない呻き声を俺は返した。 「今日は青菜と卵のお粥だよ。食べる?

          One Spoon of Happiness

          Nobody Does It Better

          25年。四半世紀とも言う。25という数字に特にこだわるわけではないけれど、節目、という気はする。まだまだ若い、でも独り立ちして生計を立て、家族や子供を養っていてもおかしくない年齢だ。青年時代の残りは少なくなりつつある。自分にも周囲にも責任を持ち、人生の方向性を定めるべき時期に差し掛かっている。 25年。そのうち僕が知ってる年数はまだ半分にも満たない。それが少し悔しい。でもこれからどんどん増えていくはずだ。僕が知っている彼の人生の年月が。 そう、来月彼は25歳になるのだ。 お

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          Cananga Odorata

          外は静かに温かな雨が降っていた。市街を見下ろすホテルの最上階スイートで窓際に座った僕は、湿った空気に滲んで瞬く車のライトをぼんやり眺めている。 今僕がここにいる事は誰も知らない。ただ一人を除いて。 彼に会うのはいつも深夜。 友人にも、マネージャーにも、もちろん仕事上のパートナーにも、秘密にせざるを得ないから、月に一度会えればいい方だ。時間もほんの数時間。僕も彼も仕事のスケジュールは分刻みだし、何時間も行方不明にはなれない立場だから。 でもそんなに頻繁に会いたいってわけでもない

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          When You Said Yes

          何で読んだか忘れたけど、人の感情は20秒しか持続しない、と言う研究結果があるらしい。喜び、怒り、理性的だとその場では思っている判断ですら、なんらかの理由で20秒後には変わってしまう可能性がある、と言うことだ。もちろん愛の誓いでさえも。 長く続く愛情や悲しみというものがある、ということはわかっている。でもそれだって時間が経つにつれ薄れていく。少なくとも変わっていく。世界に変わらないものなんかない。晴れの日と雨の日があるように、エベレストの高さが10年前とは違うように、刻一刻と移

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          Would You Take a Whole?

          話がある、と言われた時、なんとなくなんの話かわかっていた。受け止める覚悟もあるつもりだった。俺たちの関係は曖昧なまま落ち着いていたし、二人を取り巻く環境が変わってもすぐに壊れてしまうようなものじゃないことはもう知っていた。お互いが特別な存在だということだけは揺るがない。その事実を蔑ろにしないと二人で話をした。だから大丈夫。そう自分に言い聞かせた。 だから彼が海外に行くつもりだ、と言った時、ショックを受けた自分にショックを受けた。しばらく言葉が出なかった。彼が心配そうに俺の反応

          Would You Take a Whole?

          fallen

          「おまえ、またきたの?」 ガラス戸越しに見えた黒い影に声をかける。ここのところ数日おきに姿を見せるカラスだ。開き戸を開けてやると、躊躇なく入ってきて店の奥の小さなスツールに飛び上がった。真っ黒な瞳、真っ黒な嘴、つやつやと光る真っ黒な羽根。カラスだから真っ黒なのは当たり前だけど、光沢のある羽根は青や緑、時にはピンクに光の加減で色を変える。近くで見るまでカラスがこんなに美しいとは知らなかった。 「そこがお気に入りだね。持ち主が帰ってくるまでだからな、使っていいのは。」 自分の口か

          fallen

          Sorry, it's not intentional

          彼の登場は特にセンセーショナルなものではなかった。いつのまにかクラスの隅の席に座っていて、最初のうちは誰も注目していなかった。彼の周囲がざわめき始めたのは、何回目かの授業で課題の発表をしてからじゃないかと思う。 教室の一番後ろの席から彼が歩いてきて、こちらを振り返った時、場の空気が色を変えるのがはっきりとわかった。今まで部屋の隅で目立たなかった彼が突然威圧感と言っていいほどのオーラを纏い、クラス全員を睥睨したのだ。 彼は従臣を見下ろすように自分に注目が集まっているのを確認する

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