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A yard shy!


 shyという単語は面白い。「シャイ」という日本語にもなっている。「引っ込み思案」とか「内気」というほどの意味で使われている。英語でもこの意味で使われることが最も多い。しかし、日本語の「シャイ」には移植されなかった意味も多くある。「(人が)何かをするのに消極的な」という意味や「(人・物が)何かに足りない、届かない」といった語義もある。
 私の住む街タスカルーサで、フットボールの存在はとても大きい。元々はサッカーが好きで、アメリカンフットボールにはあまり関心がなかった。最初の年はスタジアムでの観戦はおろか、テレビで試合を見ることもなかった。こうゆうときshyを使って、I was shy of going to football games(フットボールの試合に観にいく気がしなかった)と言える。
 一つのところに長くいると徐々にその土地の文化に染まっていくものだ。3年目になった今年は既にスタジアムに2回足を運び、それ以外の週末も欠かさずテレビ観戦している。一緒に行く友達がいればもっと現地に行きたいのだが、shyなので誘えない。
 スポーツのテレビ中継は実況が目の前で起こるシーンを具体的に描写するので、場面と表現が直接結びつき、言語学習の格好の題材になる。

A yard shy!(あと1ヤード!)

ボールを持った攻撃側の選手が、目標とする地点まであと1ヤードというところでタックルを受けて倒れたときの実況の言葉だ。shyが具体的にどういう意味を持つのかはわからなかったが、全体としての意味は状況から即座に推測できた。辞書を見てみると、ちゃんと「(…が)欠けている、(…に)不足している⦅of, on …⦆」という意味が載っていた。主にアメリカやカナダの口語に出現する用法だという(『ランダムハウス英和辞典』)。
 新しく覚えた用法はすぐに使ってみるに限る。本屋で会計の際に、”I’m shy of cash. Let me pay by debit card” (現金が足りないのでデビットカードで払わせてください) と言ってみた。続けて、short of (不足している) とshy ofの違いも聞いてみた。”There is no big difference. ‘Shy of’ just sounds a little sophisticated” (大きな違いはないけど、”shy of”の方が少しものを知っているように聞こえる) とのことだ。
 ところで、この用法は他のものと少し毛色が違うように見える。「引っ込み事案、内気」と「何かをするのに消極的」には似たニュアンスがある。どちらも人のパーソナリティを説明していて、核には消極性がある。しかし、「欠けている、不足している」は個人の性格ではなく、客観的な事態を描写する表現だ。
 オンライン語源辞典Etymonlineによれば、この単語の祖先は古英語のsceoh「臆病な、すぐに驚く」に遡る。その後形を変えていき、1600年代に入ってshyという形が登場する。「他者との接触に消極的な、臆病なために他者に近づくことができない」といった意味は1600年ごろまでに登場した。「欠けている、足りない」といった意味は、19世紀末までにギャンブルの場で使われるアメリカ英語のスラングとして登場したそうだ。
 臆病ですぐ驚くのでいつもビクビクしている。だから人と会うのにも、何をするのにも消極的。ここまではわかる。やはり問題は「不足」という意味を帯びるようになった経緯だ。辞書を読む限りでは詳しいことがわからず歯がゆいが、ギャンブルという特定の文脈で使われた表現だというのは面白い。財布を見ると次の勝負に賭ける金が足りない。それを直接言うのは悔しいので、自分の性格の問題に話をずらしてshyなんだというギャンブラーの姿が目に浮かぶようだ。人間らしさがある表現でなんだか愛着が湧いた。

今回取り上げた表現

shy: 「引っ込み思案」「内気な」「何かをするのに消極的な」という意味の他に、「足りない、届かない」という意味がある。

満員のフットボールスタジアム。一年目には敬遠していた (shy away) がいまでは毎週試合から目が離せない

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