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天使の生誕祭【2.5次元の誘惑 ファンショートノベル】


「ねぇ、やっぱりプレゼントはゲームの方がよかったかしら?」
「いや、やめておけ美花莉。お前の付け焼き刃の知識でゲームを選ぶより、その私服セットをプレゼントしてやった方がいい。何を貰っても喜んでくれるだろうが、そういうのは奥村に任せておけ……」

 美花莉の言葉にそう返して、先生は「お前のセンスに、あの子の私服はかかっているんだからな」と付け加えた。

「あはは、クリスマスの時は、アメリカの子供みたいに大喜びだったもんね。ウチのプレゼントは喜んでくれるかなぁ……? あ、ののぴは何あげるの?」
「私は、その……て、手作りの……」
「あ、また同人誌? ののぴ絵上手いもんね」
「そ、そうじゃなくて、今回はその……く、クッキーを……」
「あーね! リリサきっと喜ぶよ! どんなクッキーにするの? やっぱ凝った感じのやつ?」
「えっと……り、リリエルモチーフのクッキーを……」
「え? ちょっと待って……これクッキーなの? 絵と変わらないクオリティーじゃん? もう、公式のラバストにしか見えないんだけど!!」

 乃愛の手先の器用さには、今更驚きはしないが、あの完成度のクッキーを手作りとは……
 流石としか言いようがない。
 リリサの喜ぶ顔が今から目に浮かぶようだ。

「もはやその完成度は、手先が器用とかいうレベルじゃないな……」
「ですね」

 俺の横でアリアと乃愛のやりとりを眺めて先生がこぼした言葉に、思わず同意してしまう。

「因みに先生、『りんごのカード』10枚は流石にやりすぎです。自重して下さい」
「ぐぬ!? し、しかしな、奥村」
「しかしもかかしもないです。そのカードは全部自分で使って下さいね」

 相変わらずリリサ相手だと財布がバカになる先生に釘を刺してから、俺はため息をついた。

「にしても、誕生日がこどもの日とは、リリサらしいとは思うが、国民の休日というのは場合によっては少し気の毒だよな」
「そうですか? 誕生日が休みの日なんて、羨ましいですてけど」
「いや、知られていない場合、学校の友達とかには祝ってもらえなくなるだろ?」
「別に平日でも、学校の友達に誕生日なんて祝ってもらったりしませんけど?」
「……ちなみに、お前の誕生日は?」
「? 2月2日ですが?」
「……来年はきちんと祝ってやるからな!」
「何で先生が泣いてるんですか……?」

 何故だか俺のことを抱きしめて来た先生に首を傾げつつ、飾り付けがだいたい済んだ部室を眺めて、俺はスマホで時間を確認する。
 リリサがやってくるまで、後少し時間がありそうだ。

「まーくん、リリサちゃんが来るのは15時だっけ?」
「ああ、その時間に来る様に伝えてる。もしかすると少し早く来るかもだけど」
「サプライズ、成功するかしら? 誕生日に部室に呼び出しなんて、流石に気付くんじゃ……」

 マリ姉の心配はもっともだが、俺はなんとなく大丈夫な気がしていた。

「いや、多分大丈夫だ。昨日のコスプレイベントの準備で、ヘタをすると自分の誕生日が今日だってことを忘れてすらいる可能性もある」
「……流石に自分の誕生日を忘れるっていうのはない……と思うけど…… いや、リリサちゃんならあるいは……?」

 それに、仮に自分の誕生日を覚えていたとしても、俺たちがこんなサプライズパーティーを用意しているとは思わないだろう。
 多分『私なんかの誕生日を誰かが祝ってくれるわけがない』とか、そんな風に考えているに違いない。
 リリサは何というかそういうやつだ。

「喜んでくれるかしら?」

 心配そうに言うマリ姉。
 そんなマリ姉に、俺は思わず笑ってしまう。

「この光景を目にして、リリサが喜ばない未来なんて想像出来るか?」
「……ふふふ、1μも想像できないわね」
「あはは、だろ?」

 リリサが喜ぶ姿を思い浮かべて笑うマリ姉つられて、俺も思わず笑ってしまう。
 恐らく、今から十数分後、いや、下手をすれば数分後に訪れる未来を夢想して、気付けば部室にいる全員が笑顔になっていた。

「あっ……」

 部室の外の廊下から聞こえて来た軽快な足音を聞いて、乃愛が飼い主の帰りに気付いた忠犬のように反応する。
 続いて、美花莉やアリアもソワソワし出した。
 先生とマリ姉もクラッカーを構えて、楽しそうに笑っている。
 時間を確認しようと覗き込んだスマホの画面に映り込んだ自分の顔も、情けないくらいに口元が緩んでいた。

 やはりリリサはいつだって、この部室の笑顔の中心にいるんだな。
 そんなことを考えていると、廊下の足音は扉のすぐ向こうまで近づいて来ていた。

「すみません! もしかして遅れちゃいましたかっ!?」

 ガラッと大きな音と共に、部室のドア開けて入ってきたリリサ。
 そんな今日の主役に向けて、盛大多音と共にクラッカーの中身が降り注いだ。

 その瞬間の表情を収めるべく、俺は構えていたカメラのシャッタを押した。

 さぁ、楽しいパースデーパーティーの始まりだ。




 

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