【短編】古き良き時代。【今日は何の日 : 0730 梅干しの日】

 おにぎりの具、私は梅干しが好きだ。

「でも、みんな『えぇー』って言うんだよねぇ……」
「いや、突然何を言い出すんだ、お前は?」

 思わず口から出てしまったらしい言葉を聞いて、お兄ちゃんが怪訝な顔をして私を見た。

「私ね、おにぎりの具は梅干しが好きなの」
「……うん、知ってるぞ? だから、明日の弁当、おにぎりがいいとか言うから梅干しのおにぎりにしたぞ?」
「うん、ありがと、お兄ちゃん。――でもね、みんな梅干しのおにぎりが嫌いだって言うんだよね……」
「まぁ、確かに、人気はないよな」

 私の言葉に、お兄ちゃんはあっさりそんなことを言う。
 こうハッキリ、人気がないとか言われると、ちょっと腹が立つ。
 あんなにおいしいのに、何で人気がないとか言うのだろうか。
 少なくとも、私の中では、人気No1のおにぎりなのに……。
 なんか悔しい。

「何と言うかさ、色々な具が増えすぎて、結果好みが分散したんだよな……多分さ」
「ん? どゆこと?」

 不服そうな私を見て、お兄ちゃんが何かを話してくれているのだが、いまいちよくわからない私は困った顔でお兄ちゃんを見返す。

「いや、だからさ。昔はしゃけ、梅、昆布くらいしか、おにぎりの具ってなかったんだよ。それがタラコとか、ツナマヨとか増えてきて、コンビニのおにぎりが売り上げを伸ばしただろ? そこを見て、色々なおにぎりができてさ……買う側も色んなおにぎりの味を知っちゃったから、色んなおにぎりに人気が分散されたんだよ」
「あー……なるほど。でも、その中でも老舗の梅干しが何で不人気になったのさ?」
「えーとな、この件に関して、俺は客観的な事実を分析しているだけで、梅干し不人気の現実に対して、俺は何の責任もないからな」
「分かってるってば!」

 選択肢が増えて、みんなの人気が分散したのは分かった。
 でも、何で梅干しの人気が、他の具に比べて急降下したのかが納得がいかなかったのだ。

「いや、老舗だからじゃないか? 最近の若者も年寄りも、最新の○○に弱いだろ?」
「あー……確かにそうかも?」

 新商品が出ると、SNSで誰かが拡散して、それが一気に売れるというのが、今の新商品の売れ方だ。
 だとすれば、老若男女関わらず、みんながそう言う新しいものに飛びついていると考えても良いかも知れない。

「そう。だから、一番の古株である梅干しは、新しさがないから、人気が廃れちまった……的な?」

 お兄ちゃんの説明に、私はなんとなく納得した。

「古き良きおにぎりの具を、みんなはいつか思い出すかな?」
「きっと帰ってくるよ。原点回帰もまた、時代の流れだしな」
「そっか」

 何だかよく分からないが、分かった気がする。

 私は、試しに、お兄ちゃんが作ってくれたおにぎりの残りを食べてみた。
 口いっぱいに、甘酸っぱい梅干しの味が広がる。
 私はやっぱり、南高梅が好きだ。
 最高においしいと思う。
 塩気の効いたご飯と、最高の相性だと思うのだ。

「お兄ちゃん! やっぱ、梅干しのおにぎりは最高だよ! 間違いないよ!!」
「そうかい。それは良かったよ」

 私は、私の大好きなおにぎりの具である梅干しが、やっぱり最高の具だと確信して、お兄ちゃんに宣言する。
 が、お兄ちゃんからは気のない返事。

「もう、それでも『梅干し党』の一員なの!? しっかりしてよ、お兄ちゃん!!」
「いつから、俺は『梅干し党』の一員になっんだよ!!」

 お兄ちゃんが何か言っているけど、そんなのは気にしない。
 私は、おにぎりの具の一番はやっぱり『梅干し党』の党首として、明日の課外学習のお弁当の時間には、全力で梅干しおにぎりのおいしさを周囲にアピールしていこうと思うのだった。


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