2022年の映画備忘録

2022年の私的なランキングです。まずは雑感。
アクの強い監督がエンタメに徹した作品、コミュニケーションを描いた作品、シンプルに大好きな作品など、選出も雑多。今年は好きな監督の新作が多く、嬉しい一年だった。ランキングの半分は追い続けたい監督の作品だ。選外だが、是枝裕和、ペドロ・アルモドバルの新作も好きだった。
ホラーも多かった。『女神の継承』や、Netflix『呪詛』など、モキュメンタリーのホラーは根強い人気だ。散りばめられた地雷を正確に踏む展開は様式美と言える。好みとは言えないが、エクストリームなバイオレンスは『哭悲』が最強。ホラーに限るならば、タイ・ウエスト『X』がベストだった。続編も楽しみ。
再上映、日本初公開の作品もちらほら。とりわけ、カール・テオドア・ドライヤーの作品が素晴らしかった。『怒りの日』の衝撃は忘れられない。未見だった、『オールド・ボーイ』、ホラーのお決まりが詰まった『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の鑑賞も嬉しかった。

2022年も楽しかった。
2023年も映画館に行こう。

【10位】MEMORIA

アピチャッポン・ウィーラセタクン『MEMORIA』

物語の内容よりも、感覚器官に訴える体験に惹かれた。極度に静的な作品で、聴覚が研ぎ澄まされる。例えば、森の中に入ったときには、様々な音が聞こえる。風に揺れる木々、虫の鳴き声、川のせせらぎ。そのときの鋭敏な感覚の映像化だった。環境音楽の視覚化とも言える。鑑賞後、新宿の喧騒に惹かれて、それも奇妙な体験だった。

【9位】ちょっと思い出しただけ

松居大悟『ちょっと思い出しただけ』

池松壮亮の部屋に住みたい。生活感が溢れる邦画に弱い。
傷とか、呪いとか、未練とか。マイナスな感情が脳裏を掠める物語と思いきや、予想を裏切られた。あの人は元気だろうか、平穏無事だろうか。もしくは、疎遠な人の幸せを祈るとか。まさに、ちょっと思い出すくらいの匙加減が絶妙。恋愛に限らず、「思い出す」を呼び起こす映画だった。あなたは元気でしょうか。

【8位】秘密の森の、その向こう

セリーヌ・シアマ『秘密の森の、その向こう』

静けさと緊張感が漂いつつも、淡々と物語に誘い込む語り口は『燃ゆる女の肖像』を思い出した。日常と神秘的な出来事がシームレスに描かれる。言葉では語らず、物語を保たせる映像も美しい。部屋に差し込む光、鮮やかに色付く森。そして、子どもたちが可愛い。スタイリングも丁寧。主人公の後悔を掬い上げて、しっかりと成長も描く。73分の尺もお見事。

【7位】ナイトメア・アリー

ギレルモ・デル・トロ『ナイトメア・アリー』

早速の余談だが、海外ではモノクロの上映もあったらしい。ずるい。観たい。ギレルモ・デル・トロの作品の中では、最上級のエンタメだった。なぜなら、化け物が出ないから。『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』は未見。こちらも好評なので、休暇中に観たい。
物語はストレートで、オチも予想を裏切らないが、ブラッドリー・クーパーの演技に引き込まれた。過去を振り払い、路地を走り、廊下を逃げ惑い、小路の出口(どん詰まり)に辿り着く。スタンの末路に溜め息が漏れる。

【6位】あのこと

オードレイ・ディヴァン『あのこと』

最悪な男が何人も現れるが、男が最悪な映画とは言い切れず、主人公、アンヌの浅はかな部分も描かれる。アンヌの友人も「羞恥心よりも、欲望が勝った」と語り、それも印象に残った。
アンヌの焦り、痛みが伝わり、非常に苦しいが、性別、年齢を取っ払い、彼女に入り込ませる監督の意図は大成功だ。同様の政策を描いた『4ヶ月、3週と2日』とも重なる。こちらの舞台はルーマニア。忘れられない作品のひとつ。

【5位】TITANE

ジュリア・デュクルノー『TITANE』

デヴィッド・クローネンバーグの息子よりも、デヴィッド・クローネンバーグの後継者に近い、ジュリア・デュクルノー。カンヌ国際映画祭の写真が素敵だった。親子か。御大の新作も楽しみ。
https://twitter.com/TerrorActo_/status/1528331759988916225
ヘンテコな映画だった。あらすじはキワモノだが、衝撃的な部分は予想の範疇なので、驚きは少ない。むしろ、物語の転がり方に驚かされる。大立ち回りのシーンも最高だ。
妊娠、出産に伴う痛みが描かれるが、それは男性には知り得ない痛みで、絶望的な男女の違いにショックを受けた。痛々しいのは伝わるが、安易には語れない。戸惑いも覚えたが、これに対する回答が『あのこと』だった。

【4位】NOPE

ジョーダン・ピール『NOPE』

フルサイズのIMAXを十二分に味わった。縦の動き、スクリーンを見上げる構図、暗闇の表現。純粋に映像が楽しかった。一番の盛り上がりを見せる、撮影のシーケンスも素晴らしい。無名の黒人と馬の映像を踏まえれば、OJの乗馬のシーンには胸を打たれる。最新の技術を使い、最高にイケてる乗馬のシーンを撮る。ジョーダン・ピールの気概も最高だ。

【3位】リコリス・ピザ

ポール・トーマス・アンダーソン『リコリス・ピザ』

映画館の雰囲気が幸福だった。封切りの7月1日、日比谷、大入りの劇場。観客の笑い声も聞こえる。夏の始まりにぴったりの映画だった。The Doorsの「Peace Frog」が流れる、商売を始めるシーンが大好き。

【2位】ケイコ 目を澄ませて

三宅唱『ケイコ 目を澄ませて』

ろう者の方たちに起こりうるコミュニケーションの齟齬がリアルだった。知る由もない気苦労や、健常者の無自覚な対応は身につまされる。些細なずれが生まれるコンビニのシーンは日常茶飯事なのだろう。ろう者とわかり、コミュニケーションを切り上げる警察官の姿にも憤りを覚える。
ゆえに、ケイコと周囲の人たちのコミュニケーションには胸を打たれる。そこに声を発する対話はないが、手話でも、読唇術でも、拳でも、視線だけでも、それぞれの対話が成り立つ。ひとつひとつのコミュニケーションと関係性に涙が溢れる。
三宅唱は、生活を丁寧に描く。私と地続きの生活を送る人々の姿が映し出される。『きみの鳥はうたえる』の若者たちも、ろう者のボクサーも、町に生きるひとりの人間の姿だ。裕福とは言えないが、そこに生きる人間の豊かさと孤独を捉えた作品に惹かれる。

【1位】カモン カモン

マイク・ミルズ『カモン カモン』

マイク・ミルズの作品は、家族と人生の物語ばかりで、自身の人生と照らし合わせて、色々と考え込む。親に対する視線も、子どもに対する視線も、一定の距離を取り、適切なバランスだった。安易な家族愛、子育ての尊さに落とし込まないのも好感が持てる。子育ての疲弊を語らう大人たちも、大人たちが思うよりも周囲を見てる子どもの姿も、どちらも丁寧に描かれる。
子どもをひとりの人間、もしくは他者と捉えるのも誠実だ。親でも、子でも、お互いの理解が必須とは思わない。なぜなら、他者だから。そして、他者だからこそ、コミュニケーションを取る。対話、理解、関係性の構築。当たり前のプロセスだが、叔父と甥の関係性で描くのは新鮮だった。
マイク・ミルズは、「大人には、子どもの未来に責任がある」と語り、ずっしりと重い。大人の責任を、大きな視点と個人的な視点で描いた作品とも言える。前者は社会的な意味で、後者は子育て。主人公は、見ず知らずの子どもたちにインタビューを行い、擬似的な子育ても行う。両方の視点が重なる構成も上手い。さすが。

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