菅付雅信「インプット・ルーティン」

ダイヤモンド社


本書が主張していることは以下。

アウトプットの質と量は、インプットの質と量が決める。
足りないものは、圧倒的にインプットである。


新しいアイデアは、「A×B/C」(既存のアイデア×既存のアイデア/大量のインプット)によって生まれる。

「インプットの質と量」ということに重きをおいた本書には、「クリエイションを学ぶための100冊」、映画ベスト100、アート・写真ベスト100、音楽アルバムベスト100、口のインプットの参考図書13冊といったリストが掲載されています。

新しいアイデアは既存のアイデアの掛け合わせであるから、既存のアイデアをより多く知っておく必要がある、という本書の主張によるものです。

たとえば、音楽アルバムベスト100のなかで挙げられている「日本のロック/ポップ・ミュージック」は、はっぴいえんど、細野晴臣、サディスティック・ミカ・バンド、坂本龍一、イエロー・マジック・オーケストラ、高橋幸宏、大滝詠一、山下達郎、ピチカート・ファイブ、コーネリアス。
60歳の著者の選盤だから仕方ないとはいえ、あまりにもはっぴいえんど、YMO史観すぎることは指摘せずにはいれません。

とはいえ、どこまで愚直に取り入れるかは別として、インプットの基礎を知ることは必要なことには同意します。

もう若者ではない自分は愚直にリストに沿うことはしないけれど、それでも何らかのインプットは続けるでしょう。
何かのアウトプットのためのインプットではなく、習慣としてのインプットだから、どこまでアウトプットに結びつくかは不明ですが。

本書では、一線のクリエイターたちがどれほどインプットしいているかのエピソードが紹介され、著者の主張を補強していきます。
たとえば、レイ・ブラッドベリの「(クリエイティヴになりたければ)1000日間、毎晩、短編小説を1つ、詩を1つ、エッセイを1つ、頭に詰め込みなさい」という言葉や、ビル・ゲイツの「THINK WEEK」という高負荷読書を行う習慣。

最終、第6章では、「既存のアイデアの掛け合わせ」の事例が紹介されます。
たとえば「初期の村上春樹のネタ元は、現代アメリカ文学」であるとか、「宮崎駿の凄さとは、遠くからネタを持ってくる力である」といった具合に。

本書には帯がなく、タイトルよりも「天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。」という副題が大きくレイアウトされています。

この装丁に驚いたのが買った理由の8割、内容はまぁそうだろうなという印象。

著者が読者に期待しているであろうことは、AIに対抗できるようになること。

それは、遊びやユーモア、意外性、楽しい間違い、冗漫さ、矛盾、両義性といった、ロジカルな「解答・解決策・ソリューション」ではない要素を多く孕むことだ。
優れたクリエイションは、優れた問いでもある。
発しているクリエイター本人でもよく理解できていないケースも多々あるのだが、それがゆえに本人も受け手も強く触発するものが生まれたりする。

266ページ

最後に、もっとも勇気づけられた箇所を引用したい。
インプットを重ねることは、どこへ繋がるか?の答えでもあります。

音楽とノイズは紙一重であるように、いいクリエイションも陳腐で紋切り型のものと実際は紙一重。それは現代アートや現代美術を数多く見たり聴いたりするとより実感するはずだ。

どうしたら魅力的で斬新な組み合わせになり、どうしたら陳腐になってしまうのか?

人は陳腐になることを恐れるあまり、つい保守的で定番の「魅力的とされているもの」ばかりを組み合わせる傾向がある。そこで斬新と陳腐の微妙な紙一重のラインを理解して、ときにそのラインをわざと横断するような表現を行うと、人は新鮮に感じてくれるものだ。新しいものをしっかり理解していれば、ときに思い切りダサいものや古いものをうまく組み合わせて、新しい美をつくることができたりする。

ただし、「美しいものは何か?」は永遠の課題で、ピタゴラスもダ・ヴィンチもゴッホもピカソもベートーヴェンも千利休も葛飾北斎も追求しつつ苦悶し続けた。だから私たち後続も、その永遠の悩みの領域に吹っ切れた覚悟を持って足を踏み入れよう。

「簡単に答えはでない。だからこそ、面白いのだ」と。

263ページ

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