世界一お金持ちの国の貧しい現実
日本の対外純資産は31年連続世界一です。
だから世界の誰に聞いても「日本は世界一のお金持ちの国」と答えます。
しかし「世界一のお金持ちの国」と言われても私たち日本人の生活実感からはかけ離れています。現実は貧しさを感じる。どうしてなのでしょうか。
先月9月に岸田首相がニューヨークに行って「日本へ投資を」と呼びかけました。これに対して私が以下のようなTweetをしました。
これに対してjpassさんから質問がありました。
Twitterでは長すぎる回答になるのでnoteで回答することにしました。
正確に言えば対外純資産額そのものが国内投資の足りていない額になるわけではありません。
対外純資産額は基本的に経常収支(貿易収支が基本)の黒字額が集積したものです。対外資産は毎年の金融資産の配当(所得収支の黒字)が加わって年々拡大していきます。長年貿易黒字国であった日本の場合は結果的に対外投資が拡大していくという構造になっています。
これに対して国内投資の方に目を向けるとjpassさんが別Tweetで仰っているように直接投資と金融投資を分けて考える必要があります。
私の問題意識はjpassさんの問題意識と同じ方向性にあります。
②と③は重なっているので同じ内容を以下では別の言葉で説明します。
GDP(国内総生産)の定義は
GDP=民間消費+民間投資+政府支出(=公的消費+公的投資)+輸出-輸入
GDPの定義の中に「金融投資」という項目がないことに注目してください。
金融投資をしてもそれだけでは直接GDPには影響しないということです。
ただ、金融投資が純増しているという現象(結果)は、
・民間投資(金融機関による貸し出し)
・国債の新規発行を通じた公的投資
が増えているという現象(結果)を表します。
つまり、GDPの拡大に繋がっていると見てとれます。
岸田首相はこの面を捉えて仰っているのでしょう。
しかし、今ある金融商品を外国人が買ったところで金融商品の所有権が日本人から外国人に代わるだけで日本経済にとっては何の意味もありません。
ポイントは金融商品の発行が増えるような構造を作る必要があるということです。そうすればわざわざ日本の首相が海外に行って株式市場関係者に投資を呼びかけなくても経済合理性から外国人は勝手に日本株式を買ってくれるようになります。
ここでGDPの構成に戻ります。
GDP=民間消費+民間投資+政府支出(=公的消費+公的投資)+輸出-輸入
のそれぞれの項目がどのような関係になっているのかということに注目しましょう。
全ての起点になっているのは、
民間消費です。
民間消費が増えると、より多くの利潤を求めて民間投資が増えます。
ここでいう民間投資とは直接投資、つまり、民間消費増を見越して設備投資をする(機械を買う、工場を建てる)ことを言います。
民間消費や民間投資が増えると企業の売り上げが増えます。
固定費は一定なので企業の粗利(利益)が増えます。
企業の利益が増えると企業業績が上向くので株価が上がります。
株価が上がりますので金融商品への投資が増えます。
このような因果関係があります。
つまり、金融投資を増やそうとすれば民間消費を増やす必要がある。順序としては
民間消費増→民間投資増
の順です。民間消費が増えないのに直接投資を増やしてしまうと不良資産になるので企業収益を圧迫します。
だから、先に民間投資増を主張している反積極財政派はここで論理的な誤りをしていると言えます。(岸田首相も反積極財政派なのでしょう。)
さあ、そうすると民間消費が増えない構造にある日本ではどうすればいいのか?という話になります。
そこで重要になるのか政府支出(=公的消費+公的投資)です。
政府支出の定義は
政府支出=公的消費+公的投資
公的消費:医療や福祉、公的教育など
公的投資:公共事業など
と理解していただければいいでしょう。
おおざっぱな言い方になりますが、医療・介護・教育を増やすとその現場で働く人の給料が増えます。また、公共事業を増やすとその現場で働く人の給料が増えます。
その結果、民間消費が増えます。
民間消費が増えると民間投資が増えます。
民間消費や民間投資が増えると企業の売り上げが増えます。
企業の単年の収益を見ると経費のうち固定費は大きく変わらないので売上増は粗利増に繋がります。(粗利は「あらり」と読みます。)
企業の粗利は
粗利→従業員の取り分+企業の取り分+資本家の取り分
の3つに分配されます。
日本の企業は赤字の企業が多いので、赤字企業は配当できないという会社法の規定から資本家の取り分は少ないです。また資本家の取り分を増やしても日本での再投資には使わないので日本経済にとってはあまり意味がありません。
そうすると従業員の取り分と企業の取り分を増やす必要がある。しかし、それぞれの取り分を増やそうにも、
企業は借金を返さないといけないですし、
従業員も住宅ローンや貯金をしなければいけないので、
必ずその分のお金はなくなるか滞留します。
次の取引には使われません。お金は不足します。
放っておけば経済は停滞します。
経済成長期には不動産や株式の価格が上昇します。
資産価値が増えるので資産を担保にした貸し出しも増えます。
貸し出しが増えれば民間に流通するお金が増えるので、
足りなくなったお金の分が供給されます。
しかし、日本の今の状況のように、その国が成熟期に入ると
不動産や株式の価格が上がりません。
その結果、貸し出しが増えることによって供給されるべき必要なお金の総量が供給されない、そのため、民間消費も民間投資も増えないという構造になっています。
以前から説明しているとおり、
政府支出の純増は、(国債の追加発行を通じて)民間に流通させるお金の総量を増やします。(反積極財政派はこの信用創造のしくみを理解できていません。)政府支出増が必要なのは、金融の側面でも必要なのです。
以上がとりあえずの説明です。
私が外国人だったら、「外国に来て投資を呼びかける暇があったら、自国通貨を発行して自国内で公的投資をして、GDPを増やして、企業価値を高めたらいいではないか。岸田首相、あなたの権限でそれはできるでしょう?」と思います。
長文になりましたが、未だ未だ説明し尽くしている感じはしません。またラジオや基礎勉強会で説明いたします。
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