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ジェネリックざびえる/恐竜のたまご/シュレディンガーのケーキ
2022年3月20日 日曜日
東小金井のアルタナティブに行った。開業前にインスタの広告でお店を知って、美しいサブレシトロンに目を引かれてフォローして以来、ずっと見守り続けていた。家から遠いのと、普段あまり行かない新宿を経由するのとで腰が重く、今日オルガンついでにやっと来れた。たくさんのケーキを持ち運ぶことになるので、行くにはある程度の決意が必要だった。せっかくここまで来たなら、気になるケーキはすべて買って帰りたいと思いつつ、ひとりで食べるのはさみしいし、結構タフな作業かもしれないと思ったので、LINEで友達をドタ誘いするも無念。でも結局8つの生菓子とカヌレ、焼菓子を数点買って、ずっしり冷たい箱を持ち運ぶことになった。誰か暇な人見つかるかな。
次は西荻窪。organのデザートコース! 「なぜかデザートがおいしいビストロの絶品デザートコース」というイベント名は、以前出版した本にかけているらしい。勇み足すぎて一番乗りの到着。友達も二番乗り。本当は3人で行く予定だったところ、ひとり体調不良でやむなくキャンセル。お店の人も心配してくれていた。
早く着きすぎたので、つぶれないよう大切に持ってきていたジェネリックのざびえるを友達にあげた。ざびえるというのは大分銘菓のひとつで、刻みラムレーズン入りの白餡をバターが香る皮で包んだお菓子。会社の近くのスーパーで見つけて感激して以来、たまに食べている。(ジェネリックのざびえるとか言ってごめんなさい。あわしま堂のみるく饅頭(ラムレーズン入り)です。)
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すると、友達がお手製のマドレーヌをくれた。
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ので、僕も前日作ったクッキーをあげた。
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そんな感じできゃいきゃいしていると、少しずつ人が集まってきた。デザートコース、というかアシエットデセールを一度に三皿以上食べるのは多分初めてだったので、そわそわしながら待った。
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アミューズは、ビスキュイシャンパーニュ。
ドリンクのペアリングは、苺 梅 カルダモン
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かわいいピンク色だけど、味はかなりシンプル。蕎麦ぼうろがもっと軽くなったみたいな、赤ちゃんのおやつみたいな感じ。パリのスーパーではビスキュイ・ローズという名前で売られていることが多く「ピンクだしバラの香りがついてるのかな」と思って買って食べたら素朴な味でがっかりしたことがある。シャンパンと一緒に味わうものらしい。今日はペアリングがあるから、そこは安心。
ドリンクは甘くてとろみがあって、グラスの内に苺とカルダモンの香りが溜まっていて、スタートにぴったりだった。ロゼスパークリングをイメージしたらしい。微炭酸だった。
「桜の葉も食べれますよ」と言われて、あ そうなの?と思いながら食べた。(食べれるのはもちろん知っていたけど、到着より前に机に置いてあったから。飾りだと思っていた。) 地味だけど、おいしい。少し塩気があって、葉の香りが広がって、安心する。地味だけど滋味深い「地味滋味」にここ数ヶ月ハマっている。アンテナが少し反応した。
次は、きっと前菜にあたるのであろうヴェリーヌ。
(柑橘のグラニテ/カシスとバルサミコ酢のソース/リコリスのジュレ/グレープフルーツとアニスのジュレ/フェンネルのソルヴェ/ブラッドオレンジのコンフィチュール)
ペアリングはKOMBUCHA。台湾烏龍茶にグレープフルーツのような柑橘系の香りづけがしてあるみたいだった。
(いま打っていて「ソルヴェ」ってなんだっけ?と思ったけど、ソルベ(sorbet)のことだと思う。シャーベット(sherbet)のこと。)
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ヴェリーヌ(verrine)とは、元々ガラス製の脚がない小さな器を意味していたらしい。グラスデザートのことだ。
フランスでいち早く春が訪れる南仏をイメージして作ったそう。大人な味がした。リコリス、アニス、フェンネル(いずれもパスティスというマルセイユ発祥のリキュールの材料)というクセのあるスパイス、ハーブが効いていたので好き嫌いが分かれるかもしれないなと思いながら食べた。一番上に柑橘の粒々。真ん中にはハーバルでスパイシーなジュレとソルベ。最後にカシスとブラッドオレンジのコンフィチュールのしっかりした甘さ。グラスデザートは、見た目もきれいで構成=つまり「こういう順番でこういう味が来たらいいよね!」という作者の意図を感じるから好きだ。
KOMBUCHAは「ぜんぜん昆布茶って感じしないね」と言いながら飲んでいたけど、あれは昆布茶ではなくてKOMBUCHAだったのだということに帰ってから気がついた。KOMBUCHAって、日本人がイメージする「昆布茶」とは全く別物の発酵飲料で、数年前に飲食店でも流行っていた印象がある。あんなに流行っていたのに、飲むのは初めてだった。台湾烏龍の香りと味も合わさって、白ぶどうのような爽やかさがあった。
次はクレメ・ダンジュ。
(トラディショナル・トゥレーヌ・サンドレのクレメ・ダンジュ/炭といり番茶を使ったメレンゲ/レモンタイムのパルフェグラッセ/ハーヴのオイル/メロンとホエー、春の花々の蜂蜜のスープ)ペアリングは、胡瓜 蜂蜜 エスタラゴン。
(ここでもハーブherbがハーヴになっている。何か意味があるのかな?)
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これが一番好きだった。クレメ・ダンジュは、簡単に言うとすっごいやわらかいレアチーズ(ケーキ)という感じ。レアチーズケーキというかレアチーズそのもの(に生クリームとかを混ぜてつくるの)だ。トラディショナル・トゥレーヌ・サンドレってなんだよ、って感じだけど、シェーヴル、つまりヤギのチーズだそう。柔らかくてさわやかで、ほんの少しだけシェーヴル感のクセもあって、メレンゲがカシュカシュして、それがレモンタイムをはじめとするハーブの香り、メロンと蜂蜜の甘さと合わさって口の中を泳いでいた。「家でもこういうのしたい…!」と思った。ここまで完璧に作れないだろうから、ヨヨナムで食べたブラマンジェみたいなのをベースに、ハーブとかミントをかけ合わせておいしいものを自分でも作ってみたい! ハーブってすごいな。足し算とか引き算じゃなくて絶対かけ算になるもんな、と考えながら食べた。メロン、おいしいな。すき。
ここで小さなサプライズのプティフールサレ。「メニューには書いてないんですが」とのこと。めちゃくちゃ軽いパイ生地で柚子が香るレバームースが挟んであった。おいしい〜。甘いものが続くけど大丈夫かな、とは思ってたけど、やっぱり、そうですよねうんうんありがとうという気持ちで味わって食べた。サプライズなのもあって、心がギュンギュンした。
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最後となるメインはピュイ・ダムール。
(発酵バターのパイ/発酵生クリームとパティシエールのクリーム/グリオットチェリーのコンポート/グロゼイユとベルヴェーヌのソース/プラリネルージュ/ミルクソルベ)
ペアリングは、紅茶 林檎 シェリーヴィネガー。
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ここに使うパイと同じ生地が、さっきのプティフールサレにも使われているらしい。ピュイ・ダムール(puits d'amour)は、パイ生地にカスタードクリームを詰めたお菓子。直訳すると「愛の井戸」。「愛の泉」と紹介されることも多い。パイ生地が軽くて柔らかくて、中のクリームもかなりゆるめで、儚かった。壊れゆく愛の泉、溢れ出る愛の泉……。あたたかいパイとつめたいソルベ。あたたかいものはあたたかいうちに、つめたいものはつめたいうちに……。アシエットデセールだからこそできること。時間との勝負だった。
「きれいに食べるね」と言われた。しかしその実、おいしいものを余さず食べ切りたい食いしんぼうなだけなのだ。
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最後に、パティシエ、パティシエールのお二人が席まで来てお話ししてくれた。「お腹いっぱいになりました?」と聞かれて、「あっ お腹いっぱいには……😅(ならない)」と答えてしまい、心の中で(あっ やべ ミスった)と思った。このやり取りの前に、友達とも(これ後で絶対お腹空くよね)と小声で話していたのが、まさかのここで災いした。
おみやげももらった。プラリネ・ルージュはその名の通り赤く色付けたプラリネ。リヨンの名物らしい。さっきのピュイ・ダムールのお皿にも転がっていた。これもピンクだけど、味は素朴な甘さ。
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こうして振り返ってみると、シャンパーニュ、マルセイユ、アンジュ、リヨン、パリ(パリ発祥かどうか調べてもよく分からなかったけど、ピュイ・ダムールといえばパリ最古と名高い1730年創業のパティスリー「ストレール(Sthorer)」が有名だから)といった感じで、フランス菓子の色んな側面を見ることができる、おいしくてたのしくて勉強にもなるデザートコースだったなと思った。今回はどれも軽めだったから、次は焼菓子とか少し重めのものも食べてみたいなと思った。それに、是非organでもuguisuでも、4人くらいでディナーに伺いたい。饗宴を待ち侘びている。
友達とorganを出て、また「絶対お腹すくよね」と話した。唐揚げ食べたい気分、と冗談めかして言うと、友達が「知り合いが代々木上原で今日唐揚げとチャーハン売ってるんだよね」と言うので、足を運ぶことになった。
電車で移動中に、友達に「さっきorganでお腹いっぱいにはなりませんって言ったの間違いだったかな」と聞いたら「いやあれはお腹いっぱいにはならないでしょ」と言っていたので安心した。また人間関係を間違えたかと思ってしまった。
チャーハンも唐揚げもおいしかった。チャーハンを作ってくれたお兄さんが、「すいません、多かったですよね」と言うので、2人で食い気味に「そんなことないです」と返した。「なんか気づいたら多めに盛っちゃうんですよね」とのことだったので、「ぜひこれからも引き続きそのようにしていただければ」と言っておいた。これからも大盛りのチャーハンが振る舞われ続けますように。
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お会計を済ませて、ハンガーにかけていたコートを取りに行ったら、席の方でドサッと音がして、振り向くと椅子からケーキの箱が下に落ちていた。混乱しながら、こんなこと初めてだったので、「こんなこと初めて!」と叫びながら笑ってしまった。ケーキが床に落ちても、案外ショックじゃないものだなと思った。人にあげるケーキじゃなくて本当によかった。友達に「シュレディンガーのケーキだね」と言ったこと以外の記憶がない。気が動転していたらしい。
結局誰も捕まらず、家に帰って箱を開けると、見事に散らばっていた。まあ口に入れば同じでしょ、と思っていた。このときは。
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いざ食べてみると、ひとりで食べる久しぶりのケーキが思いの外つまらなかったことと、崩れたケーキは作者の意図が分からなくなってしまうので「口に入れば同じ」ではないことに気がついた。なんというか、僕が崩れたケーキを食べるのはいいとしても、構成をぐちゃぐちゃにしてしまったケーキを食べるのがパティシエの方々に申し訳ない…という気持ちになった。ちょっとこれは……、リベンジしなければ。必ず。
あとやっぱり、ひとりで食べるにはタフな作業だったので、半分だけ食べて、残りは翌朝に食べることにした。
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