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柑橘に弾丸を埋め込む 20230309

スーパーに柑橘類がたくさん出回るようになった。八朔、伊予柑、清見オレンジ。軒先の棚を埋め尽くすだいだい色のバリエーションに【橙がなぜ色の代名詞になったのか】を考えながら、赤いネットに入った大きな3つの玉を籠に入れる。

買い物に、子どもは一緒に来ない。特に興味がないらしい。犬と一緒に留守番してくれるようになって、どうでもいいことを考えながら商品をだらだら選ぶ余裕ができた。だから、あ、そういえば柑橘を剥いて出してあげると喜ぶんだよな、ということを買い物の最中に思い出すことができた。

朝、トーストや目玉焼き、スープをテーブルに並べる。子どもが食事をとるあいだ、柑橘を剥く。広島生まれのムッキーちゃんというアーニャのセリフみたいな便利グッズで、するすると薄皮を剥がす。子どもはもぐもぐと口を動かしながら、わたしの手元を見ている。

「やりたい。」
と言うので簡単に使い方を教えて、分厚い外皮を脱いで白い綿を纏ったような姿になっている八朔をわたした。

しばらくして
「おかあさん、この、種ってさ、まるで弾丸が刺さってるみたいだよね。」
と、子がつぶやいた。
ときどき指を舐めたりしながらもくもくと房を開き続ける小さな指を見つめながら、細く痩せた指で弾丸を詰めているかもしれないどこかの国の子どもたちのことがふと頭に浮かんだ。

子どもが剥いてくれた八朔の実に、これでもかと食い込んでいる小さな白い種を口の中で選り分けながら、遠くで鳴る八時のチャイムを聞いていた。