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映画「死刑にいたる病」の感想と考察

U-NEXTで映画「死刑にいたる病」を観たので、感想と考察書きますよ。なお原作未読で、ネタバレ気にしていません。

どんな映画?

 阿部サダヲ演じる猟奇連続殺人犯で死刑囚・榛村(はいむら)と、嘗て榛村の営むカフェに通っていた学生・雅也との交流を軸にしたミステリーです。

 榛村が過去に起こした事件を調査していくうちに、若い男女の心に侵入し、拐かし、拷問し、跡形もなくしてしまうという異様な犯罪を雅也が追体験していくのですが、差迫る映像で観客も同じ体験を味わい、感じることで、徐々に精神を侵されていく、とても素晴らしい作品です。

「凶悪」との類似性を考察

 榛村は劇中のトリックスターであり、信頼できない語り手です。しかし、雅也が辿った道を目の当たりにする事で、観客は榛村を信用してしまうのです。

 ところで、この映画は「凶悪」と同じく白石和彌監督の作品です。「凶悪」でも、獄中の須藤(ピエール瀧)から手紙を受け取った藤井(山田孝之)が、須藤との交流と取材により、須藤が木村(リリー・フランキー)と共に犯した凶悪な所業を暴き出し、観客は彼らの罪を追体験しました。

 このように、ふたつの作品は、とても似た構成の物語です。そして、やはり須藤は劇中のトリックスターであり、藤井と観客は彼を信用してしまう事で、彼の思い通りに物語を転がしてしまいます。

 本作でも、雅也と観客はまさに榛村の操り人形でした。長年にわたって欲望の向くままに若い命を弄んできた榛村の言葉など、本来であれば取るに足りません。しかし、榛村の巧みな誘導に、雅也と観客は知らず吸い込まれていきます。

この作品の魅力について

 榛村と雅也が面会室での交流を重ねるうち、ふたりを隔てていたパネルを“ずるり”と通り越して手と手が絡み合った時の悍ましさに。母が過去に榛村と関係があったと知った時の、雅也を映すカメラの回転に。雅也が衝動に駆られて男を襲う時の雨に。面会室での反射を利用したふたりの顔の距離に。

 様々なシーンで、役者以外の部分に人物の感情を配した演出が見られました。これらがとても絶妙で、構図や速度や角度や密度が役者の演技をより深いものにしているところが、この作品の魅力のひとつだと思います。

 もちろん、“皆が好きになる”モンスターである榛村を見事に体現した阿部サダヲの演技も、作品の魅力に大いに貢献している、というか魅力の大半を占めています。しばらく他のドラマで彼を見かけても、榛村がチラついて怖くなる事は請け負いです。

榛村の人物考察

 は、今回は割愛します。人当たりの良さや計画性、執着の強さから典型的な秩序型サイコパスであることは明白で、せいぜい嗜虐性が強いのが特性といったくらいなので、深堀りするほどの事はないと思います。

 物語終盤の展開においても、まあ普通に観ていればある程度は答え合わせに過ぎない内容なので、改めて榛村の用意周到さと“遊び”を説明するまでもないでしょう。

おわりに

 久しぶりにとても良い作品に出会えたな、というのが素直な感想です。胸の踊るシーンの多さ、ミスリーディングの巧みさや音楽の使い方、演出の適切さに高い演技力と見所に溢れ、観客という立場を忘れて文字通り没頭してしまう高いクオリティの映画でした。十年に一度出会えるかどうか、と言えるレベルかもしれませんね。

 恐らく、原作もとても素晴らしいのでしょう。文章から映像が浮かび上がるような物語であろうと想像できます。

 爪を剥ぐような残酷なシーンでも、目を背けずに、むしろ刮目できるそこのあなた。是非ご覧になってください。(了)

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