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「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」の感想

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 先日、珍しく映画館へ足を運んで、映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」を鑑賞してきたので、感想など書いていきます。愚痴多めでネタバレ気にしていません。
また、当方は原作ファンです。

どんな映画?

 2020年末から2022年末までの3カ年にわたり、NHKで放送されたドラマシリーズ「岸辺露伴は動かない」の劇場版として制作された、荒木飛呂彦の同名漫画を原作とした映画です。
 露伴が漫画家デビュー前に知り合った女性から聞いた、「最も黒い絵」を巡って起きる騒動から、その絵を求めて露伴自らルーヴル美術館に赴き、そこでえらい騒動に遭遇する、という粗筋で、"残念ながら"ホラー風味のあるミステリー作品、と認識しています。なぜ残念だったのか、は後述します。

良かったところは?

 TVシリーズから続投した、高橋一生(露伴)と飯豊まりえ(泉京香)の演技はさすがのコンビネーションがありました。この2人でなかったなら、この作品が成立しない、とまで言えるほどの完成度でした。

 岸辺露伴らしく、どっしりと構えてたじろぐ素振りもない(あるけど)高橋一生に対して、鈍感であり軽薄でありながら、決して機微を逃さない天才とも言える泉京香として、飯豊まりえの演技力は素晴らしいですね。

 個人的には、実は高橋一生が岸辺露伴を演じることについて反対派です。第一に彼の年齢(40代)と露伴の設定年齢(20代)が合っていないことです。彼の演技自体は大好きですし、彼の岸辺露伴に説得力があることは間違いありません。が、やはり滲み出る渋みに違和感がなくはない…。若さゆえの自信であり無謀であり活力、という解釈からすると、やはり同年代の俳優をキャスティングして欲しかったなあと思っています。
 第二に、彼の演技手法と、荒木飛呂彦が描く露伴の表現の違いです。原作の露伴は漫画のキャラクターであることからも、表情が豊かです。感情が表情にモロに出るタイプなので、どちらかというと表情の変化に乏しい高橋一生とは違う人格、という違和感が拭えません。

 繰り返しになりますが、高橋一生の露伴には説得力があります。風貌や仕草、声色までしっかり作り込んでいる彼の演技自体は真に素晴らしいものです。ただ、…という無限ループ。

 その他、ほんの僅かではあるものの、ルーヴル美術館内のシーンは圧巻でした。あれは良い角度で撮影しましたね。行ったこともないのに、ルーヴルの持つ、威圧感ともとれる大迫力をひしひしと感じました。本当に得体の知れない美術品のひとつも転がっているんじゃないか、と思うほどの迫力でした。

残念だったところは?

 全体的にガッカリ作品でした。
 やはり、"短編を長編に延ばす"という行為に無理があったんじゃあないかと思います。あれだけ密度の高い原作なだけに、付け足したストーリーやシーン、改変したシーンのほとんどが原作に比べて圧倒的に密度が足りず、尽く原作部分と馴染んでいないか、あるいは原作の良さを損なっていました。

 「本当に小林靖子の脚本なのか?」と疑いたくなるほどで、傑作と言っても良いホラー作品を、なぜホラー風味のサスペンスに変えてしまったのか、全く理解に及びません。実際には小林氏は言いなりに書かされただけで、ほとんど監督の意向なんじゃあないの?と思っています。特にモリス・ル・グラン絡みの追加ストーリーや演出は陳腐すぎます。

 なぜ、モリスの描いた普通の顔料の絵に仁左衛門の呪いが伝染っていたのか。なぜ、ルーヴルの展示作品のオリジナルが隠されているはずなのに、たかだか150万円程度でオークションから引き下がったのか。なぜ、強盗に入った二人組のうちひとりをヘブンズドアーで拘束しておきながら、何も読まずに帰したのか。なぜ、だいぶ乱暴に放り出した絵画がまったく無傷なのか。なぜ、仁左衛門の黒い絵の絵柄を原作とまったく違うものに改変したのか。

 下手にルーヴルへの導線を改変してしまったばかりか、ミステリー要素を主軸に据えてしまうという暴挙。原作クライマックスで、絵からズルリと出てくる奈々瀬の恐怖をまるごと削除したせいで、B級ホラー映画みたいにされたクライマックス。

 あんなことをするくらいだったら、劇場作品という明白な営利行為をやめて、今までどおりNHK地上波で年末に前後編合わせて60分くらいの尺にして、改変部分は泉京香の全編登場くらいにしておけばよかったのだ、と強く思います。
 過去に外事警察の劇場版でもやらかしてるし、NHKは映画の製作に向いてないんじゃあないの?とまで思ってしまいます。

更にがっかりしたことはある?

 奈々瀬役に木村文乃をキャスティングしたことが残念でなりません。仕草はいかにも登場人物の如き素晴らしさでしたが、本当に役作りをしてきたのか、と(また)疑いたくなるほどに台詞が馴染んでおらず、上滑りしていました。
 演出として、直前に丸暗記した台本を読まされたのだろうか…。その上滑りのせいで、彼女が喋るシーンでは全く違和感しか覚えず、せっかくの長尾謙杜さんのヤング露伴が入ってきませんでした。とても見ていられない。

 近年の彼女に見られる表情の乏しさも相俟っているかもしれません。もう少しダイナミックに表情と声を連動した感情表現のできる俳優であれば納得できていたろうと感じました。

 例えば誰だろうか。生見愛瑠(めるる)とか、白石聖とか(追記)井桁弘恵だと、だいぶ違った感想になっただろうなあ、と思います。

おわりに

 重ねて書きますが、心底残念な作品、という感想が第一に出てきます。劇場版ならではの深みのある映像と音楽で、最高の作品になっていることを期待していたからこそ、ショックが大きかったです。
 入場特典商法をやっていたので嫌な予感もありましたが、まさかこんな…。

 短編は短編のままで、というのがハッキリわかった作品になりましたね(了)

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