ブルアカ『対策委員会』3章感想──小鳥遊ホシノの長いお別れ
ブルーアーカイブのメインストーリーアビドス対策委員会編第3章(夢が残した足跡)の感想です。全面的にネタバレを含みます。
素晴らしかった。序盤は債権者組合の仕組みがよくわからん!とか契約書どうなってんだ?とか文句を言いつつ読んでいたが、途中からそういう細かいことがどうでも良くなってくる展開になり、ヒナ参戦後はずっと最高な瞬間が更新され続けていた。圧倒的な熱量と演出でねじ伏せてくる気迫があった。
ストーリーとしては、アビドスの借金とそこに付け入ってくるカイザーを始めとする大人たち、そしてホシノの独断専行というこれまでの『対策委員会』のストーリーと概ね同じ構造をなぞっているものの、各キャラの過去や細かい設定を掘り下げたうえで、「拳だけじゃ解決できない」情況にまでホシノたちを追い込んでいくということで今まで以上に絶望的な展開になっていた(HiGH&LOW THE MOVIE 3 / FINAL MISSIONだ)。
途中までは債権者集会に参加できるかとか生徒会長の権限を移譲するかとか、そういう知恵でどうにかする問題だったのに、カイザーが介入してきてからは完全に暴力の問題になり、さらにシェマタとかホシノ*テラーが出てきてからは暴力でどうにかなる問題でもなくなるのが転がし方として上手いと思った。
ユメ先輩とホシノ
ユメ先輩の「死」は作中でも特に暗く重いストーリーではあるが、全体として暗鬱になりすぎずにユメ先輩とホシノの楽しかったころの思い出に焦点が当てられていたのは良かった。取り返しのつかない過去は受け止めつつ前に進むしかないわけで、この手の話はどうしても無理やり自分の気持ちに折り合いをつけて再起するという展開になりがちだが、3章では「ホシノが手帳を探すことを断念する」という意表を突く落としどころを持ってきた。これはほんとうに上手いなと思う。
もちろん、手帳がなんで見つからないのかとか、けっきょくユメ先輩の真意はなんだったのかとかが気にならないわけではないけれど、そうしたことをプレイヤーが一足飛びに知ってしまうのも間違っている気がするし、これはこれで良かったのだろう。
手帳がなくても、ユメ先輩の真実──彼女の心の中を想像し、信じることはできる。第六の古則を通じて、先生はホシノにそう訴えかける。それこそが私たちにできる唯一の奇跡だ、と。
古則については別の記事で書くとして、今回のストーリーのテーマは「死者との対話」だった。先生もまたユメ先輩と対話するシーンがある。もちろんそれは「現実」の出来事ではない。ただ、先生はユメがそう言ったと信じた。そして「小さな積み重ねが大きな奇跡になる」というユメの描いた理想を信じた。
先生の言葉は、終盤のホシノとユメの対話に繋がる。実在の有無が確定せずに混ざり合う擬似的な「ナムラ・シンの玉座」の力によって、ホシノはユメと再会する。
もっとも、「ナムラ・シンの玉座」によっても死者を蘇生させることはできなさそうなので、おそらくそこで現れるユメはホシノがそうあってほしいと願い、信じた姿にすぎないのだろう。
しかし、先生の言う通り、死者の心の中を想像し、信じること自体が奇跡なのだ。
ユメとの再会に先立って、ノノミはホシノに対し「手帳を見つけられなかったから後悔しているんじゃなくて(…)ユメ会長に気持ちを伝えられなかったから(…)今も苦しんでいるんですよね?」と告げる。ずっとそばでホシノを見てきたノノミならではの、あまりにもクリティカルな指摘だ。
しかし、ノノミの指摘は的確だけれどすべてを言い当てているわけではない。
ホシノは再会したユメとの対話の中で、ユメから「後輩を守ってあげること」を託される。この対話は実際に起こった「事実」ではないが、ホシノがユメ先輩ならきっとそう言うだろうと信じた「真実」だ。そしてそれこそが、ホシノの欲していた言葉だったのだろう。ホシノはユメ先輩に許してもらいたかったのではなく、背中を押してもらいたかったのではないだろうか。
生前のユメはホシノに対して、「疑念、不信、暴力、嘘……そういうものを当たり前だと思うようになったら、私たちもいつか、自分を見失っちゃうよ」と言った。3章はまさに暴力や嘘の支配する世界でホシノが自分を見失っていく話だった。地下生活者からの干渉を受けていたとはいえ、ホシノがいざとなれば自分ひとりで責任を負って暴力でなんとかするという性格を持っている以上、そうなるリスクは最初から存在していた。
この構造は、最終編でハナコやセイアが話していた「国を破滅させた王」の逸話と似ている。「王」同様に、ホシノはあまりにも強大な力と危機感を持っていたがゆえに、アビドスを破滅の危機に追いやってしまう。
ホシノが後輩を守ろうとしたことは間違っていない。アビドスを守ろうとしたことも間違っていない。ただ、そのために不信や暴力を当たり前に思うようになってもいけない。ユメ先輩の思い描いた理想を実現するのはあまりにも難しいが、それでも、ホシノはユメ先輩からその夢を託されたかった。
きっとホシノの初期衝動はそこにあり、彼女はユメ先輩との対話を通してようやくそのことを思い出すことができたのだろう。
ホシノは自分の中に生きるユメ先輩と再会し、それによって救われた。
ホシノとシロコの対比
最終編以来のシロコ*テラーの再登場も見せ場のひとつだった。シロコがシロコを助ける展開だとか、前に戦ったからホシノを倒せると豪語するシロコ*テラーとか、これまでの積み重ねを彷彿とさせる描写には感動せずにいられなかった。
大切な人の死を共通項にしてホシノとシロコ*テラーが対話するのも美しい。ホシノにとっての手帳と、シロコにとっての仲間たちの武器が対比され、ホシノの救済がシロコ自身の過去との決別を齎し、さらには先生の募集にも応じてくれるようになるという……。
ただ、シロコとホシノのスタンスは完全に同じではなくて、前に進むためには過去を手放さなくてはいけないと思っているシロコと、手放す必要はないと思っているホシノの微妙な違いに味がある。
シロコの指摘するように、ホシノも「自身の本質の一部」を棄てることで過去を振り切っているが、彼女が棄てたのはユメ先輩との絆ではなくて、荒み尖っていた過去の自分だろう。一方、シロコは彼女のいた世界での仲間たちへの未練を棄てて、今この場にいる対策委員会との絆を選んだ。二人の違いは置かれた境遇の違いであり、性格の違いでもある。
二人の歩む道は微妙に違っているが、シロコ*テラーに対してもホシノが先輩としての務めを果たし、適切な言葉を投げかけているのが温かい。
ヒナ戦
演出面で最高だったのは、なんといってもホシノvsヒナだろう。キヴォトス最強議論スレでお馴染みの二人を直接対決させるまでの流れは、先生の電話からヒナの登場までじわじわと期待させる焦らしも良かったし、そこからさらにSDキャラとアニメの隙を生じぬ二段構えのバトルシーンに繋がるのも予想を数段超えてくる演出で度肝を抜かれた。
戦闘シーンの細かい描写も丁寧で良かった。ホシノが盾+ショットガンで距離を取りつつ、いざとなればインファイトできるのはなんとなくわかっていたけれど、ヒナの戦い方はあまりイメージが湧いていなかったので、”終幕:デストロイヤー”を銃剣みたいに使ったり、羽で浮遊して位置取りしてからの攻撃をしたりとか、臨機応変な戦い方が見えたのはかなり嬉しかった。
ヒナとホシノの勝敗については、ホシノがそれ以前に対策委員会とかスオウと連戦していたことも踏まえると万全の状態なら結果は違ったかもしれない。ヒナも(精神面込みではあるが)「やっぱり、私よりも強い」って言っているし。エピローグのスチルみたいに仲良くなった二人もみたいが…………本気のタイマンも見たい……!(心が二つある〜〜)
地下生活者とか先生とか
精神干渉系の敵かと思いきやふつうに爆弾でも攻撃してくるし、よくわからないといえばよくわからないものの、先生にゲームで勝ちたいという姿勢ははっきりしているのでどことなく憎めない。地下生活が長かったせいで、シロコとか大人のカードとか、重要情報を知らないまま参戦させられたのもかわいそうではある。
かなり悪どい敵だった気もするが、終盤、先生とプラナからガチ説教されたうえシロコにボコボコにされているので、上手いこと帳尻が合った感がある。大人が大人にガチ説教されてるのって、自分と関係なくてもなんかシュン……ってなりませんか?
対照的に、終盤の先生の制約解除〜大人のカードあたりはあまりにも格好良すぎて目が眩む。ゲームシステムの使い方が上手すぎる。
強いて言えばなんでこのシナリオの前に制約解除決戦が解禁されていたんだ?という点が謎ではあるが、まあそれをいうなら総力戦とかもそうだしな……ということであまり気にしないことにする。
雑感
細かいことを考え出すと、シェマタとかスオウとかなんだったんだよということになるが、それはまあ今後のシナリオでどうとでも補足できるので気長に待つべきなのだろう。ハイランダー双子の複線ドリフトとかも演出の手が込んでて良かったが、ここまで細かい仕事をやり始めると今後がたいへんじゃないか?と不安にもなってくる。
更新頻度が細切れだったのは個人的に追いつきやすかったので助かった。プロローグから最初の更新まではけっこう長く感じたが……。
次に更新されるとしたらパヴァーヌ3章だろうか。isakusan交代後のシナリオに若干の不安を覚えないわけではないが、まあなんとかなるだろうと信じてるよ。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?