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SF初心者の『夏への扉』体験記

ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』を読んだ。2020年12月の早川書房の新版だ。

想像以上にロマンチックで面白かったし、SFというジャンルの本を他にも読んでみようと思った。せっかくなので感想を書いてみたい。
ただ、夏への扉を詳しく語る記事にはなりそうになく、SF初心者の体験記みたいなざっくりした記事になりそう。

SFというジャンルへの印象

夏への扉の名前だけならば知っていた。少し前に邦画で実写化されていたのもなんとなく知っていた。SFでは古典らしい、という程度。

中高生の頃の私はSFというジャンルに全く興味がなく、「やたらピッチリしたスーツを着込んだ人々がロボットに乗ったり機械と戦ったりして、ついでに話が難しい」というイメージをもっていて敬遠していた。そこまで好きじゃないジャンルだ。

小説はもちろん、映画やアニメでも食指は伸びず、絵面で好きになった『エウレカセブン(無印)』はそういえばSFロボットアニメだったなと思う程度の初心者だ。エウレカセブンの難しいSFの部分はスルーして、キャラとストーリーを力業で楽しんでいたし、絵力と演出の力業で楽しまされていた。


SFを読む地盤が運良く作れた

夏への扉は2021年6月22日にkindleで買って、冷凍催眠に至る経緯が始まったあたりで株と男女と詐欺の話にうんざりして、2022年の3月になるまで放置していた

これは、私が大人になって失った想像力のせいかもしれない。
男女の修羅場や詐欺なんてところに気を取らてて、字面で読みとれる近未来の情報を自分から拾って想像しなかったから面白さに気づかず、半年ほど寝かすことになった。再び読み始めた今年の3月に運良く面白さを拾えたので、数日で読み終える事ができた。

所以のある固有名称が多いSFの用語は、音声で認識するものではなくて文字で認識するものだなと強く思った。話の飲み込みに関わる。コールドスリープ(冷凍催眠)はまだいい。もはやメジャーな一般用語な上に、そんなに難しい単語でもないので音でも大体分かる。

でも、ヌルグラヴ(重力制御法)なんて、音だけではパッと分からない

重力制御法という字面から意味を読みとれるので、SF初心者な上に英語力なしの私にとっては、ヌルグラヴと重力制御法のふたつでひとつだ。そこでやっと想像が出来る。

なので、SFのおきまりやお作法を知らない状態ならば文章を読んで楽しむのが一番良いのではと思った。

耳から意味を拾えなかったから、アニメ『エウレカセブン』のSFの部分を楽しめなかったのではないか。今からもう一度見返そうとは思わないけれど、多分そうだ。音で味わうには込められた意味がありすぎる

2021年9月頃に1週間無料公開されたニトロプラス原作の『楽園追放』の3Dアニメ映画は、1時間半でコンパクトになっていたので取っつきやすく面白かったし、その後『楽園残響』という続編小説が出たこともあって字面で楽しめる機会をもらえた。

『夏への扉』を放置している間に、『楽園追放』で興味がある状態を作ってもらえた上に、字面で楽しむ地盤が出来ていたので、何の気なしに『夏への扉』を再び読み始めた時は、最後まで楽しめる体力がついていた。


普通に面白い『夏への扉』

タイムトラベルものとして楽しくなるのは中盤以降であって、序盤のコールドスリープに至るまでの話で投げ出していてはもったいなかった。

ダンが同僚チャックに恵まれ、コールドスリープ先で生活をしていく場面にワクワクはあった。過去にダンを騙したマイルズとベルは時間によって処されていて胸がすく思いがした。未来のために過去に戻って発明に勤しむ部分はロマンだったし、戻った過去で出会ったサットン夫妻は、マイルズとベルの代わりに出会っておくべき人物だったの だなと思って胸が熱くなった。ヌーディストだけど。
基本的に、未来をよりよくしたいと思ってからのダンの行動によって善のものが返ってくるので、序盤の踏んだり蹴ったりと打って変わって物語自体がポジティブだ。

マイルズとベルに騙されたと知ったあの夜に、未来のダンが息を潜めている場面だったり、サットン夫妻にその後を託して未来に戻るところだったり、タイムトラベルものとして一般的によくある要素は大体詰まっている。ドラマ的な部分は、いい意味で普通に面白い。タイムトラベルものの金字塔だなんて言われているだけあって、このジャンルで面白いと思われるポイントは『夏への扉』が大方示したんだろうなと思った

ついでに言うと猫は可愛いと思うけれど、特別猫好きではないし猫狂いの愛猫家でもないので、序盤のフックになるピートの扉探しは、終盤に利いたな~と思う以外に特に感想はない。

リッキーとはプラトニックな友情だと思っていたので、ダンと結婚する未来は結構意外だった。


SFを読む地盤は出来た

『夏への扉』を読み終わった事で、ハインラインの他の作品も読みたくなった。

はやみねかおるの『怪盗クイーン』シリーズで育てられた私はRDが可愛いと思う地盤があり、『楽園追放』ではフロンティアセッターに愛しさを覚えたので、愛しめの人工知能が出てくるらしいとの『月は無慈悲な夜の女王』を読み始めている。

良い流れが来ているので、通勤の間に読み切りたい。


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