スイカ ミニ小説。

 今日も暑い。真夏の日差しは毎年強く、

私を悩ませる。


 私はクーラーの効いた部屋でラヂオをつけた。

夏の歌が流れている。随分と昔に流行った曲だ。

懐かしさとともに鼻歌を歌ってしまう。


さて麦茶を片手に、読みかけの本を持ってソファーに座る。私のお気に入りの場所だ。リビングのソファーでうたた寝をするのが大好きなのである。


 私は結婚して5年になる。結婚する前は、営業職でばりばりと働いていた。物を売る仕事は大変だがやりがいもあり充実していた。しかし転勤の多い夫と一緒に生きていくと覚悟をした途端、自分の積み上げてきたキャリアより大切にしたい何かがそこにある気がしたので、仕事を、やめた。後悔はない。


結婚をしてから今まで私はとにかく普通に、そしてゆっくり過ぎていく時間を楽しんでいた。

今37歳になる。毎日同じルーティンをこなし、時々街で買物ついでの外食をする。幸せな毎日だ。


 私の母には、私のようなゆっくり時間があったのだろうか。母は、とても働き者だった。朝から寝るまで何かしらの家事をしていた気がする。パワフルで早口で大きな声で笑う人だ。今も田舎で毎日元気に過ごしている。


母は、夏になると必ずスイカを買ってきた。わざわざ自転車で片道15分もかけて大きなスイカを買ってくる。農家さんが安く提供してくれるスイカは確かに美味しかった。私には兄がいるが、兄と私は口いっぱいにスイカを食べていた。わたしたちの姿を見て母は笑顔だった。


思春期になると何故か大きなスイカが冷蔵庫に入っていることに怒りを感じて母に文句を言った。今思うと私は何が気に入らなかったかわからない。

わからないけど、母に八つ当たりをした。母は悲しいようななんとも言えない表情をしていた。


大学に行き家を離れてからも、夏休みに実家に帰ると必ずあったスイカ。私の夏は母のスイカとセットだ。


最近身体が重くなってきた。もうすぐ臨月の私はお腹にスイカを抱えているみたいだ。早く赤ちゃんに会いたいなと思いながらゆっくり麦茶を飲む。


私も生まれてくるこの子の為にスイカを買って来よう。



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