2つの箱

その日彼は
職場の先輩と呑んで帰ってきた。

酔っ払って寝てしまった彼の鞄を
何気なく
ほんとうになんの気なしに見たら
鞄の奥底に
ボロボロのコンドームの箱があった。




この箱に私は見覚えがある。



私達は1年以上していなかった。

彼は何度か求めてきたけれど
私はどうしても
彼に触れる気持ちになれなくて

頑なに拒み続けていたから
いつしか彼は諦めて
挑んでくることをやめていた。



この箱は
1年半ほど前に旅行に行ったときに
旅行先で彼が慌てて買っていた
コンドームの箱だ。



ボロボロの箱と
全然減っていない中身を見て
少し申し訳ない気持ちになった。

たまには使ってあげなきゃな
ごめんね。



寝ている彼に心の中で謝罪した


またいつか使えるといいね。

そう思いながら
鞄の奥底にそっと戻した。




鞄の前ポケットには
クシャクシャのレシートが
何枚も入っていていたので
どうせいらないだろうと
まとめて捨ててあげた。

鞄を整理してあげるなんて
いい奥さんみたいだなと
自分に少し酔っていた。




鞄の内ポケットの
しわしわになったハンカチを取り出したら
その下に煙草の箱とライターがあった。





心臓が早く大きな音を立てた。





彼は7年前からタバコを辞めている






はずだった。

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