非喫煙者

彼は私と付き合う前から
タバコを吸っていた。


元々友達だったので
彼が喫煙者であることは知っていたが
もちろん友達だから特に何も言わなかった。



彼から付き合って欲しいと言われた時
私はいいよと返事を返すと共に

条件ではなく
あくまでお願いとして

実はタバコが苦手だから
出来ればやめてほしいと頼んだ。

彼は二つ返事で了承してくれた。




タバコは依存性があると聞くが
そんなに簡単にやめられるのかと尋ねたが
彼は気持ちの問題だと言い放ち
私のためにやめると言ってくれた。

その決意は私が愛されている証のようで
とても嬉しかったのを覚えている。





しかしやはり
ニコチンの依存性は手強く
それから1年間、
彼は飲みの席でタバコ吸ってしまったと
何度か私に打ち明けてきた。


その度に私は
自分が愛されてないような気持ちになって
涙をポロポロ流した。

彼は
「ごめん、もう絶対吸わないから」
と申し訳なさそうな顔をして謝ってくれ

そのやりとりを何度か繰り返し
彼ははれて非喫煙者となった。






これが私の知っている
彼とタバコの話。






それ以降、彼からタバコについて
打ち明けられることはなく
もちろん私の前で
吸う姿を見ることもなかったので

私は彼がタバコをやめているものだと
完全に思い込んでいた。





思い込みは恐ろしい。




服や髪からタバコの匂いがする事は
度々あった。

しかし私は
彼の周りの喫煙者の匂いが
うつっただけだと
信じて疑わなかった。




じゃあなぜ
非喫煙者のはずの彼の鞄の中に
タバコの箱とライターがあるんだろう。





答えはわかっている。





私のためにタバコをやめた
非喫煙者の彼なんて
どこにもいなかった。

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