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高田馬場怪談を観た

ある日、Twitterのタイムラインにて。

輪入道のイラストが現れた。
“熱烈に語る 大いに語る 怪談会”と黄土色のフライヤーに掲げられたイベントの名前は「高田馬場怪談」。
怪談師 宮代あきら氏(以下、宮代氏)が自らオーガナイザーを務めるイベントだ。
各土地の駅名を冠し、先鋭怪談師数名を招いての怖い時間を提供。
音響での驚かせは一切なし、純粋に怪談話勝負で怖がらせてくる。
これは本人しかり、共演する怪談師らの腕がなければ成立しないイベントとも言えよう。

今回の5/28開催 高田馬場怪談の演者は以下の通り。
※名前順

いわお☆カイキスキー (恐不知)
上里洋志 (らせん。・Half-Life)
田中和幸 (モノスゴイズ)
田中俊行 (がもん鉄・オカルトコレクター)
宮代あきら (イベントオーガナイザー)
山本洋介 (恐不知)

高田馬場に集結したこの面々。
北は北海道、南は沖縄の怪談をひっさげて来ている。
活躍する場所も大阪や東京…配信、YouTube、音楽、展覧会と場所媒体に囚われずに盛り上げている猛者達だ。
このような「話を聴く」イベントだと似たような色合いの演者を揃えるところが多いと思う。
しかし、宮代氏は同じ系統の色を揃えない。
それでいて調和の取れた、鮮やかなキャンバスを完成させている。
今回は6名の演者が描いた、夏の始まりの恐怖絵だ。

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暗闇の中、BGM「Gruss Gott Trauer」の音量があがっていく。
赤い照明の中、語りが始まった。
※以下敬称略


宮代あきら 1話目

町に迷い込む男の子。名前は大友さん。
町は奇妙で愉快で、面白い。
この単純明快な思考は、怪異の始まりであった。
手に渡されたソレを、彼は……

*文節ずつ区切る、独特なトーン。
わかりやすくオカシイ情景が淡々と流れ、意外な結末を迎えるところまでの話術。
次を期待させるテクニックを使うところが憎い。


いわお☆カイキスキー 1話目

どの家にも少なからずある約束事。自身が友人宅に宿泊した際に、その家での約束事を教えられた。楽しいはずのお泊り。深夜に、なぜ。こんなことが。どうして。

*聴いている側の幼少期の記憶を掘り起こしてくるような、抒情的な説明。
丁寧に恐ろしさを提供される。耳を塞ぎたい。でも気になる。
怖いもの見たさをくすぐり続ける技が光る。


上里洋志 1話目

学生時代に友人達と心霊スポットに行った。
この恐怖体験は人に話して自慢しよう、そんな優越感に浸っていたが。
本当に遭遇している人間。それを見ている人間。
知らないと危険なことは、沢山あった。

*ご家族にユタ(沖縄の霊媒師)がいるという特殊な背景を惜しみもなく魅せてくれる。
自分の体験からなる、淡々とした口調。
友人視点まで取り入れ、多角からの見方がこの怪談をぐっと魅力的にしている。


田中和幸 1話目

死にかけたせいでワルイモノが見えるようになったKさん。
曰く、「イイコトかは、わっかんないけどねぇ」と言いつつも他人を病魔から助けていく。
手伝いをした時の、不思議な話。
それは、突如として恐ろしさの序章に変わる。

*軽快なテンポと会話のくだり。ここに徐々に不穏が生じてくる。
不可解さをそのままにせず、最後に落としてくる気概。
明るい雰囲気で、恐怖と不安を胸に落としていった。


田中俊行 1話目

チャーミーと名付けられた人形。
ある日、チャーミーを別の名前で呼ぶ人間が現れた。
呪物と蒐集家。
共鳴し合うかのように。操られるかのように。

田中俊行 2話目

数年前に購入した中古物件で変な事が起こる。
そう言われ、招待をうけた。
どうも事故物件だったということで、様々な話にぶち当たる。
異音・怪現象・残像……霊に浸食されてゆく深夜であった。

*まさかの2話仕立てに胸が震えた。
この日、まさに開催中の呪物展に飾っている人形の話。更に立て続けに自分の体験談。
オカルトコレクターという看板を背負っているからこそ、舞い込んでくる恐怖の質が高い。
冷静な語り口の中に、当たり前かのように怪異が佇んでいた。


山本洋介 1話目

ヒンナ、その単語に聞き覚えがあったという。
100歳ほどのおばあさん。彼女の元気の源。
与えよう。助けよう。その代わりに……
記憶をなくしたとしても、信仰は薄れないのだろうか。

*怒涛のように紡ぎだされる言葉。五月雨式に打ち出される不穏。
力を感じるのは、自分の足で調査しているからだろうか。
気付けば、人間への恐怖と畏怖すべき存在の恐ろしさを、目の前に突き出されていた。


第一部が終わり、10分休憩。

ここでも高揚感にヒットするようなBGM、「Unza Unza Time」と「DJindji Rindji Bubamara」が流れた。
宮代氏のイベントはBGMの選曲も面白いと評判だ。
ここまでで配信のコメント欄を見ると、演者もコメントを書いており、なかなかに盛り上がっていた。
会場にいる観客も休憩時間にコメントを書き込むことができる。
これは会場に来ている人間には無料アーカイブ(招待URL)が配られているからだ。
通常、他イベントでは現地と配信は別々のチケット売りになっている。
現地に行って生の演者を感じるか、繰り返し観て話を楽しむか。
またはイベント後に交流できるか、イベント中にコメントを書き込むか。
人によっては選べないといって両方のチケットを買う場合もある。
結果、一人の人間から同内容で二重取りするような形になることもしばしばだったようだ。
それも含めての利益。そう言ってしまえばそれだけのこと。
しかし、宮代氏は会場に来てくれた観客全員に無料アーカイブを配るようにしている。
コロナ渦で、映像などは好きな時間に好きなように観ることが増えた。
会場まで来てくれた観客に、家でも楽しんでもらおうという心意気。
非常に時代に即したエンターテイメントの提供のように思った。


第二部はグリーンの照明の中で語りが始まった。

宮代あきら 2話目

1話目に続き、大友さんの話。たのしい町に招かれた数年後。
恋人に頭を撫でられた。
「この頭、撫でたことがあるなぁ……」
世界線のピースが、なぜかここで嵌ったかのように。

*1話目の余韻を残したラストはこういう事だったのか。
歯車はいつから回り始めていたのか。それとも何かピースの足りないパズルだったのか。
別々に聞いても興味深い話。私は2話通して聞いてみたかったと悔しくなった。


いわお☆カイキスキー 2話目

好きな女性に家に誘われて、嫌な男性はいない。
一軒家に一人暮らしをするゆかりちゃん。
物音のする不気味な家。それに呼応するかのように、受け答えが不気味になる彼女。
両肘両手首を折り畳んだナニかが、まぁるい目でやってくる。

*今回参加見送りになった富田さんに捧ぐ、という粋な計らい。
話の中に恋愛初期のじれったい熱情を忍ばせたところに恐怖が混ざっていく話。
恐怖は不思議を重ねて、不安を生み出した。


上里洋志 2話目

ネット上に浮遊する恐怖が動き出す。
スマートフォンでARモードを使って遊ぶゲームで、妖怪を捕獲するアプリをダウンロードした。
飽きて放置していたものの、久しぶりに起動する。
画面に写った妖怪に、見覚えがあったという。

*普段実体験しか話さないというが、今回は提供された話に挑戦したという。
現代に即した実話怪談でアプリ関連のものはまだまだ少なく、大変興味を惹かれた。
現実とリンクしていく様子が妙にリアルで、ゾッとした。


田中和幸 2話目

オカルト好きが呪いグッズを何となく購入した。
勧められたまま購入すると、自分へのいじめがなくなった。
次々と勧められる呪い代行。断り続けると、その界隈から追い出される。
そこから、気持ちが悪い出来事が次々と畳みかけてくる。

*臨場感のあるセリフが次々と繰り出され、ライトな気持ち悪さが広がっていく。
しかし、気付けばライトな話術にやられていると、本質にあるどろりとしたものを急に感じるハメになる。
緩急ではなく、急急。何度も噛みしめて恐怖したくなった。


田中俊行 3話目

呪物・ヌエの子供の手の作り方。
歴史を紐解けば平家物語まで遡ることになる。
おどろおどおろしい経過。ヌエの手の効果。
人間の業が暴走するとき、鳴き声と共に繁栄が約束される。

田中俊行 4話目

亡くなった檀家さんが挨拶するために訪ねてくる。
深夜も深夜。帰るよう伝えるが、諦めてもらえない。
戸を開けると、オカシイものがあった。
それは吉報なのか。

*まさかの二度目の2話!トータル4話というお買い得感が否めない。
ここでも呪物・怪談の組み合わせ。オカルトコレクターらしく知識量も多く、オカルト好きにはたまらないだろう。
最後に笑いまで持ってこられて、心が平穏になった。怖いだけに留まらないのも流石だった。


山本洋介 2話目

広大な大地の一本道にカカシが見えるという怪異。
お得意様の要望で深夜に訪れた場所。ゴールデンレトリバーたち。
衝撃的な事件を目撃したまま、記憶もおぼろげになる。
死亡事故のたびに、増え続けるアレは……

*訝しむような表情に身振り手振り。そこに早めテンポの口調。
まるでルポルタージュを聞いているかのように話は進む。
最終的に何がその場所にいて、どんな未練を残しているのか。隠すことない恐怖を魅せてくれた。


エンディング

ステージには、どこかほっとした面持ちになった演者がそろった。
ちょっとした裏話が聞けて、終始笑いが絶えなかった。
先ほどまで、ガチンコの怪談語りに向き合っていた会場。
緊張がほどけたように、穏やかな空気が漂う。
最後のBGMは「Unza Unza Time」でお別れだった。


アーカイブ

2022年6月11日23時59分まで。
少しでも興味を持ったら、視聴するほうが後悔がないと思う。
なんていったって、150分14話で1900円なのだから。
高田馬場怪談
ちなみに会場に行くと、終焉後は演者達と写真を撮れたり、交流をすることができる。
リアルにしかないうまみなので、こちらもご検討いただければ。


次回の宮代氏主宰のイベントは2022年7月23日。

配信無しのクローズドだという話だ。
配信の無い、えぐみのある内容を期待できるのではないか。
回数を重ねるごとに進化していく宮代氏主宰イベントから目が離せない。

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