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ご案内

先日、おいしいラーメン屋に行こうとした。
澄んだスープの評判の店。友人も太鼓判を押していた。
少し汗ばむような陽気。
坂道をふぅふぅ言いながら歩いていく。
店が見えてくると、手前にある神社に気付いた。
鈴の音がちりんと聞こえた。

―あ、ここは何の神様だろう

私は神社があると寄りたくなるタチだ。
どんな神様でどんなご利益で、なぜここにあるのか。そういったことを何となく眺めるのが好きなのだ。
加えて雰囲気が一等いい。気持ちが澄む。

澄むと言えば、澄んだスープだ。
花より団子。色気より食い気。
気にはなったが、まずは腹ごしらえに急ぐ。

【本日、臨時休業】

なんと、休業。
せっかくネットで営業時間も調べたのに、これは悲しい。
すでに口がラーメンを求めていたので残念な気分になった。
そうは言ってもお腹は減っているので、別の店を探そうと踵を返す。

ちりん

通り過ぎる瞬間に、また鈴の音がした。

今日は戻っては来ないだろう。
次来るのはまたこのラーメンに挑戦する時だ。
一旦通り過ぎたが、神社の敷地に足を踏み入れる。

『目白豊坂稲荷神社』、狭い神社だ。
しかし、古めかしさはなくどちらかというとモダン。
珍しい雰囲気なので、まっすぐに社に向かった。

柴犬に少し似ている狐の狛犬。
社の中はガラス戸で閉ざされてあるが様子がわかるようになっていて、中央に鏡が置いてあった。
百度石もなかなかの貫禄。
ここは湧き水の地とされているからか、金湧沢の碑があった。
お賽銭箱はないようで、ガラス戸に小銭の投入口が見えた。
ジュースを買うような塩梅で小銭を入れ込み、2礼2拍手1礼。

―本日は挨拶に参りました。願いはございません。

ここは商売繁盛・家内安全・合格祈願など多岐にわたる願いを聞き入れる神様だという。
神様は多いとこから取って少ない人に移すとも言うので、私は今が身の丈に合った生活だと挨拶だけという形で示した。

境内社には『市来嶋神社』も合わせて祀ってあった。
この神様は芸能・美術・文化に関わりが深い。
ここにも挨拶をして、私は神社を後にしようとした。
しかし、そうできなかった。気になることがあったのだ。

鈴の音。

もう一度見渡す。
聞こえていたのは小さめの鈴の音。控えめに転がるような感じだった。
社を正面にして、左側辺り。
敷地を出たり壁を確認したりしても何もない。

あの音は何だったのだろう。

神聖、というより整頓されたという雰囲気の場所。
怖さがなかったので、私はもう一度礼をしてからその場所を後にした。


この日記を書くにあたって、少しこの神社を調べた。
元は学習院の敷地にあり、京都で開講してから移転の度についてきて今に至ると言われている。
ここの部分は大変興味深いので取材をしてみようと思う。
一番私が驚いたのは、次の部分だ。
こちらの御朱印を扱っている神社が、私がごくたまに参拝する神社である『高田氷川神社』だったのである。
必ずしも関係があるとは思えないが、もしあの鈴の音が案内の音ならば…

そんなことを考えた、休日だった。

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