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記憶の紙魚

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雨森が集めた怪談。 こっそり怪談イベントの感想も。 ※朗読や語り利用されたい方はご連絡ください。 内容の肉付け含め相談OK。勉強中のため無償です。
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2022年11月の記事一覧

自鳴琴

森洋子さんが勤める介護施設にはレクレーションルームが設けられていた。 入居者はこの部屋で手遊びや歌、ゲームをする。 ここではぬいぐるみや人形も、なかなかに人気があった。 「もりさぁん。私、これ部屋に持っていきたいわぁ」 「レクレーションルームのものはみんなの物ですから、だめですよ」 入居者の澤田さんが見せたのは、オルゴール付きの犬のぬいぐるみだった。 20センチほどの大きさで、尻尾の上に小さなゼンマイがついている。 森さんは、澤田さんに見せるようにゼンマイを回した。 とても

誰か私を

CD収録に使われる某スタジオでのこと。 このスタジオはM駅のほど近くにあり、料金も安いこともあって様々なアーティストが使っていた。 しかし、ここには守らねば損をする約束事があった。 「入るなよ!入るなよ!」と録音機材の前で唱えてから、収録する。 これだけだった。 貼り紙もなく、口伝だけの約束事。 もちろん、これを知らずにやらない人間や知っていてもやらない人間も存在する。 そういった人間は、音源の編集をする時に必ず後悔する運命にあった。 歌声の裏に「ねぇ……ねぇ……ねぇ……

一期一会

多種多様化する動画配信アプリ。 その中でも上スワイプ操作するだけで次々と短い動画を視聴できるものがある。 AIが個人の傾向を掴んで動画を選ぶので、なかなかに中毒性が強いそうだ。 このアプリは、流行りの曲を用いた撮影やオリジナル音源の登録もできた。 留美さんはバンドを組んでいる。 何とか人気が出ないかと模索していた時。 その動画配信アプリで認知度を上げることを思いついた。 実際アプリを使ってみると、自分と同じような目的で使っている人間が多いこと。 早速自分のバンドでも投稿を始

呼鈴音

私の曽祖父は骨董屋を営んでいた。 亡くなった時は、骨董品含む店を売却し親族に遺産を分配した。 曽祖父は酷い認知症を患っていたもので、全て終わった時は安堵に似た溜息が出たのを覚えている。 名を、一郎といった。 寝たきりになった一郎を妻は甲斐甲斐しく世話した。 しかし、彼の妄言が酷くなるとノイローゼになってしまった。 衰弱する母親に妄言が聞こえないよう、離れて暮らしていた息子が動いた。 一階の居住区から二階の書斎へと彼の寝床を移したのだ。 これで四六時中汚い言葉を吐いていたのが