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ピエロ・イル・ファートゥオ

Piero 'il Fatuo' de' Medici

ロレンツォ・イル・マニーフィコが死去すると、20歳の若さで長男のピエロ・ディ・ロレンツォ・デ・メディチ(Piero di Lorenzo de’ Medici, 1472-1503)がメディチ家の権力を継承しました。

画像1Ritratto di Piero 'il Fatuo' de' Medici, Agnolo Bronzino

父ロレンツォは常日頃、3人の息子のことを「一人は愚かで(ピエロ)、一人は賢く(ジョヴァンニ)、もう一人は心優しい(ジュリアーノ)」と評していたといいますが、その言葉通り、ピエロはメディチ体制を引き継ぐにはまったく不適格な人物でした。

ピエロは、メディチ家の当主としては珍しく美男で、ポリツィアーノを家庭教師として人文主義的な教養を身につけていましたが、性格は尊大で、父のような人間的な魅力はまったく備えていませんでした。

政治は父の秘書であったピエロ・ドヴィツィ・ダ・ビッビエーナ(弟ジョヴァンニの側近で後にビッビエーナ枢機卿となるベルナルド・ドヴィツィの兄)に、銀行業を大叔父のジョヴァンニ・トルナブオーニに任せきりで、自らは私的な享楽に熱中しました。

自分本位で軽率な行動のためにメディチ派の有力者の反感を買い、「弟脈」のロレンツォとジョヴァンニ・ディ・ピエルフランチェスコ兄弟との対立も深刻化していきました。このため、ピエロは「愚昧な(il Fatuo, イル・ファートゥオ)」と通称されます。

1494年、ナポリ王フェランテが没すると、フランス国王シャルル8世はアンジュー家から相続したナポリ王位の継承権を主張して、9月、大軍を率いてアルプスを越え、ナポリを目指して進軍を始めました。

10月には、ルドヴィーコ・イル・モーロの協力を得てミラノ領を通過。フィレンツェ領に近づいたシャルルはピエロに使節を送り、フランス軍の領内通過を許可するように求めましたが、ピエロは同盟国ナポリを支持してフランス軍のフィレンツェ領内通過を拒否し、抗戦の準備にかかりました。

しかし、フランス軍に抵抗すればフィレンツェは滅亡すると考えたピエルフランチェスコ兄弟らは、密かにフランス軍と連絡をとり、ピ工ロの追放を要請しました。

事態に窮したピエロは、一転して、シャルル王の陣営に自ら赴き、巨額の賠償金の支払いやピサとリヴォルノの支配権放棄など、屈辱的な条件でフランス軍の入城を承諾しました。

市民たちはこの独断的行動に憤激しました。11月8日、市政庁に報告するためにピエロはフィレンツェに戻ると一挙に不穏な状況が高まりました。彼の面前で政庁舎のの大扉は閉ざされ、鐘を聞いて広場に集まってきた市民に罵倒され、石を投げつけられました。

身の危険を察したピエロと2人の弟は、その日のうちにフィレンツェを去り、ボローニャに向かいました。市政庁はただちにメディチ家の永久追放令を発し、ピエロとジョヴァンニの首に懸賞金を課しました。ピエルフランチェスコ兄弟は「メディチ」の姓を民衆派を意味する「ポポラーノ」に変えて、邸宅の壁からメディチ家の紋章を取りはずしました。

その10日後の11月17日、シャルル8世の軍隊はフィレンツェに入城し、主のいないメディチ邸に本拠を置きました。メディチ家の財宝や蔵書の一部はピエロによって運び去られ、弟ジョヴァンニによってサン・マルコ修道院に隠されましたが、残された多くの財宝はフランス軍や市民によって略奪されたり、市政庁によって押収されてしまいました。

こうして、1434年からちょうど60年間フィレンツェを事実上支配してきたメディチ家の政権は終りました。この直接の原因は、ロレンツォ・イル・マニーフィコの早すぎた死と息子ピエロの指導者としての能力欠如、そしてシャルル8世の突然の侵攻に帰せられます。

メディチ銀行のネットワークも1494年をもって崩壊しました。ロレンツォ・イル・マニーフィコの晩年にすでにメディチ銀行は破産寸前の状態にあり、支店の半分は閉鎖されていました。

亡命したピエロは、教皇の支援のもとにロマーニャ地方の制覇を進めていたチェーザレ・ボルジア(教皇アレクサンデル6世の私生児)の軍と行動をともにしていましたが、1503年12月、ナポリ近くてフランス軍とスペイン軍が衝突した際にフランス軍に加わって敗れ、逃走中にガリリャーノ川で溺死しました。この不運な死により、ピエロは「不運の(lo Sfortunato, ロ・スフォルトゥナート)」とも呼ばれます。これによって、メディチ家の当主は弟の枢機卿ジョヴァンニに引き継がれることになりました。


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フィレンツェ/Firenze

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