重ね合わせた面影

休日に家で1人になれたので
2年間、ずっと見ようか
見まいか悩んでいたことに
ようやく終止符を打てた。

映画 東京タワー 
オカンと僕と、時々オトン
を見た。何てことはない。
ただそれだけの話。

同じ福岡出身の名優
リリー・フランキーさん原作。
読んだのは、最初の赴任地
山口から東京へ転職の
面接を受けた帰り道だった。

本を読んで涙が
止まらなかったのは、
生まれて初めてのことだった。

映画でこれまた
素晴らしい役者の
樹木希林さんが演じたオカンの
話し方や息子の
雅也くん(リリーさん)に
かける言葉の一つひとつが、
うちのオカンとそっくりで(笑)
うちの場合は父が先に死んだが
雅也くんも私も同じように
母の元を離れて上京する、
というところも似ていたから
勝手に重ね合わせていたの
だろう。

私のオカンは
2年前の夏に亡くなった。
PCR検査を受けたため
結果待ちで通夜には間に
合わなかったが、その日の
夜に帰福できた。

葬儀の喪主は、兄。
一度も福岡から出ず、母の傍で
ずっと見守ってきてくれた
頭が上がらない彼から
喪主の挨拶を頼まれて
朝起きて文章を考えて読んだ。

でも、、出棺、そして斎場で
骨を拾った時も
涙は、一滴たりと出なかった。
その理由がわからなかった。

母が嫌いだった。
少し違う。
母がうざかった。
こっちに近いか。

あれこれ半人前だからと
あれをせい、これをするな
ガミガミ。ガミガミ。
中学から大学まで
私は母にずっと叱られていた。

心底実家を出たかった。
福岡から出たかった。
母から距離を置きたかった。
だから福岡で就職しなかった。

この映画は好きなのだが、
5年以上見ていなかった。

オカンが死んで
泣けなかった時、
いや泣かなければいけないのか
それさえも疑問に思うほど
自分の感情がわからなく
なっていた2年前のあの日。

悲しいのか、寂しいのか。
グルグル、グルグル。

そして先週の休日。
私はこの映画のDVDを手に
レコーダーにかけた。

彼女もまた故人となった
樹木さんのお顔を見た時

オカンが、オカンだ。

と笑いそうになり、
同時に泣けた。ほろりだが。

あ、そうそう、オカンって
こんな風に喋ってたよね。
こんな風に叱ってたよね。
もっと激烈に怒ってたけど。

私が死ぬわけではないのに
走馬灯のように、
いくつものオカンとの名場面が
目頭に映し出された。
樹木さんを通して
オカンに会えたひと時だった。

でも泣けないなあ。
そうか、俺は泣きたかったんだ。
気づいた頃、映画の中の
オカンも亡くなり通夜での
シーンに。

セリフは少し違うかもだけど。
元彼女から雅也くんが聞かされた
オカンの言葉。

「東京に来てマー君が
 色んなところに連れていって
 くれて、美味しいものを
 たくさん食べさせてくれて
 一生分の親孝行をして
 もらったって」

自宅で1人声を出して泣いた。
俺はどうだったか。
オカンに雅也くんのような
ことはほとんどできなかった
けど、なんだか直接言葉を
かけられたような気がして。

多分私は
オカンに聞きたかったんだ。
親孝行できたかな、って。
久しぶりにDVDを手に取らせた
オカンがくれた答えに、
画面に向かって何度も何度も
私は、呟いた。

オカン。

ありがとうね。

また会おうね。

ありがとうね。

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