エンタープライズ事業を前進させるAccount Managerへの挑戦
こんにちは、カミナシでビジネスの責任者をしている宮城です。
前回のnoteを出して1年以上が経過してしまったのですが、CSから役割も変わりビジネス全体を推進することになり、改めて今挑戦していることを文字に起こそうと重い腰を上げています。
元々、カミナシでは単一プロダクトをもとにマルチバーティカル戦略という形を取っていました。
業界ごとにターゲットやお客様の抱える課題が異なるので、Go-To-Marketの戦略を変えるという形です。
並行して、事業コンセプトを刷新して「まるごと現場DX構想」を掲げており、マルチプロダクトでお客様の現場にAll-In-Oneで価値を提供する形を取っています。まさに今、鋭意新プロダクトを開発中です。
(ちなみにマルチバーティカルという手法をやめた訳ではなく、さらにブラッシュアップし事業推進を行っています。その話は別の機会でさせてください)
マルチプロダクト化の一つの足掛けとして、StatHack社をカミナシグループに迎え入れ、事業をドライブできるよう進めています(良かったらStatHack社CEO 松葉さんのnoteがものすごい熱いので読んでない方がいたら読んでみてください)
プロダクト戦略の話もありますが、Go-To-Marketの進め方としてカミナシはSMB企業からエンタープライズ企業(大手企業)への事業推進を広く行なっています。
ことエンタープライズ企業に対しては一社のお客様の中にも組織が複雑に構成されているため、時間をかけて向き合う必要があり、かつ戦略的に進めることが求められます。
エンタープライズ領域でどう事業を推進するかは、各社様々な形を取っていて、その会社の戦略の特徴が現れると思っています。
カミナシでは、どうすべきかをこの1年程度考えてきたのですが、一つの形としてAccount Managerという役割を作りました。
新規獲得MRRだけではなくアップセルやChurnも含めてマネジメントするロールになっています。難易度は高いかもしれませんが、挑戦を進めているところです。
このnoteではAccount Managerの役割や検討した背景、今後やりたいことについて記載しています。
エンタープライズ事業を進めていて組織体制について検討している方や、エンタープライズセールス・CSの先のキャリアに挑戦したい方はぜひご覧ください!
カミナシのエンタープライズビジネスの特徴
まず最初に、カミナシで実施しているエンタープライズビジネスについて紹介させてください。
カミナシのビジネスチームは機能型組織を取っていますが、それぞれエンタープライズ担当者がいます。彼らが主体的にエンタープライズ企業に対して、商談を獲得し、進展し受注した後のCS活動を行っています。
成果は出始めており、社会的にもインパクトのある著名な企業の導入事例が生まれたり、事業としてもカミナシの稼ぎ頭となるので人員リソースも投下し始めています。
特徴としては、元々はインバウンドや展示会で得たリードをもとに契約し、タイミングを見計らってアップセルにつなげるという形を取っていました。
そこから今では、Accountを特定してBDRし、狙ったお客様と契約を結ぶことにも成功し始めています。
↑インサイドセールスでエンタープライズ企業向けにABMを行っている記事
また、カミナシはアップセルを強く生み出せるサービスモデルということもあり、新規セールスは新規契約に集中してもらい、アップセルはカスタマーセールスという既存営業チームに引き継ぐことにしました。
アップセルを誰が行うか?は会社によって議論が分かれるポイントだと思います。
カミナシではセールスを新規と既存で分離する形を取り、新規セールスが社数を増やし、カスタマーセールスがARPAを上げるスタイルを取っています。
これによって、アップセルを大きく生み出し、高いNRR(Net Retention Rate)と低いChurn Rateを作ることができています。
(ここでは具体的な数値は言えないので、興味がある方はぜひ直接話しましょう!)
これから話すAccount Managerのロールはカスタマーセールスから生まれていますが、カミナシのDAのnoteがカスタマーセールスの立ち上げを細かく書いているので、とても参考になります。
Account Managerを検討した背景
ここまでの話だけだとエンタープライズ事業は上手くいっているように聞こえますが、少し先の未来における課題が見え始めていました。
見えていた課題を2つ紹介させてください。
課題①:新規セールス・CS・カスタマーセールスだけでは埋められない領域が発生する
特に大手企業と長くお付き合いすると、考慮すべきユニークな事情や状況があります。これをいわゆるThe Modelの分業形式で引き継いでいくのは無理なのではないか?と思うことがいくつか発生していました。
例えば下記にあるセブン-イレブン様の事例のような、1社だけで完結せずサプライチェーンを大きく巻き込む事業推進や、超大手企業で組織体制の把握をグループ会社まで含めて行う必要がある企業の例があります。
もちろん理想は全ての情報をヌケモレなく引き継ぐことですが、やはり引き継ぎとなると情報量も莫大なため細かいニュアンスまでは伝わらなくなってしまうことが起こってしまいがちでした。
また、KPIが異なることにより発生する課題もありました。
The Modelのような分業体制だと、それぞれの組織が明確なKPIを追うことで生産性を上げる形になっていますが、KPIには現れないアクションが増えることがありました。
例えば、お客様の中で良い事例を作れた時に、事例を推進することで組織内での認知が上がることが多いです。
その事例を横展開する時に、商談中で共有する、などではなく先方組織内ウェビナーを企画することもあり、「これってセールス・CSどっちでやるんだろう・・・」みたいな例もいくつか発生し始めていました。
課題②:お客様にとって窓口が増えすぎてしまう可能性がある
別の課題として、窓口が増えてしまう問題の発生が見えていました。
新規商談中は新規セールスが実施すれば問題ないですが、既存顧客として活動を行うと少し変わってきます。
1つのお客様の中でも複数プロジェクトが走っていると、CSが複数人そのお客様に関わっている場合があります。その際に、誰がお客様の窓口になるか、お客様からすると分かりづらいことが発生し始めました。
今後マルチプロダクト化が進んでいくと、お客様に対するカミナシの体制はさらに複雑になる可能性も見えてきています。
まだプロダクトが複数になった場合の体制は確定させていません。ただ仮に新しいプロダクトと現状のプロダクトの利用部署・利用範囲が全く異なる場合、事業部を分けてセールスやCSを分ける可能性があります。
そうなった時に、セールスやCSの数も2倍になってしまうのは分かりづらいので、お客様にとって最適な体制を敷く必要性を感じました。
課題③:エンタープライズ企業のポテンシャルに対して正しくアプローチできているかわからない
日本を代表するような企業になると、本社機能を持つ企業はもちろん、子会社も無数にあります。これらの企業群に対して、”価値を提供できているのか”は常に考えていましたが、具体的な手は打てていませんでした。
カミナシでは同一法人でのアップセル・クロスセルをカスタマーセールス、同一グループであっても新規法人での受注は新規セールスという役割分担で行っています。これにより新規見込み顧客と既存顧客の区分が明確になっていました。
一方でその役割区分を超えてその法人グループの中でのポテンシャルを測り、適切にアプローチし顧客に価値を提供しながらカミナシの事業成長につながるような体制を考える必要がありました。
Account Managerが今やっていること
上記のような課題が見え始めていたため、既存顧客のエンタープライズの中でも規模の大きなお客様向けの体制を作ることにしました。名称も同時に考えたのですが私の新卒の会社でお客様責任を持つ営業をAccount Managerと呼んでいたのでそのまま使わせてもらいました(大きめの外資企業では一般的ですよね)
Account Manager自体は、今カミナシでは専任で1名います。彼にはカミナシの中でも最も重要かつ複雑性の高いお客様を担当してもらっています。
ここからは、Account Managerの他役割との棲み分け、体制やKPIについて説明していきます。
Account Managerの体制と役割分担
Account Managerは、今はカスタマーセールス組織の中にいて、超大手企業を担当しています。何を持って”超”大手企業か、というところはあるのですが、今はAccount Managerという役割自体が検証中の役割になるので責任者の私で決めています。
カスタマーセールスと役割が異なるのであれば箱を分けるべきではないか?という議論もありました。ただ、今のカスタマーセールス自体がまだ立ち上げでAccount Manager的な動きをしている人も数人こと、組織における箱をいたずらに増やしたくない、という意図もありこういった体制にしています。
一般的なSaaSのモデルとしては、新規セールスが受注したらカスタマーサクセスに引き継ぎをし、アップセルの芽があればカスタマーセールスが登場する、という役割分担が一般的だと思います。
このAccount Managerのモデルでは、カスタマーサクセスに引き継いだ後に一定条件を満たせばAccount Managerに引き継ぐ形を取っています。
これにより、CSで受けられない営業的な対応だったり、カスタマーセールスで実施するには難しいようなボールを拾う業務をAccount Managerが実施するようになります。
前述の通り、規模の大きな企業になるとプロジェクトが同時に発生するのは珍しくありません。その時の追加アサインもAccount Manager経由で実施できるようにしています。
例えば、複数プロジェクトが発生しているので別のCSに依頼する、という時もありますが、場合によっては同一グループだが別法人なので新規セールスに依頼した方が受注確度が高まる場合があります。その際は、新規法人として捉えて新規セールスチームに依頼する形を取っています。
もちろん、セールスやCSに依頼せず、自分で対応することもありますが、重要なことはお客様の中で何を行っているかを常に感度高く把握することが求められます。
こういった役割分担を取ることによって、お客様にとっても「困ったらAccount Managerの人に聞こう」という形にもなりますし、「複雑なうちの事情をとても良くしってくれている会社だな、カミナシはスタートアップだけど信頼できる〜」とお客様の安心感を醸成することもこの役割で期待しています。
Account ManagerのKPI
前述の図のような形で、どういう体制・配置であればお客様にとって最適な形で、かつ事業を最大化できるかの采配を行っています。が、ここで最も問題になるのはKPIです。
フィールドセールスは新規受注の売上を追っていますし、CSはChurnせず継続してもらえるよう日々アクションしています。ポイントになったのは「Account Managerは何の数字を追うのか?」です。
カスタマーセールスと同じようにアップセルの売上だけを追うと、新規法人にアプローチするモチベーションが下がりますし、かといって新規セールスの売上を持つとKPIを複数持つ必要があり、優先順位が付けづらくなる懸念がありました。
結果的に、Account Managerは以下のKPIセットにしました。
特定グループに対して新規法人の受注が行われると、新規セールス担当とAccount Managerの実績が上がり、Churnが発生するとCSチームとAccount Managerの実績が下がるという構造です。
Account Managerとは、「このAグループの累積MRRをxx%あげられると思うので、この半期の純増MRRはxx円にしよう。新規で獲得しても既存顧客にリソースを振っても良いですよ」というような話をしています。
前述の課題③であげた1法人グループに対するポテンシャルの最大化がこれによって適切に対応できると考えました。Account Managerでポテンシャルに対して適切にアプローチするアカウントプランを作り、チームで顧客に貢献していく。こういった形を目指しています。
Account Managerの実施業務
えいやで書き出してみました。ものすごい量がありますね笑
全て完璧にできている訳ではないですが、実際この通り多岐に渡ります。ここにもないこともあるのですが、わかりづらいので図にしてみました。
プランの妥当性を確かめる
まずは、特定のアカウント(=顧客)に対してのプランであるアカウントプランを作ることから始まります。
どれぐらいのポテンシャルがあり、今年度でどこまで事業推進することができるのか、また関係者に対してどのように提案するのかをまとめる必要があります。ここで妥当性と書いているのは、プランの内容自体は日々変わるものだからです。
見定めたプランはポテンシャルやパイプラインが多すぎるかもしれないし、少なすぎるかもしれません。仮説を立てて推進しアップデートし続けることが重要になっています。
プロジェクトを推進する
取引先から提案を受けた時、たいていの企業でもそうですが大企業ではぬるっと始まることはありません(あっても推進力がない)
新しいサービスを使ってもらう時はもちろんですが、お金がかからない場合であっても、「誰が」「いつからいつまで」「どういった成果を見越して」「どれぐらいのリソースが必要か」を明示し社内で承認を得る必要があります。
この承認を得たものをプロジェクトと呼んでいますが、いかに効果的なプロジェクトを作り、推進できるかがアカウントマネジャーの役割だと考えています。
例えばアップセルのための予算策定、みたいなことはわかりやすいですが「A拠点で上手くいった事例を全社に共有するための勉強会」や「中期経営計画のxxxに向けたロードマップを作る」などもプロジェクトになります。
一見自社の売上にはならないことでもお客様と実プロジェクトを走らせることで実利につながることができると考えています。
関係性を維持する・広げる
プロジェクトを提案・推進していくと必然性にお客様との関係性は強くなります。
連絡先を知っている、だけではなくて「なぜこの部署が存在しているのか」「この部署の社内的位置づけはなにか」「なぜ目の前の担当者はこの部署にいるのか」を知っていることが必要です。これを理解してアクションできるとプロジェクト推進が早く効果的に実施できます。
新しくカバー範囲を広げたい場合は、関係性を広げることが求められます。近い担当者から紹介してもらうこともあれば、経営チームから紹介してもらうこともあったり、展示会でたまたまお会いする、ということもあります。重要なことはあらゆるビジネスシーンで感度高く関係性を増やすためのアンテナを持っておくことだと思っています。
最後に、重要になるのは関係性を”維持”することです。どうしてもアップセルを主眼に置くと新しい関係性を作ることを重要視しがちですが、お金の匂いがする時だけ寄ってくる営業をお客様は敏感に感じ取ると思います。
仮に短期的な売上はなかったとしても”お客様と共通のゴール達成を作ること、お互いに価値を感じられる関係性を維持すること”が重要だと考えています。
今後挑戦していくこと~マルチプロダクト組織を見据えて~
今実施していることを記載してみましたが、このAccount Managerというロールはまだ始まったばかりのポジションになります。もしかしたら、半年ぐらいしたら失敗でした!と言っているかもしれません。
ただ、今はこのロールを拡張していくことが、マルチプロダクトを進めるカミナシにとっては一つの事業推進の形なのではないか?と社内で議論しています。
マルチプロダクト化した時の組織の課題
マルチプロダクト化が進むと、目指したいことは多くありますが、一つに既存顧客に対して価値を増やすことで売上も増やすということがあります。具体的な数値でいうと、NRRをどれだけ増加できるか?が一つの指標になり、社内的にも外部/投資家の目線でも期待したいKPIだと思います。
一方で、前述した課題もありますが、大きな課題の一つになるのはセールスもCSも「全部のプロダクトを理解してセールス・CS活動をすることはできるのか?」ということが想定されます。
同じ部署に対しての提案活動だったり、近しい業務のプロダクトを束ねることであればぎりぎりできそうです。が、全く別の部署への提案・導入支援となると難易度が急激に上がり、複数プロダクトを活用できるようなメンバーの育成自体が困難になる可能性があります。
マルチプロダクト化した時のAccount Managerと他チームの役割分担
そこで、現在カミナシではこのAccount Managerという役割を拡張することが今後の組織体制にとってもベストではないか?ということで社内の体制について議論を重ねています。
例えば、αという既存プロダクトがあった時に、α事業部というチームがありその中にセールスやCSが存在しています。また、βという新プロダクトが立ち上がった際に、セールスとCSもそれぞれ存在している状況です。
α事業部のメンバーはαのプロダクトに特化していて、βもまた然りです。この体制だとセールスやCSの採用・育成は行いやすくなりますし、プロダクトごとの売上は加速させやすいと考えています。
しかし、前述の「特定のお客様で窓口が多くなりすぎる問題」が再発したり、一緒に提案した方がシナジーが生まれる機会を逃してしまうことになります。
その時に、両事業部に加え、Account Manager部というものを併設しようと考えていて、そこにいるメンバーは全てのプロダクトに対して責任を持つ形を考えています。
こういった形にできると、α事業部のメンバーはαのMRRについて責任を持ち、事業部の中でプランを立てられると思います。一方、Account ManagerはA社の売上を最大化させることがミッションになるので、それぞれの事業部と連動して売上を最大化していきます。
Account Managerは全てのプロダクトの一定の理解は必要になりますが、例えば最適なクロージングは事業部のセールスに実施してもらい、最適なオンボーディングは事業部のCSに実施してもらいます。これにより、全員が全プロダクトを理解しなくても事業推進ができる構造にできると考えています。
一点課題として考えられるのが、この体制だと他事業部の人と連携が上手くできるのか?というところに課題があります。
部が異なる中での関係性作りは課題として発生しますが、前述のAccount ManagerのKPIとセールス・CSのKPIを近しくすることでwin-winになるような目標を追いかける形を考えています。これにより同じお客様の成功をゴールに動くことができると考えています。
とはいっても課題はたくさんある
とは言っても解決できていない課題はあります。例えば事業計画を立てる時には、事業部とAccount Manager部ごとで計画を立てるので、複雑性が上がる形になります。
また、今は超大手企業という定義にしていますが、もしかしたらMidMarket(中堅企業)規模からこの仕組みを生かした方が良いかもしれません。
などなど、課題だけを並べると「やらない方が良いのでは?」となるのですが、事業を前に進めるための打ち手としてこういった形を現段階では検討しています。
確実な手はないので、リスクを理解しながら組織を最適化していきたいと考えています。
最後に
以上で、Account Managerというカミナシの中でできた新しい役割について記載してみました。
上手く回り始めているところもありますが、まだまだ課題や不確実なところも多くあるのが現状です。
少なくとも、現時点でポジティブなのは大手企業向けの事業が拡大できていること、確実にAccount Managerの価値や期待が高まっていることにあるので、曖昧なところも許容しながら事業を推進していこうとしています。
読んでいただいた方の中に、「Account Managerという役割?元々自分はこういうのがやりたかったんだ!」という方や「カオスそうだから良くわかってないけどやってみたい」「そもそもこれが最適解だと思うから議論したい」という方がいたら、大募集中です!!
特に、冒頭記載した通り、成熟した外資企業では一般的な考え方ですが、これをスタートアップに適用するのはめっちゃ難しいと日々感じています。なので「エンタープライズの既存顧客ビジネスを推進する組織設計に興味がある」という方はぜひお話させてください・・・
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もちろん、Account Manager以外にもエンタープライズ企業向けの役割は多数ありますので、ぜひ興味ある方はこちらからお申し込みください〜!
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