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リノベで気にした断熱性能

私は、築48年の木造住宅をリノベーションして住んでいます。
どんな雰囲気かは写真をご覧ください。

希望に対して新築だとコストが合わないので、リノベーションという選択をしました。
そこで私は、建築士としてまた居住者として断熱性能に強くこだわりました。
なぜそこまで強くこだわったのか、理由をご紹介します。

1.低断熱の住まいは、嫌なことだらけ

夏暑くて冬寒い家は不健康になりやすく、ランニングコスト(光熱費)が高いのが特徴です。
私が最も嫌だと感じた特徴が、その環境下での活動意欲の低下です。
夏暑くて、冬寒いとやる気が出ません。
夏はタオル片手に汗を拭きながら作業をし、冬は厚着をしてヒーターの前を取り合っている暮らしが、快適で豊かな暮らしだと思えません。
夏涼しく、冬暖かい環境なら、何にでも前向きになれるはずです。
現に今の住まいに引っ越してから、掃除を小まめにするようになりました。
部屋自体が暖かいから、お風呂掃除や皿洗いで濡れることに対する対抗感が薄れたからだと思います。
以前の住まいでは、着る毛布と足にブランケットが欠かせませんでした。
リノベ住宅で初めて過ごした今年の冬は、着る毛布もブランケットも不要で、素足でノンストレスで過ごせました。
体感的として温熱環境の違いによる活動意欲の違いを強く感じました。

2.ここが変だよ日本の断熱基準

断熱性能と言っても、どこまでの性能を採用するのが良いのかわからないと思います。
わからない理由はユーザー(素人)側、プロ側それぞれにあります。
ユーザー側の理由は、断熱性能を計る基準がわからないからです。
Ua値、Q値、断熱等級4、次世代省エネ基準、ZEH、HEAT20、パッシブハウス…これら全て断熱性能に関する言葉ですが、何をどう表しているのかさっぱり分かりませんね。
さらに誤解を招くのが、断熱等級においては4が最高ですが、これは2020年に国が義務化しようとしていた(対応できない事業者が沢山出る恐れがある等の理由で延期)最低基準と同じです。
全然最高ではありません。
ユーザー向けは、慣れ親しんだ単位で表現するのが最適だと思います。
つまり温度(℃)とコスト(円)ではないでしょうか。
シミュレーションソフトを使えば円でユーザーに伝えることができます。
住宅関係者は、温度とコストを意識したプレゼンをしたら良いと思います。
プロが戸惑う理由は、統一されていない基準です。
先ほども書いた通り、断熱等級4が性能表示の中では最高の値です。
しかしその値は国内で義務化が検討されていた時の最低基準です。
断熱関連の協会ではもっと高い基準を推奨していたり、書籍やブログでは最もコストパフォーマンスが高い基準が紹介されています。
その中で各企業毎に採用している仕様があり、比較対象があり過ぎてわかりにくい状況が生まれています。
最高基準が義務化予定だった最低で、もっと高性能な基準やコストパに優れた基準があるけど、自社で採用されている基準はどれにも該当しないなんてことが起きると、そこに入社した社員はどう理解し、どう説明して良いのかわかりません。
整理しきれていなかったり、それが浸透していなかったり、これではプロも混乱します。
ましてや住宅会社には建築の勉強をした(建築学科卒の)技術的な理解のあるプロと、非建築出身の営業のプロが共存しています。
そのため上手く理解できていない住宅会社の人もいるのが現状です。
営業のプロでも理解しやすく、ユーザーに説明しやすい基準作りこそ断熱への理解を促す最善の道かもしれません。

3.私が採用した断熱性能

自宅リノベーションを機に改めて断熱について勉強し、基準設定のおかしさについて整理できました。
そんな私が採用した性能はHeat20G2(Q値:1.6、Ua値:0.46)でした。
勉強した際にいくつか書籍を読みましたが、松尾和也さんが書いた「ホントは安いエコハウス」が一番わかりやすく、参考になりました。

Heat20G2基準を採用したのは、LDK、縁側、寝室、水廻りを合わせた35帖ぐらいの空間を、小さな容量のエアコン1台で空調できるぐらいの性能です。
つまり活動意欲が下がらない環境にしたかったのが理由です。
性能が高い住まいとなれば、当然初期投資(工事費)は高くなります。
そのため下記の表のようにコスト整理しました。
ここでの年間光熱費は、建物燃費ナビというシミュレーションソフトを用いて計算しました。

プロが見ると疑わしく感じる部分があるかもしれませんが、外壁を触らないリノベーションで、真壁のデザインを残すという条件付きなので、工事費は通常よりも高めです。
もっと安い工法がある等の議論ではなく、採用できる工法の中で比較した時に何年住めば得かというのがこの比較の目的です。
検討の結果、建売でよく採用されている標準的な仕様と比較して、22年で工事費の差をランニングコストで返済できることがわかりました。
人生何が起きるかわかりませんが、定年ぐらいまでの30年は直しながら住むつもりなので、初期投資をがんばったほうが快適でお得となります。
この結果を見て、皆さんがHeat20G2基準を採用すれば良いというわけではありません。
私が求めていた暮らし方に合致していたから、この基準にしたというのが重要です。
高額で高性能な住宅が正義で、比較的性能が低くてリーズナブルな建売がダメなのではなく、希望の暮らし方に合致していればどれも最善の住まいになります。
私がこの断熱性能を採用できたのは、活動意欲を失わず定年まで暮らしたいという価値観と実現できる方法を知っていたというのが最大の理由です。

4.シミュレーションの精度はどうか

ここまでの話は建てる前のことで、断熱性能をシミュレーションにより検討していましたが、実際住んでからどうなのか気になると思います。
私自身もシミュレーションだから、暮らし方によっては大幅に狂うのではないかという疑いもありました。
そのため光熱費を毎月記録し、シミュレーション結果と比較し、グラフ化しています。

グラフが示す通り、1月と4月を除いてはシミュレーションを大きく上回ることはありませんでした。
逆にこの暑かった6~8月は大きく下回っています。
1月は運用に不慣れで暖房の設定温度を高くしていたこと、4月は履歴平均気温を下回る日が22日あった寒い春でエアコンの運用が多かったことが、シミュレーション結果を上回った理由です。
6~8月は冷房を我慢したということはありません。
特に8月は1泊2日の旅行以外は24時間運転していたのにも関わらず、ランニングコストが抑えられました。
おそらく古い家で軒がしっかり出ていて、直射日光の影響を抑えたれたためだと考えられます。
我慢せず、涼しくて快適な夏を過ごせた、過去最高の夏だったかもしれません。
このようにシミュレーションでは年間123,327円となる予定ですが、現時点で6%程下回った運用ができおり、非常に良好な結果となっています。

5.計画通りに生活できて快適な暮らし

夏暑く、冬寒い、活動意欲が低下する暮らしは嫌だという思いで、高い断熱性能にこだわってリノベーションしました。
今のところその目的は真冬も真夏も達成できています。
高性能な住宅を推奨する方で、これこそが正義と言い張る人もいますが、私はそう思いません。
希望の暮らし方に合致したものが最良の住まいで、極端な話無断熱でもいいと思います。
(さすがにオススメしません 笑)
この住まいでどんな暮らしを営みたいか、それにはどの程度の性能が必要なのか考え、学び、知ることが大切です。
ちなみに高い断熱性能の暮らしをする中で、失ったものもあります。
車で30分の実家が暑くて滞在時間も訪問回数も減ったことと、外に出掛ける回数が減ったことです。
家が快適過ぎて、考えていなかったところで弊害が出ましたが、それでもこの暮らし大満足です。

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