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断熱性能って本当に高くできるのか?

一級建築士である私が、写真家の妻のスタジオを併設させた住まいを手に入れるために選択したリノベーションによる家づくりについて、その経験談とプロとしての知識を織り交ぜて書いているnoteです。 

今回は「リノベーションでも本当に断熱性能って高められるのか?」について書きたいと思います。

1.断熱の重要性

断熱が必要な理由については、以前書きました。
要点としては、冬寒い家はヒートショックによる心筋梗塞や脳梗塞などの健康に害を与える可能性が高くなること、断熱性能が低い家は冷暖房費用が高くて住み始めてからのコストが高くなることの2点が挙げられます。
また日本は意外と断熱後進国で、2020年に義務化予定だった断熱性能に関する基準(次世代省エネ基準)も世界的に見るとハードルが低く、なおかつ義務化すると対応できない工務店が多いといった理由で延期になっています。
断熱に関する基準が無いということは、冷暖房に多くのエネルギーを消費することとなり、二酸化炭素排出量を減らすことができない恥ずかしい国という見方になっているのが現状です。
断熱は健康、光熱費、二酸化炭素排出量の3点で個人としても、国としても非常に重要な課題となっています。

2.リノベーションでも断熱性能を向上できるのか

リノベーションでも断熱性能を向上させることができます。
ただし工事は少し大掛かりになります。

断熱は床、壁、天井、サッシを全てバランスよく補強しなければなりません。
そうするためにこれぐらい壊します。

この住まいでは、家一軒丸々断熱をする訳ではなく、コスト的な理由で居住エリアのみの部分断熱だったため、内部側からの断熱補強するので、このような解体状況になりました。
他に家一軒丸々断熱補強するのであれば、外壁を壊して外部側から断熱補強する方が作業効率とコストパフォーマンスは良い場合があります。
断熱と言ってもグラスウール、現場発泡ウレタン、フェノールフォーム板、セルロースファイバー等、たくさんの種類があり、コスト、性能、施工方法が異なるので、適材適所で選択しなければなりません。
ちなみに断熱性能は「材料の性能×厚み=性能」なので、よく住宅会社で「○○という材料を使っているので高性能!」という謳い文句を見かけますが、材料だけでは高性能と言えないことに注意したいところです。
今回は、床に60mmのフェノールフォーム板、壁に70mm、天井に115mmのアクアフォームNEO(現場発泡ウレタン断熱材の高性能のもの)、サッシに樹脂窓でLow-E複層ガラスのものを採用しました。
壁と天井の吹付け断熱が終わった様子がこちらで、ピンク色のモコモコしたものが断熱材です。

新築であれば建物の歪みが少なかったり、気密テープを貼る作業スペースが十分にあります。
しかしリノベーションだと既存の建物が歪んでいたり、残す部分の影響で気密テープがうまく貼れないこともあるので、現場発泡系であれば比較的容易にリノベーションレベルで高い気密性能を確保できるという理由で採用しました。
またこのピンク色のものが非常に高性能で、一般的なウレタン断熱の熱伝導率が0.036なのに対して、物性特性値で0.021、JISの規格値で0.026と最大で1.7倍の性能があります。
熱伝導率は低ければ低いほど熱を通しにくいことを表すので、同じ厚みであればピンク色の方が高性能な断熱材と判断できます。
この住まいでは、既存の柱を仕上げとして出す真壁のデザインを採用し、壁に吹ける断熱材の厚みがデザイン側の理由で決まっていたため、高性能な材料を採用しましたが、実はコストでいうと同じ厚みの施工で3倍近い価格差がありました。
性能は1.7倍、コストは3倍と割りに合わない気もしますが、それでも目指す空間コンセプトが実現できるので納得して採用しました。

3.健康で省エネな暮らしができているのか

引越し前後で風邪を引いた回数等を数えていないので、健康への影響がどれぐらい出ているかわかりませんが、省エネには暮らせています。
断熱性能を決めるにあたって、設計時に燃費シミュレーションを行っていました。
これが次世代省エネルギー基準と呼ばれる国が2020年に義務化する予定だった断熱性能での光熱費です。(冬場の室温が8度を下回らない程度)

これが実際に採用した断熱性能です。(冬場の室温が13度を下回らない程度)

年間光熱費で53,744円の差があり、工事費の差は1,100,000円程度です。
工事費の差を光熱費の差で割ると、20.48年となります。
何が言いたいかというと、20年と半年で初期投資費用が回収可能なんです。
それぞれ同じ条件で暖房した時、次世代省エネ基準では8度まで室温が下がるのに対して、今回採用の仕様では13度までしか下がらないようになっています。
5度違えば、上着1枚分ぐらい違うぐらいだと思います。
本当にそうなのか?シミュレーションは正しいのか?と思って現在実測値を測定中です。

1月は引越したばかりでエアコンの運転を失敗してしまい、光熱費が高くなってしまいました。
2月、3月はエアコンの運転を見直し、設定温度を24度から22度に変更した結果、シミュレーションと実測値がほぼ同じになりました。
この設定温度が重要で、1度下げることで10%消費電力を削減することができます。
22度の暖房って寒いのでは?と思うかもしれませんが、その時の室温は20〜22度を維持し、夜寝る前にエアコンを消しても翌朝16〜18度ぐらいにしか下がっていませんでした。
真冬で外が5度以下なのに対して、十分暖かくないですか?
そして4月は平年よりも非常に寒く、こちらの運用の問題ではない理由で光熱費が高くなり、5月はほぼほぼシミュレーションと実測値がほぼ同じになりました。
記録し、理由を分析したところ、今の所はシミュレーション結果は信用できそうです。
このペースでいけば、リノベーションした住まいでも夫婦2人暮らし、オール電化で月平均1万円代の電気代におさまりそうです。
妻は在宅で仕事をすることが多いので、エアコンの稼働時間が一般家庭よりも長いことを加味すると、非常にお安くないですか?

4.まとめ

光熱費という数字的な根拠が示す通り、リノベーションでも十分省エネな暮らしは実現できます。
築15年ぐらいのアパートに暮らしていた頃は、冬の期間に着る毛布やフリースが手放せなかったけど、この住まいに来てからは出番を失っています。
着る毛布の肌触りけっこう好きだったのに、暑くて着ていられないのでちょっと名残惜しいです(笑)
健康面では風邪を引くことが本当に少なくなったなと感じています。
家のリノベーションを終えてから、体のリノベーションと思ってジム通いしていることも、住環境の向上と相乗効果的に影響しているのだと思います。
ジムに行けるようになったのも、光熱費をおさえたおかげかもしれません。
断熱性能が変われば、生活はガラッと変わると実感しているので、断熱向上は本当におすすめです。

建築と写真で素敵な生活のサポートをしたい