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VRドキュメンタリー"Traveling While Black"

本日のnoteでは、アフリカ系アメリカ人が長い間行動を制限されてきた歴史と、いかにしてコミュニティの中で安全な空間を築いてきたかを描いたVRドキュメンタリー、"Traveling While Black"をご紹介させて頂きます。

この作品はカナダのケベック・モントリオールにあるFelix & Paul Studiosという、これまでVR映画でエミー賞を含め数々の受賞実績を持つ、世界で有数の没入型エンターテイメントスタジオが手がけています。

またアフリカ系アメリカ人監督として初めての米国アカデミー賞受賞者となった(短編ドキュメンタリー賞)、映画監督のロジャー・ロス・ウィリアムズが監督を務めています。

最近のアメリカの情勢を受けてか、Oculus Go / Oculus Questでも非常に目立つ位置で特集をされており、Oculus Storeでアプリをダウンロードすれば無料で見ることができます。

ただ日本語字幕がついておらず、様々な人物へのインタビュー形式で展開していくため、細かいセリフが理解しきれていない箇所があります。なのでセリフが怪しい部分については勝手な説明は加えずに、しっかりと理解できた範囲で概要と感想を書いていこうと思います。

作品の概要

"Traveling While Black"は、アフリカ系アメリカ人が長い間様々な行動を制限されてきた歴史と、いかにしてコミュニティの中で安全な空間を築いてきたかを描いたシネマティックなVR体験です。

この作品の舞台は、ワシントンDCのランドマーク的なレストランである"Ben's Chili Bowl"です。視聴者は、この店のお客さんたちが今までアメリカで経験してきた抑圧や、異なる人種間の関係について、個人的な経験をシェアしてもらうことができます。

グリーンブックについて

2019年に『グリーン・ブック』という映画が米国アカデミー賞3部門を受賞して話題となりましたが、"Traveling While Black"でもそのグリーン・ブックを題材に扱っています。

グリーンブックとは、ニューヨークのハーレムに住む郵便集配人であったヴィクター・H・グリーンとその仲間が創刊した、「黒人ドライバーのためのグリーン・ブック (The Negro Motorist Green Book または The Negro Traveler's Green Book)」の通称で、アメリカ合衆国が人種隔離政策時代の1930年代から1960年代に、自動車で旅行するアフリカ系アメリカ人を対象として発行していた旅行ガイドブックです。

"Traveling While Black"では、当時アフリカ系アメリカ人がアメリカを旅することは大きな困難を伴い、同時に危険であったと説明しています。ホテルに宿泊したり、ガソリンを買ったり、レストランで食事を取ることにさえも制約があったそうです。そこでグリーンブックでは、黒人旅行者へのサービス提供者の情報を路傍に指し示すことで、グリーンブックは黒人旅行者にとってのバイブルとなっていきました。

1964年に公民権法が議会を通過し、人種差別が禁止されると、じきにグリーンブックは廃刊となりました。しかしアフリカ系アメリカ人にとって、アメリカを旅することの困難さや危険性は今なお続いていると、"Traveling While Black"では説明しています。

Ben's Chili Bowlについて

Ben's Chili Bowlは、グリーンブックに掲載されていたサイレント映画劇場の跡地に1958年に建てられたレストランで、その精神を引き継ぎ、アフリカ系アメリカ人のコミュニティとしての役割を果たしてきました。

この作品の中で、"Ben's Chili Bowl"のお客さんとして自身の経験を語る主な登場人物は下記になります。

・85歳の"Ben's Chili Bowl"のオーナー VIRGINIA ALIと101歳の元バレリーナ THERRELL SMITH

学生非暴力調整委員会のリーダー*1 COURTLAND COX

・タミル・ライス*2の母親である SAMARIA RICE

*1 学生非暴力調整委員会:1960年、反戦・反差別をスローガンとして結成された黒人学生を主体とした米国の公民権運動組織)

*2 タミル・ライス:2014年11月22日、オハイオ州クリーブランドで、26歳の警察官ティモシー・ローマンによって射殺された、12歳の少年タミル・ライスのこと。ライスはエアガンのおもちゃのレプリカを運んでいたが、ローマンは現場に到着した直後に彼を撃った。) 

彼らはそれぞれに、Ben's Chili Bowlのなりたちや、アメリカを旅したときの経験、また様々な差別や抑圧を受けてきた経験を語ります。

アメリカの人種問題について語ったり理解をしていくにあたって、"Traveling While Black"では過去を振り返るだけではなく過去から学ぶこと、そして人種的なマイノリティの旅行者が、今日もなお直面している困難について、対話をすることが急務であると述べています。

作品の感想

この作品をみた感想としては、まず私はアメリカの人種問題の歴史にこれまで全然触れてこなかったので、ただただ登場人物たちの実際の経験談や思いに触れて悲しくなり、もっと勉強しないとBlack Lives Matter運動をはじめとする今アメリカで起きていることの背景は理解できないなと思いました。この作品は20分程度の短尺なので、そういった学びや対話のきっかけを与えてくれる作品なのではないかと思います。

この作品では一貫してBen's Chili Bowlとそのお客さんへの店内でのインタビューによって物語が展開していくのですが、建物の歴史やそこにまつわる人々の記憶を掘り起こしていくようなストーリー構成となっており、視点移動やカット割を多用できない(多用すると酔ったり、没入感を阻害してしまう)VRの弱点をうまく補っていると思いました。カメラを動かして視点移動するときも、視聴者が酔わないようにものすごく低速で一定のスピードで動かすように注意していました。

また360度の利点を生かして、お店の壁一面に過去の資料映像を投影しているシーンも、またガラッと店内の雰囲気が変わり印象的でした。またおそらくBen's Chili Bowlの場所にかつて建てられていたサイレント劇場をイメージしていると思うのですが、VR空間内の劇場に座って時代背景の説明を行うような冒頭のシーンもあり、随所でVRならではの演出が徹底的に考えられているなと思いました。

さすがはVRの撮影に精通したFelix & Paul Studiosと、アカデミー賞受賞監督のチームというだけあって、ストーリーもVRの活かし方もすごい作品でした。

以上、VRドキュメンタリー"Traveling While Black"についてご紹介させて頂きました!

*Twitterもやっていますので、宜しければぜひフォローをお願いします!https://twitter.com/Kanamonomono

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