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グローバルに企業価値を高める「持続的な事業開発・社会価値創造」に必要なヒントを探しに ──欧州スポーツエグゼクティブツアーを実施します

はじめまして。ロンドンを拠点にするブティックスポーツエージェンシーBESIDE JAPANの林と申します。この度、日本企業がグローバルに企業価値を高めるために必要な「持続的な事業開発・社会価値創造」のヒントを探るプログラム「欧州スポーツエグゼクティブツアー」を企画することになりました。このプログラムを一言で表すと、「欧州スポーツ界とのコラボレーションを通じた日本企業のイノベーションデザインプログラム」です。日本企業のリソース・アセットと欧州スポーツ界のリソース・アセットを掛け合わせ、日本企業が自社のビジネスにカスタマイズした形でグローバルに事業を共創する先端的な取り組みです。

昨今、日本企業の国際競争力・プレゼンスの低下が叫ばれて久しく、2019年末からの「コロナ鎖国」によって、国際的なコラボレーション機会も大きく減少しました。一方、欧州スポーツ界では、サステナビリティや社会価値創造にむけた取り組みを協働できる価値共創パートナーとして、日本企業に対する期待の声が上がっています。実際に、欧州やアジア企業では、従来の広告・宣伝やマーケティングを目的にしたスポンサーシップ型ビジネスに加え、事業開発や社会価値創造などにスポーツを活用するパートナーシップ型ビジネスへの取り組みが進んでいます。

今回のツアーでは、複数の日本企業のエグゼクティブとともに英国とスイスを訪れます。訪問先は、2023年12月3日時点で4つが確定。英国は、冨安選手も所属するアーセナルFC、イングランドサッカー協会 (The FA)・来年3月に日本でのイベント初開催を予定しているFormula Eの3つ。そしてスイスは、欧州サッカー連盟(UEFA)です。各組織のエグゼクティブや部門長レイヤーの人間とのディスカッションを通じて、日本企業と欧州スポーツ界のコラボレーションを通じた事業開発・イノベーションの機会をじっくり探索します。*今後、参加企業のニーズも汲み取りながら、あと3つほどの訪問先を加え、合計7件のアポイントを予定

では、実際にどのように事業を開発していくのか?今回のプログラムは、気付く→考える→創るという事業づくりのためのデザインプロセスを念頭に設計しています。

ツアーの概要・スケジュール案・参加対象者は下記になります。

ここまで、ツアーコンセプトと概要について述べてきましたが、次に企画に至った背景について「①日本企業の抱えるチャレンジ」「②欧州スポーツ界の課題」の2つの観点からお話ししたいと思います。

企画に至った背景①:日本企業の国際競争力・プレゼンスの低下

昨今、日本企業の国際競争力・プレゼンスの低下が叫ばれて久しいのは皆さんご存知の通りです。IMD世界競争力ランキングの調査結果では、「企業の感度」「グローバル化への姿勢」「企業の俊敏性」などの因子によって、ビジネス効率の低下やアジア諸国の台頭などを背景にした日本企業の国際競争力低下が示されています。

また、2019年末からの「コロナ鎖国」によって、国際的なコラボレーション機会は大きく減少しました。一方欧州では、各国政府や企業が持続的な活動継続のために、国際的なコラボレーション機会を増やしました。このコロナ禍のコンテクストで、欧州発の新たなイニシアチブやルール・レギュレーション、ビジネスやサービスが次々と生まれています。

私自身、2020年より英国のデザインスクール留学を機に、ロンドンに拠点を移したことで、日本と欧州の違いを身をもって体感しました。いち早く国を開き、経済活動・社会活動をリスタートした欧州を傍目に、閉じたままの日本企業の国際競争力・プレゼンスの低下を目の当たりにする中で、自分自身が貢献できることがないかと考えるようになりました。

(コロナ禍、日本へ向かう機内。英国と日本を往復する中、リスクに対するスタンス・許容度など、両国の違いについて色々と考えさせられました)

企画に至った背景②:欧州スポーツ界から日本企業への期待

一方で、欧州のスポーツ関係者と対話を重ねる中で、彼らが持続的な事業活動を行うため、ステークホルダーからのプレッシャーが高まっていることを知りました。欧州は以前よりサステナビリティ・社会的責任に対する意識が高い地域でしたが、近年さらにその重要性が高まり、スポーツに関わるステークホルダーにおいても重要な経営アジェンダとして位置付けられています。とりわけ、「環境」や「人権」といったテーマに対して、いかにそのスポーツ組織が取り組んでいるか、スポンサーや投資家、ファンから厳しい目が注がれています。

そんな現状をディスカッションしているなかで、欧州のスポーツ関係者の間で「日本企業」に対する期待が高まっていることを知りました。なぜ、いま、日本企業なのか。それは、下記2つの役割に対する期待です

1つ目は、「資金調達リスクマネジメント」の役割です。近年、欧州スポーツ界ではロシアや中国、中東諸国からの資金調達が増加しています。一方で、これらの国は人権や環境問題などに関して様々な問題が指摘されている国々でもあります。そのため、「ウォッシング活動として欧州スポーツが活用されてはいないか」という指摘の声が各ステークホルダーから上がっている、つまり、資金調達のリスクマネジメントの必要性が議論されているのです。この点において、企業経営の安定性、文化的成熟度が高く、高い倫理観を持つ日本企業を再評価する声が増えています。

2つ目は、「価値共創パートナー」の役割です。先に述べたように、欧州スポーツ組織に対し、ファン(消費者)、スポンサー・投資家、政府・国際機関などさまざまなステークホルダーから、サステナビリティに対する取り組みを要求する声が年々高まっています。そこで、従来の広告・宣伝やマーケティングといった商業的な目的のスポンサーだけではなく、社会価値創造やサステナビリティにむけた取り組みを協働できる「価値共創パートナー」の獲得を望んでいます。この点においても、サステナビリティに対する本質的な理解があり、高品質のシステム・サービスを保有する日本企業に対する期待の声があります。

(この企画を構想するきっかけとなった、2023年5月のUEFAオフィス訪問)

日本企業と欧州スポーツ界を結びつける文脈仮説_ 講談社とリバプールFCの事例から考える

日本企業、欧州スポーツ界それぞれのコンテクストを踏まえ、この両者をスポーツを機軸に適切な文脈でつなぎ合わせることで、新しい価値創造ができるのではないか?と本プログラムアドバイザーである関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科 富田教授と構想を練り始めることになりました(*富田教授と2023年5月にスイス・ニヨンにあるUEFAオフィスへ訪問)。途中、BIOTOPE佐宗さん・石原さんにも加わっていただき、議論を重ねる中で、社会資本(≒文化資本)としてのスポーツに価値・役割を見出し、事業開発や社会価値創造などにスポーツを活用するパートナーシップ型ビジネスに、その可能性を見出すことができるのではないか?という仮説を導くに至りました。

具体例をあげてみましょう。講談社と、英国プレミアリーグに所属するリバプール FCのグローバルパートナーシップを通じた活動です。

1909年創業の伝統あるこの日本企業は、グローバル企業へのステップとして、2021年4月に”Inspire Impossible Stories”という英語で表現した新しい企業理念とロゴを発表しました。そして、その2ヶ月後、2021年6月にリバプール FCとのパートナーシップが公となります。世界で持続的な事業活動を行うためのビークルとして、社会資本(≒文化資本)としてのスポーツに価値・役割を見出したと言えます。以降、世界数億人のサポーターに支持される世界屈指の人気フットボールクラブとの共同プロジェクト「inspiRED」を通じて、欧州のみならず全世界に向けた講談社ブランドを発信や様々なアクティビティに取り組んでいます。

その中で、リバプール FCの財団と講談社が、2021年9月にスタートした「Creative Works」というプログラムは、社会価値創造にスポーツを活用するパートナーシップ型の取り組みとして注目に値します。スタートしました。これは、英国内で貧困率ワーストの都市であるリバプールの地元大学生・高校生を対象に、 就労に困難な環境にある若者が、クリエイティブ業界でキャリアを積むことを支援するための取り組みです。昨年の活動では、30名を超える大学生・高校生に対して述べ1,932時間分のプログラムを提供。 この「Creative Works」のインターンを通じた就職実績を創出するなど、地域コミュニティへの貢献を果たしていると言います。

これはあくまで推測ですが、外資系企業である講談社(経済資本)が世界で持続的な事業活動を行うためには、

①スタジアムでの広告看板やユニホームへの社名掲示、広告キャンペーンなどでの選手の肖像利用といった商業的目的だけでは足りないこと。

②双方の理念に深く根差し、中長期という時間軸で覚悟を持って取り組むオーセンティックな活動が必要であること。

③それをストーリーとして伝えることで、地域・ファンからの深い共感を生み、持続的な事業活動を行う土壌が耕されること。

が必要なのだと、関係者の間でコンセンサスが取れているのだと思います。「持続的な事業開発・社会価値創造」に必要なヒントがこの事例から読み解くことができるのではないでしょうか。

なお、この両者の取り組みはさらなる広がりを見せようとしています。2023年7月に「オフィシャル・グローバル・パートナーシップ」の早期契約更新が発表され、北米エリアに広げてプログラムを展開していくようです(リリース内に、契約期間途中ながら新たな契約を締結したと記載があるように、講談社としてこのパートナーシップは十分な投資価値があるという判断がなされている様子)。

*この両者のパートナーシップは在日英国商業会議所(BCCJ)が主宰するBBA 2023 UK-Japan Partnershipにもノミネートされています。

(今年7月、近代美術館 “Tate Liverpool”で開催された講談社とリバプールFC・財団のイベント)

この事例以外にも、UEFAが2023年9月に発表したChampions Innovate(*) など、欧州では、事業開発や社会価値創造などにスポーツを活用するパートナーシップ型ビジネスへの取り組みが進んでいます。私たちは、この文脈・アングルが、日本企業が世界で持続的な事業活動を行うための一つの戦略的なオプションになるという仮説を持っております。今回の欧州スポーツエグゼクティブツアーを、こうした取り組みが次々と生まれていく苗床にしていきたいと考えています。グローバルな成功を築くための新たなアプローチをともに探しにいきませんか?

*2024年にチャンピオンズリーグ決勝が行われるロンドンのThe Greater London Authority、UEFA、そしてCLスポンサー企業の3者が連携し開催都市に社会的・環境的インパクトのあるレガシーを残すことを目的としたイニシアチブ。解説をしたnoteはこちら

補足

2023年11月20日に実施した欧州スポーツエグゼクティブツアー説明会を踏まえ、12月3日にnoteの原稿を加筆修正いたしました。

欧州スポーツエグゼクティブツアー
プログラムディレクター:林 鉄朗
プログラムアドバイザー:富田 欣和


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