COVID-19における画像検査適応指針 (4月25日)

公益社団法人日本医学放射線学会|新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連する情報

が4月24日付けで公開されましたので、勉強のメモ。

下記、自分の勉強のメモの意味合いからの走り書きですので、誤りもあると思います。

可能な限り、原著に当たって下さい。

総論

・リンクは
公益社団法人日本医学放射線学会|新型コロナウイルス感染症(DOVID-19)流行期における放射線診療についての提言
(放射線学会単独のstatement)

公益社団法人日本医学放射線学会|新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する胸部CT検査の指針(Ver.1.0)
(日本医学放射線学会・日本環境感染学会・日本感染症学会の3学会からのstatement)

The Role of Chest Imaging in Patient Management during the COVID-19 Pandemic: A Multinational Consensus Statement from the Fleischner Society | Radiology

一番下のFleischner societyからのconsensus statementが色々と下敷きにされたと推測。

・放射線学会からの提言はFleischner societyからのconsensus statementに非常に近い。一方、胸部CT検査の指針は単純レントゲンの運用について結構突っ込んだ提言をしている。

・本情報が公開されたが、学会のお知らせメールでの情報共有は今の所無し。

・そもそも、日本医学放射線学会からのCOVID-19関連のニュースメールは3月18日付けでJJR(日本医学放射線学会の英文誌)にCOVID-19のcase seriesが載ったお報せのみ。これは、JJR編集長の興梠先生名義のメールなので、恐らくは学会というよりJJR側から要請があって送られてきたメールと推測。

・他に画像所見についてのお報せが過去に4つほど学会のHPには載っていたが、メールでの告知は無し。また、多くが最新論文のリンクのみの紹介で網羅的とは言いがたい。

・RSNA(北米放射線学会)がdigestとして頻繁にCOVID-19関連のトピックを送られてくるのとは随分と印象が違う。日本医学放射線学会は会員が自分で情報を取って勉強出来るはずだ、と信頼しているのだろう

・Fleischner Societyには日本の放射線科から阪大の冨山先生がexpert panelで入っているが、今回の日本医学放射線学会からの提言に関わっているかは不明

・思うにCT画像検査は国民の認知度も高まってきているし、もう少し学会から一般の方向けへの情報提供があっても良いのかもしれない。
放射線科医の世間への認知度を上げる良い機会とは思うのだが。

”新型コロナウイルス感染症(DOVID-19)流行期における放射線診療についての提言”について

公益社団法人日本医学放射線学会|新型コロナウイルス感染症(DOVID-19)流行期における放射線診療についての提言

・実は4月21日付けでの報告らしい。
下記の7項目について記載


(1) 緊急ではない検査および治療を延期し、実施件数を減少させる必要がある
(2) COVID-19のスクリーニング検査としてCTを用いることは推奨しない
(3) ウイルス検査が広く利用できない状況における暫定的な対策として、COVID-19疑い患者に対する医療行為に関する意思決定のために胸部CTを利用することは許容される
(4) COVID-19患者に対する画像検査は十分に適応を検討した上で実施する
(5) 検査室における感染予防策を徹底しなければならない
(6) 放射線部門医療従事者の感染予防策を徹底するとともに、部内に感染者が出た場合に備えて事業継続計画を立案しておく必要がある
(7) COVID-19でみられるCT所見に習熟する必要がある

概ね、良くトピックとなる内容。
基本的に
The Role of Chest Imaging in Patient Management during the COVID-19 Pandemic: A Multinational Consensus Statement from the Fleischner Society | Radiology
の内容をなぞっている。

もう1個の
公益社団法人日本医学放射線学会|新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する胸部CT検査の指針(Ver.1.0)
は所々、日本独自の運用が見られたのとは対照的。
こちらの提言は放射線学会単独で出せたので、過去のstatementに忠実な指針を出せたのかもしれない。

・エビデンスが不十分な状況なので、本記事はガイドラインで無く提言だと明記

・冒頭で

(1) 緊急ではない検査および治療を延期し、実施件数を減少させる必要がある

として、延期出来るカテゴリー分類の目安を提示している。


無題

・COVID-19の感度については既報より低い値、特異度については高い値を記載している。

COVID-19の胸部CTの感度と特異度は、それぞれ80~90%と60~70%の範囲であると報告されている。

4月17日付けのMeta-analysisでは、胸部CTの感度は94%(95%信頼区間: 91-96%)、特異度は37%(95%信頼区間: 26-50%) 
COVID-19に対する胸部CTとPCRの診断能についてのmeta-analysisについてのsummary (4月17日)|tetsuro.sekine|note
データの出展が無く、判断が困難だが、重要な値にも関わらず、少し既報とズレがある印象がある。

・COVID-19が肺塞栓のリスクになる事については、本提言の時点では、まだ考慮がされていない様子

COVID-19陽性または疑い患者において、肺塞栓症など治療可能な他の疾患の除外、あるいは脳卒中、外傷、感染症など、他の緊急の状態の評価を目的として緊急画像検査が必要になることはある。

・CTが疾患除外について用いる事が出来ない事は明記されている

胸部CTで正常であることがCOVID-19の感染を否定するものではなく、異常所見がCOVID-19の診断に特異的なものでもない。臨床的に必要な場合に、画像所見が正常であることを根拠に、患者の隔離や他の検査あるいは治療を思いとどまることがあってはならない。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する胸部CT検査の指針(Ver.1.0)

公益社団法人日本医学放射線学会|新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する胸部CT検査の指針(Ver.1.0)

・こちらの提言は

日本放射線科専門医会・医会: 氏田万寿夫、加藤勝也、芦澤和人
日本医学放射線学会: 田中伸幸、荒川浩明
日本環境感染学会: 松本哲哉、泉川公一
日本感染症学会: 迎 寛、川名明彦

となっている。
先にも書いたが、少し日本ならでは運用的な所が散見される。

・下記の項目についてQ and A形式で記載。
原著が想像出来る物もあれば、”それはどこから出てきた運用?”というものもあり。

Q1. CT検査における注意点は?
 A1-1. CT検査室での感染対策が必須である。
 A1-2. すりガラス影の検出が確実にできる撮像条件が必要である。

Q2. クラスター(疑い含む)集団へのCT検査は必要か?
 A2. 原則、スクリーニングとしてのCT検査は推奨できない。以下に理由を示す。

Q3. 実臨床におけるCOVID-19に対するCTの適応は?
 A3-1. 臨床医が肺炎を疑い画像診断を必要と判断した場合、院内感染対策に十分留意した上で胸部単純X線撮影で評価する。
 A3-2. CT検査施行の基本的な考え方を以下に示す。

Q4. COVID-19肺炎のCT所見は?
 A4-1. 典型的な所見
 A4-2. 非典型的な所見

・戌亥先生のダイヤモンドプリンセスの論文を引用して下記の様に述べている。
Chest CT Findings in Cases from the Cruise Ship “Diamond Princess” with Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) | Radiology: Cardiothoracic Imaging

PCR検査が陽性のクラスター集団で、無症状例の46%,有症状例の20%に、CT陰性(偽陰性)例が存在する。

但し、本論文においては、有症状例28名の内、発熱11例、咳20例、とかなりの軽症例ばかりがrecruitされており、biasが強い。

中等症以上の有症状例を含めたmeta-analysisではCT感度は94%(95%信頼区間: 91-96% 
 
COVID-19に対する胸部CTとPCRの診断能についてのmeta-analysisについてのsummary (4月17日)|tetsuro.sekine|note(https://note.com/tetsuro_sekine/n/n01093d680cea)
と報告されている。

国内cohortであり、症状やCT所見における人種間のバラツキを考えると戌亥先生の論文は有用な論文ではあるが、この論文のみを根拠にするのは問題があるかもしれない。

・下記の様に述べられており、単純X線の適応を凄く重視している

Q3. 実臨床におけるCOVID-19に対するCTの適応は?
A3-1. 臨床医が肺炎を疑い画像診断を必要と判断した場合、院内感染対策に十分留意した上で胸部単純X線撮影で評価する。

なお、少し長くなるが、
The Role of Chest Imaging in Patient Management during the COVID-19 Pandemic: A Multinational Consensus Statement from the Fleischner Society | Radiology
においては、Summary of recommendationsとThe use of Imaging in COVID-19の段落でCXRとCT適応についての議論あるので、これの抄訳を下記に示す。

[1] Summary recommendation

シナリオ2・3ともには中等度-高度の症状を持ち、検査前確率としてCOVID-19の可能性がある場合を指す。
シナリオ2は医療リソースの制約が無い場合、シナリオ3は医療リソースの制約がある場合を指す。
CTへのアクセスが限られている場合、というのは文意を解釈するに、COVID-19患者撮影後に消毒が必要になり、CT利用に制限がかかる場合、CTを撮影する事でCT撮影までの患者の導線でウイルス暴露の危険性が必要となる場合、などが考えられる。
大枠としては、現場の臨床医が決めるべき、というのが結論。
他、状況毎のrecommendationや期待されるメリットについて述べられている。

画像2


----------
[2] The use of Imaging in COVID-19

抄訳下記

 胸部単純レントゲン(CXR)は軽度の早期COVID-19においては感度が低い。しかし、ウイルス性肺炎の同定におけるCXRとCTの有用性はcommunityにおける規範や公衆衛生指導に依存する。

 武漢の様に早期症状での発見が優先される場合はCXRの価値は低い。PCR検査の信頼性が不十分で、その検査結果に時間がかかる環境下において、感染患者を隔離する必要があれば、早期肺炎に対するCT検査が高感度な点の有用性が高い。一方、NYの様に症状が進行するまで自宅待機する様に指導されている場合は、しばしばCXRは受診時に異常を呈する。

 別の観点から、感染患者の画像検査におけるポータビリティの観点からはCXRの方が望ましいかもしれず、CT検査室までのルートやCT検査室におけるCOVID-19の散布のリスクを効果的に抑制する事が出来ない状況、特に防護服の備蓄が十分でない状況においては有用と思われる。

 入院患者においては症状進行度の評価や細菌性肺炎・無気肺・胸水などのCOVID-19以外の疾病の可能性を評価するためにCXRは有用である。

 CTは早期のCOVID-19の同定、病状進行、鑑別診断に有用で、COVID-19に起因する心不全や、造影剤を投与すれば肺塞栓も鑑別可能である。

 CTの有用性はCT撮影のどの程度のキャパシティーがあるのか、すなわち、COVID-19患者を撮影した後の消毒に時間を取られる事によりCTが使用出来なくなる事をどの程度考慮するか?に依存する。

 幾つかのセンターではCXRよりCTがCOVID-19の同定及び臨床学的悪化との相関がある事を信頼している。

 プラクティスのパターンやリソースには大きなバラツキがあるため、本statementにおける臨床シナリオでは画像検査の利用 (CXR及びCT)について明示するものであって、CXR vs. CTのメリットについて明言する物ではない。究極的にはCXRとCTの特質、リソース、そして経験を考慮の上、臨床現場チームの裁量に任せられている。

The Use of Imaging in COVID-19
The value of an imaging test relates to the generation of results that are clinically actionable either for establishing a diagnosis or for guiding management, triage, or therapy. That value is diminished by costs that include the risk of radiation exposure to the patient, risk of COVID-19 transmission to uninfected healthcare workers and other patients, consumption of PPE, and need for cleaning and downtime of radiology rooms in resource-constrained environments. The appropriate use of imaging in each of the scenarios was considered on this basis.

This statement focuses exclusively on the use of chest radiography (CXR) and computed tomography of the thorax (CT). While ultrasound has been suggested as a potential triage and diagnostic tool for COVID-19 given the predilection for the disease in subpleural regions, there is limited experience at this time (16), as well as infection control issues.

CXR is insensitive in mild or early COVID-19 infection (17). However, with respect to the relative value of CXR or CT for detecting the presence of viral pneumonia, the experience is vastly different dependent upon community norms and public health directives. When patients are encouraged to present early in the course of their disease, as was the case in Wuhan, China, CXR has little value. The greater sensitivity of CT for early pneumonic changes is more relevant in the setting of a public health approach that required isolation of all infected patients within an environment where the reliability of COVID-19 testing was limited and turnaround times were long (4). Alternatively, in New York City where patients were instructed to stay at home until they experienced advanced symptoms, CXR was often abnormal at the time of presentation. Equipment portability with imaging performed within an infected patient’s isolation room is another factor that may favor CXR in selected populations, effectively eliminating the risk of COVID-19 transmission along the transport route to a CT scanner and within the room housing a CT scanner, particularly in environments lacking PPE. In hospitalized patients CXR can be useful for assessing disease progression and alternative diagnoses such as lobar pneumonia, suggestive of bacterial superinfection, pneumothorax and pleural effusion.

CT is more sensitive for early parenchymal lung disease, disease progression, and alternative diagnoses including acute heart failure from COVID-19 myocardial injury (18) and when acquired with intravenous contrast material, pulmonary thromboembolism. Leveraging these superior capabilities depends upon the availability of CT capacity, particularly considering the potential reduction in CT scanner availability due to the additional time required to clean and disinfect equipment following imaging of patients with suspected COVID-19. Some centers rely on the improved depiction of COVID-19 findings with CT relative to CXR (19) and their association with clinical worsening to determine patient disposition to home, hospital admission, or intensive care. In recognition of variance amongst local practice patterns and resource availability, it is important to state at the outset that the scenarios specify the use of imaging but do not articulate the relative merit of CXR versus CT. Ultimately, the choice of imaging modality is left to the judgement of clinical teams at the point-of-care accounting for the differing attributes of CXR and CT, local resources, and expertise.

・関連してRadiologyの胸部レントゲンについてのpaperについて、昔書いたメモを書きに示す。


RadiologyのCXRの画像所見についてのpaper

Frequency and Distribution of Chest Radiographic Findings in COVID-19 Positive Patients | Radiology
https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/radiol.2020201160
(3月27日)

最終的にPCRで陽性が確認されたCOVID-19患者64名をinclude。
Mild feverが38%、High feverが22%。Coughは41%であり、比較的軽症例がincludeされている様子。

PCRをgold standardとしてCXR所見の検討。

ベースラインではCXRの感度69%(49/64名)。発症10-12日でCXR所見が増大。最終的には感度87.5% (56/64名)

画像所見はCTと同一で下葉有意・末梢有意。私見だが、GGO(33%)よりもconsolidation(47%)が多く見られた、との事なので、CTでGGO単体のphaseはCXRでは捉えきる事が出来ないと思うのだが、意外と感度が高い。

・CT検査の適応におて、PCR陽性症例の検査適応について下記の様に記載されている。

A3-2. CT検査施行の基本的な考え方を以下に示す。
3) 胸部単純X線撮影で異常影がみられないが、PCR検査陽性でありCTが有用な情報を与えると考えられる場合

The Role of Chest Imaging in Patient Management during the COVID-19 Pandemic: A Multinational Consensus Statement from the Fleischner Society | Radiology
では、下記の様に述べられており、軽症例や術前検査確率が高い症例へのCT検査は抑制的であるべき、とされている。
”PCR検査陽性でありCTが有用な情報を与えると考えられる場合”というのは中等症例・合併症持ち症例・社会的に必要な症例になるか

Q2. 軽度の症状を持ちリスクファクターの無いPCR陽性患者に画像検査の適応はあるか?
→ 77%反対
Q3. 軽度の症状を持ち臨床的にCOVID-19に合致するがPCR陰性患者に画像検査の適応はあるか?
→ 88%反対

画像3


・A4-1. 典型的な所見については下記の様に述べられている。

1) 初期は片側性ないし両側性の胸膜直下のすりガラス影、背側または下葉優位
2) 円形の多巣性のすりガラス影
3) 進行するとcrazy-paving patternやコンソリデーションなどの割合が増加
4) 器質化を反映した索状影の混在

RSNAはTypical findingの3つ目としてReverse halo signを入れているが、本提言では採用されていない。
そもそも論として、reverse halo signは論文報告も少数で、これがなんで入っていたのかは不明。(ただ、昨日もそれっぽい症例はあった。)


Radiological Society of North America Expert Consensus Statement on Reporting Chest CT Findings Related to COVID-19. Endorsed by the Society of Thoracic Radiology, the American College of Radiology, and RSNA. | Radiology: Cardiothoracic Imaging

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?