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人生で一番つらかったこと。

「エリア伊都」ジュニアの監督で
保育園の理事長もしている盟友・仙野くんと
「これまでの人生で一番つらかったことって何?」
という話しになりました。

自分があげたのは
コスタリカでの練習生時代の話し。

ちょうどフェイスブックの思い出に
そのときのことを書いた投稿が出てきたので
ちょっと加筆をして掲載してみようと思います。



コスタリカで
1部リーグのテスト生だった2ヶ月間
午前中練習に間に合うよう朝早めのバスに乗り
窓の外の流れゆく景色をぼーっと眺めていました。

ものすごく心が折れそうな時期でした。

所属できるチームを探しながら
自分でトレーニングをしたり
街の人と草サッカーをしていた6ヶ月間を経て
やっとのことでめぐってきたチャンス。

ただ、最初の数回の練習では
手応えを感じられたものの
日に日にパフォーマンスは落ちていきました。

紅白戦では自分だけ使われず
ひとりピッチの外を走っていたり
日本人は初めてで珍しいから
という理由だけで見せしめかのように
テレビのインタビューを受けたり
特に評価されることもなく
「 来週も来てくれ 」が続いたり。

そんな日々のなかで
自分の心は外にばかり目が向くようになり
次第に練習に行くこと自体が
嫌になっていきました。

それでも行かないといけない。

練習場に向かうバスのなか
窓の外の流れゆく景色をぼーっと眺めながら
必死に自分を奮い立たせていました。

今日の自分は、昨日までとは違うんだ。

そう言い聞かせて
必死にいいプレーを頭で思い描いていました。

でも、結果はいつも一緒。

そんな自分のことが
どんどん嫌になっていき
終いにはグラウンドに向かうバスに
若いチームメイトが乗ってくると
気づかないフリをしてしまう自分がいました。

流れゆく景色をぼーっと眺めていました。

しばらくすると体調を崩してしまい
練習にも参加できなくなり、家で療養することに。

他のどの選手よりも
アピールしないといけない立場なのに…

布団のなかで過ごす
何もできない時間はひたすらに苦しい時間でした。

1週間が経ち、体調は回復。
グラウンドへ向かう朝のバスに乗りました。

流れゆく景色をぼーっと眺めていました。

やっと練習できる…いよいよだ…

終点のバス停に着くと、歩いてクラブハウスへ。

チームメイトと挨拶を交わしていると
スタッフから会長室へ行くよう告げられました。

ノックをして部屋に入ると、すぐ目の前に会長が。

挨拶もなく、ただひと言。


「 明日からもう来なくていいから 」


めぐってきたチャンスは
こうして目の前から
すっと消えてなくなったのでした。

OKとだけ返事をして部屋を出ると
グラウンドには行かず
みんなに別れの挨拶をすることもなく
クラブハウスを後にして、バス停へ。

何回も乗ってきた自宅へと向かうバス。
座ったのはやはり、これまでと同じ窓際の席。

流れゆく景色をぼーっと眺めていました。

もうこれで終わりだ、日本に帰ろう…

自宅近くのバス停で降り
町の中心にあるグラウンドのベンチに座っていると
このときのテストを受けられるきっかけにもなった
10歳上の親友ラファがやって来ました。


「 1部リーグのテストはだめだった…
 日本に帰ることを決めたよ 」


ラファにそう伝えようとした瞬間
言葉は出てこず、涙が押し寄せてきました。

言わないと…ちゃんと説明しないと…

無条件に自分のことを助け続けてきてくれた
彼にだけは、どうしてもこの日に伝えたかった。

でも、ダメでした。涙しか出ませんでした。


「 テツ、車に乗って。ごはんでも食べに行こう 」


何を聞いてくることなく車を走らせ
着いたのはショッピングモール。

フードコートの席に座るよう促され
ひとりで待っていると
ラファが次々に食べ物を持ってきてくれました。

ハンバーガー、チキン、ポテト、サラダ
ジュース、ケーキ、アイスクリームを
テーブルに乗りきらない程いっぱいに。


「 よし、食べよう、遠慮するなよ 」


頷くだけの返事をして、一緒に食べ始めました。
お互い何も話さず、ただひたすらに食べに食べ。

最後のアイスを食べてるときでした。
ラファがとても穏やかな口調でこんな話しを。


「 テツが自分の住む町に来て
 この国でサッカーをしていきたいんだ
 という話しをしてくれたことまだ覚えてるよ 」


「 すごく嬉しかったんだ。
 毎日同じだった自分の生活に
 変化のなかった自分の心に刺激が生まれたから 」


「 だから、テツにはすごく感謝してる。
 ベレンに来てくれて、本当にありがとう 」


また涙が出てしまいました。
でも今度は「ありがとう」が出てきました。

そして
日本に帰国しないことを決めました。
強く、強く決めました。

すると不思議なことに
ここからいろいろな人に導かれていきながら
予期せぬ展開が次々と始まっていき
2部リーグのチームとプロ契約できたのでした。

水の流れに乗ったかのように、すーっと。

バスに乗り
窓の外の流れゆく景色を
ぼーっと眺めていたあの時間。

そこでの色味のないぐちゃぐちゃとした感情。

言葉にならないあの複雑な感情は
二度と味わいたくないものではありますが
味わえたことは本当によかった!と思っています。

心の枠みたいなものは
きっと広がったんだろうから。


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そして、ラファ、あらためて、ありがとう。
あなたから大事なことを教わりました。

優しさ以上の強さはないんだということ。
安心感は寄り添うことで生まれるんだということ。
感謝されることで命はより輝くんだということ。

また会おうね。コスタリカの青空の下で。


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