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妖怪サウナ常連クソじじい

学生として最後の春休みを過ごしている僕は、とにかく暇だった。
友人に電話をかけ、温泉に行く約束を取り交わす。
マッチングアプリであえなく撃沈し、かなり落ち込んでいたので
久しぶりの予定にウキウキしながら電車に乗り京都に向かった。

友達と合流しできるだけ人の少ない温泉に行こうという話になった。
温泉に向かい受付を済ませて、浴場に入る。

昼間ということもあり人も少なく「ラッキーやな〜」なんて話しながら風呂に浸った。一通りしょうもない話をした後、サウナに向う。


コロナ期間ということもあり浴場には「大きな声での会話禁止」サウナには「会話禁止」の張り紙がされている。
僕はサウナで会話されててもそれほどイラついたりしないのだが,禁止と書いてあるのに会話されると、少しイラッとする。
流石にコロナ期間サウナで話す奴いないだろと思いながらサウナに入った.

サウナ内はかなり広く,感染予防のために間隔を空けてタオルが敷かれていた。
ただ、僕と友達が座ったところはもともとタオルがぐちゃぐちゃになっており,それに気が付かず席についた。

僕はテレビが見えないので友人から離れ違う席に移動する。
そして、誰も会話しない静かなサウナでテレビの音だけが流れている中、1人のおっさんが現れた。

そのおっさんはサウナに入るや否や、友達が座っていたところを見て、怒り出した。

「タオルがぐちゃぐちゃなっとるやろ?これなんのために敷いてあるかわかるか?直さなあかんやろ」「ほんで自分マットも持って来てないやんけ、あかんやろ」
友人は入り口に座るときに敷くマットに気がつかず直接タオルに座っていたので、そのことを怒られていた。

僕は離れた席からその光景を見ていたのだが
「まぁ、説教長いしうざいけど、しょうがないかな」くらいの気持ちでいた。

それからジジイと友人がタオルを敷き直し,友人はマットを持ってきて、ジジイが席についた。

サウナに平穏が戻ったと思っていると、また新たなおっさんがサウナに入って来た。
そうするとさっきの説教ジジイがそのおっさんに向けて「おう、こんちは」みたいな挨拶をした。

ここで僕は、「やばい」と思った。
サウナによく通う経験上、サウナに知り合いがいる常連客はめちゃめちゃ喋る傾向にある。

ただ流石に,さっき友人に注意してたし喋ることはないだろうなと思っていると、、、

説教ジジイともう1人のジジイがかなりの音量で喋り始めた。

そう、説教ジジイはただのジジイではなく「妖怪サウナ常連クソジジイ」だったのである。


こいつ、、、さっき友達に注意したくせに、、めちゃくちゃでっけえ声で喋り始めるやんけ、
しかも目の前に会話禁止って書いてあるし、、

僕は基本的には絡まれたくないし、そういうのは見て見ぬふりをしてしまうタイプなのだが、友達が少し理不尽に説教をされていたのでイライラが込み上げて来た。
もうこうなるとサウナは楽しめない。

僕は席を立ち、妖怪ジジイの前に行き張り紙の方を指差し「会話禁止です。静かにしましょう」と言った。
慣れないことをしたからもしかしたら声が震えてたかもしれない。でもどうしても言わないと気が済まなかった。これで静かになってくれればいいと、、

しかし妖怪ジジイは僕の方を向きすごい形相で「耳が遠いから仕方ないんじゃ!!」と意味不明 なことを言って来た。
「知るかボケ!静かにせえや!クソジジイ」といいたい気持ちをグッと抑え

「いや、会話禁止って書いてあるんで」と繰り返すと
「なんやお前、そんなんかか書いてないわ!というか、お前に言われとうないわ!」と怒鳴って来た。

そう、「妖怪サウナ常連クソジジイ」の本当の正体は「妖怪普通に害悪ジジイ」だったのである。


こうなると何を言っても聞かないし、コロナがあるのであまり喋りたくない。
もしかしたら周りの客が庇ってくれるかもしれないという淡い期待は砕かれ,僕は最後の抵抗で拙い舌打ちをしてサウナをでた。

水風呂に浸かり外気浴をするが全く気持ちよくなれない。気を取り直してもう一度サウナに向かうと、入り口付近で妖怪ジジイと鉢合わせてしまった。

ジジイが「おい!さっき絡んできたにいちゃんか、会話禁止とかどこに書いてあるねん」と言ってきたので、
僕はジジイとサウナに入り、張り紙を指さした。
そこにはしっかりと「サウナ内での会話を禁止します」の文字
「ここに会話禁止と書いてあります」と言うとジジイからまさかの返答

「大きい声じゃ、耳が、、これはええんじゃ!!!」

いや、なにがええねん!!!意味不明すぎるわ!!

僕はそのままサウナに留まり,妖怪ジジイは水風呂に向かった。
そこから再びサウナに来た妖怪ジジイは静かになったのだが
僕はなんだか気分が悪くなったので、友人に先に上がると伝えて風呂場から出た。

しっかりと受付に「迷惑な人がいたので、マークした方がいいと思います」と、最後の抵抗を行った。

僕は老害という言葉があまり好きではない。年老いた方の全てが害みたいに捉えられるからだ。
いずれ僕たちだって老いていく
自分の間違いが受け入れられず、大きい声や権力でその場を乗り切ってしまうかもしれない。

駅から家までの帰り道、今日の出来事を思い出しながら、岡崎体育の「おっさん」を聞く。

でもやっぱり僕は、「今を未来を学べる人でありたい」°と そう思った。


°引用:岡崎体育「おっさん」

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