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あの老人が市長になったら僕も政治家になろうと思った。

学生時代のバンドメンバーと久しぶりにライブをするため、京都のスタジオで練習をすることになった。
3時間みっちり練習をするともう19時すぎになっており、完全に日が落ち外では少し雨が降っていた。
スタジオを出るとまだ少し話し足りない雰囲気があり
蔓延防止策で8時には閉店してしまうマクドナルドに急いで入った。

すぐに注文を済ませて一階の奥の席に背中にめり込んだギターケースを下ろして席に着く。

しばらく近況や昔の話をしてハンバーガーを食べ終えると、
隣に座っていた老人が急に話しかけてきた。

「どこの店も早よ閉まってかなんなぁ、」

 急に話しかけられたので一瞬頭を整理するための間が生まれたが、1秒ほどで僕の口は「いや〜ほんとに大変ですよね」と返事をしていた。

老人は
「ほんまやで!市長が他に休憩できる場を作らなあかん」「今の京都市長はあかん」と
唐突世間話おじいちゃんから、政治批判おじいちゃんに変化していった。

口は適当に「そうですね〜」とか「京都市長は何がダメなんですか?」とか返すが、老人の言葉は7割型聞き取れていなかった。

おそらく市長の文句を繰り返していたのだが、
急にはっきりとした口調でこう言った
「わしが市長になったら、ええ案があるねん」

脳みそがステンレスくらい硬そうな老人のその意見に少し興味があり、
僕は「どんな案ですか」と聞いてみる。

しかし、老人はまたゴニョゴニョと訳の分からないことを繰り返す。

僕は「いい案があるなら市長になればどうです?」というと
老人は「もう70やぞ!流石に無理やわ」と言った

「こいつ、鴨川付近で興味ないのに無理矢理夢を語ってくる若者より厄介やな」と思いながら
「いやいや、今からでも遅くないですよ!」とお世辞を吐くと
気分が良くなったのか、老人は笑顔で席を立ちマクドナルドから出て行った。

「変なおじいちゃんやったね〜」なんて友人と顔を見合わせ、時計を見ると40分を過ぎていた。

無駄に時間を取られたなと思っていると、さっきの老人が何故か僕らの席へ戻ってきて、また唐突に話し始めた。

そこからの会話はよく覚えていないが、さっきと同じ話をもう一度繰り返したような気がする。

「年齢は関係ないですよ、今からでも市長になったら応援しますよ」と僕の口が今一番思っていないことを言い、
老人はまた席を立ち、今度こそマクドナルドから去っていった。

もう閉店時間が迫っていたため、急いで片付け、僕らもマクドナルドを後にした。

老人は「いい案」の内容を頑なに話そうとしなかったが、もしかしたら京都市の財政難や観光業などを解決するとんでもない案だったかもしれない。


でも、閉店間際のマクドナルドで久しぶりに会った友達との会話する時間を奪った罪は大きい。

僕は帰りの電車に揺られながら、あの老人が市長に立候補したら、選挙に行こうと思った。

そしてあの老人が市長になってしまったら
僕も政治家になろうと決心したのであった。

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