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なりたい自分はどこにいる?

「なりたい自分になれるよ」

「VRChat」についてネットで情報を探しているときにも、[JP]TUTORIAL WORLDで先輩たちにいろいろ教えてもらっている時にも、よく見聞きした言葉だ。でもそれを聞いて私の頭の中はぽかんと空洞になった。

「なりたい自分」?

若い時には、なにかそういうものがあったと思う。けれど人生の折り返し地点を過ぎた今では、諦めたり叶えたり現実とそこそこ折り合いをつけることができていて、それなりに納得もできている。それなりに。今さら「なりたい自分」っていっても特に思いつかないなぁ。

でもまぁともかく、VRChatでは自分が使うアバターを選ぶ必要があるわけだから、せっかくなら気に入ったものを見つけたいではないか。

私は生物学的にも心理的にも女性だが、子どもの頃から自他ともに「男だったらよかったのに」と言われるような性質で(思えば、すぐにそういうことを言いたがる時代だった)それは今でもちょっと、そう思う。なので最初に、男性アバターを使ったら居心地が良いのかも、と考えた。ポケモンソードでも男の子の姿を選んでみたしね。

そう思って男性アバターを探し回ったのだけれど、なんかしっくりこない。なにが違うんだろう? と考えてみたら「こんなに強そうで頼もしそうに見られるのは怖い」という気持ちがあることに気がついてびっくりした。大きな体、太い骨、その見た目の密度で中身を想像されたらがっかりされてしまうかもしれない。そんな風に感じたのだった。

物理世界では、舐められすぎだろ、と悔しく思うことも多かった。時代の空気もあって、今の時代に生まれていたら全然違うキャリアの考え方をしただろうなぁと思うと切なかった。正直、男だったらきっともっと生きやすかっただろうに、と、ずっとちょっと妬ましくさえ思っていたのだ。

それなのに「強そうに見られたら怖い」?

最近、SNSなどで男性が、VRChatで女性のアバターを使うようになって女性の気持ちがわかったとか、女性としてアカウントを運用したら反応が全然違うことに驚いたといった話をよく見かけるようになった。私はそれを、やっと気づいてくれましたか! よくぞ言葉にしてくださった! と、なんだか解放されるような気持ち良さで眺めていたのだ。

それなのに男(の姿)になろうとしたらビビった、この私の心情はなに?

よくよく考えると、男性にそれだけの認知のゆがみが出ていたとするなら、女性側にも同じような割合でゆがみが出ている、と考えた方が自然な気がする。男性に力があるのは当然、家計を支えるのは当然。そういった「女性より強いのが当然」「頼られることが当然」とされていた男性の状況を、私は本当に腹の底から認識できていただろうか。

正直、この気持ちをこうして文章にすることは怖かった。女性差別 VS. 男性逆差別、みたいな文脈に乗せられてしまったら嫌だな、というのが真っ先に思ったことだ。だから誤解のないように念を押しておくと、そういうことを言いたいわけじゃない。

たぶん、生物学的、心理的な性がどうであろうと、認知の仕方というのは、どうしたって社会の空気というものに影響を受けざるを得ないのではないか、ということだ。

VRChatに入ったら、かわいい女性アバターが男性の声でしゃべっていたり、そうじゃなかったり、よくわからなかったり、性別という区分が吹っ飛んでる感じがとても居心地が良かった。それは性別だけでなく、姿かたちや体の大きさ、服や小道具、声や動きなどの「在り方」すべてが、その人の「しっくりくる感じ」なのだろうと思えることが、とても気持ち良かったのだ。

そんなことをふわふわ考えながら、BOOTHとTwitterとそこから飛ぶリンクとをさらに3周くらい探しまわる。注意深く見ていくうちに、私は「中性的」なアバターならしっくりくることがわかってきた。女性だろうと男性だろうと性差を強調されていると「なんか違う」と感じるようだ。なるほど。

そしてついに初めてのUnityと格闘して無事アップロードに成功! いやなんかうれしかった。えも言われぬ満ち足りた気持ちになった。Unityをさわりながら、アバターに愛を注ぐ感があった。

正直アバターなんて、まぁ別にいくらでも変えられるんだし、最初はほど良いものを適当に…と軽く考えていたのだ。こんなに迷い、揺さぶられることになるとは思ってもみなかった。

まだちょっとうまく言えないけれど、「自分の見た目」って、想像以上に「自分に」影響を与えるものなのかもしれないな、と思う。VRでしっくりくるアバターを探すことは、はからずも「なりたい自分」や「在りたい形」の発見に近づけるんじゃないだろか。VRChatには、それを自由に探して表現しようよ、という「社会の空気」ができているような気がする。

ちょっと…だいぶ…おもしろいなぁ、こりゃ。と思っている。


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