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戦略的な人事は、人事が主役でうまくいくものじゃない。

戦略的な人事とは?

この問いにずっともやもやしてきたし、今も学びの途中だが、最近この問いに向き合った実践をする機会が増えてきて解像度が上がってきた気がしている。

この記事では、戦略的な人事を実践するための具体的なフレームワークと実践して得た学びをシェアしたい。

戦略的に、組織や人事のことを考えられるフレームワークがある。


それは、コングルエンスモデル_Congruence Modelと言われるもの。

出所:「両利きの組織」

企業としての戦略/目標をもとに、組織の4つの要素を「つながり」として捉え、整合性がとれている状態にすること。元々は、1970年代に開発された枠組みで、当時、オイルショックなどで企業の外部環境が激変する中、環境適応のために考え出されたフレームワークだ。

有名なマッキンゼーの7S(後述する)の元になったモデルとも言われている。

この枠組みを使って組織の現状を見える化し→対話し→未来のためにアクションを従業員主体で考えていく、いわゆる「組織開発」領域のツールになる。

出所:「組織開発の探究」

理屈や背景は一旦そのくらいにして、実際の企業でイメージしてみたい。

例えば自分が在籍していたリクルートを今振り返って俯瞰的してみると、このようになる。(今のIT企業のイメージになる前、自分が入社したての約10年前を思い出して記載。)

もう少し、各要素の論理的なつながりや整合性を体感してもらうために、赤色部分を見てほしい。つながりが読み取れるだろうか。

このモデルの本質的な部分なので、つながりを細かめに説明していきたい。

戦略/目標
リクルートは、リボン図モデルをベースに顧客に徹底的に向き合い、各市場においてNo.1になるという戦略/目標がある。

KSF
そのためには、顧客の声や顧客の課題をぐいぐいと深掘るという活動が組織として日常的に行われている必要がある。
※個人としてではなく、組織として。顧客から見ると「リクルートの人はほとんどそのように振る舞う」と感じ取れている状態。

人材(=個人)
そのためには、個々の人材が、HowじゃなくてWhyにこだわるコミュニケーションを行うことが大事になる。
例えばクライアントから依頼があり、何かリクルートのメディア(例:リクナビネクスト)への掲載を検討しているとなった時に、「依頼頂いた背景となる課題感」や、「その人の本当のお困り事」というWhyの部分をつかんで離さないことが大切になる。

人材(=個人)
そうなると人材像としては、素直で相手のふところに入ることができ、明るくて折れない「良い子/強い子/元気な子」だよね、と社内では冗談半分で言われていた。Whyベースのコミュニケーションを嫌味なく行えるようになることはすぐにはできないので、成長への伸びしろや染まりやすさを踏まえてもこういった人材が最も適する。
(「良い子強い子明るい子」と言われている場面もあったと記憶している。この人材像は公式なものではないが、社内の共通言語としてはこちらの方が個人的には本質的だと思うので、記載しています。)

文化
ただ、whyベースのコミュニケーションはスキルだけでなく勇気もいる。状況によっては「何がしたい?とか、そもそも論を聞いてくるな」という空気感になるときも当然にあり、心が折れかけるときもある。対社内でも上司や他部門にWhyベースでコミュニケーションするのはさらに勇気がいる。

文化
そのためには、「”圧倒的な当事者意識”を発揮していればその行動は◯(マル)である。決して否定されない。」という社内で合意された大義名分によるお膳立て/勇気づけが必要となる。そのコトバを拠り所に、Whyベースの率直なコミュニケーションが集団レベルで継続的に繰り返されることになる。

組織/仕組み
こうやって、「人材」と「文化」によって、Whyベースの深堀コミュニケーションが具体的に実行されていく。こういった活動をさらに再生産する(or活動を妨げない)ための仕組みとしては、事業への「権限移譲」が何よりも重要となる。権限移譲があるから、当事者意識を発揮せざるを得ない。
権限の大きさは、ディビジョン制→カンパニー制→分社化→(複数会社を束ねた)SBU化と大きく委譲されていく方向をたどることになる。

組織/仕組み
(今度は個人に目をむけ、)当事者意識が発揮される「再現性」を高めるためには、実際に当事者意識が高い人にどんどん仕事を任せていくと良い。そのために、制約なく重要なポジションに大抜擢できる仕組みや、本人がやりたい仕事に付ける部門間異動の仕組み、本人のWillを大事にした育成や評価が行われていることが重要になる。

・・・要素間のつながりを感じて頂けただろうか。


ちなみに、この「つながり」は複数年に渡る実践からしか生まれない。そして、人事が実践するのではなく、事業が主役になって実践するものだ。

組織はとても重たい。個人でも、何か運動が上手くなる時に、何回も同じ動作を繰り返して脳の神経細胞がつながっていく。それを組織レベルで実践していくということなので、複数年に渡る実践の積み重ねからしか生まれない。

なお、図の1~4までの番号は便宜的に振っているだけ。この順番で考えるというものではないので注意してほしい。


最後に、つくり方について、大事な点を共有したい。


それは、、、

このコングルエンスモデルを人事だけでつくらないこと。

(事業/事業企画(経営企画)/人事でワイワイやりながら)

そもそも、このフレームワークは、事業やビジネスのKSFをシンプルなコトバで表現する必要もあり、人事だけで考えきれるものでは決してない。

自社のこれからの組織をつくっていくキーマンたち(例:事業本部と経営企画部と人事部)でワイワイ言いながらつくり、合意がなされることが非常に大切。

直近でコングルエンスモデルを使ってやっているものは、社長・事業部責任者・経営企画責任者のディスカッションを人事(私)がファシリテーションする形式で進めている。

お互いの認識のズレがたくさんでてくる。それが見える化でき、本質的な議論に立ち戻り、摺合せができる。

本当に一度やってみてほしい。


「組織」という共通言語を通じて必ず分かり合える。
新しい気付きがもたらされる。


まずは人事内でこのモデルを使ってディスカッションすることもおすすめ。仕事に追われていて、制度部門/育成部門/採用部門などで認識が揃っていないことも多い。人事全体に「戦略的な」視点がもたらされるし、人事パーソンとしての成長にもとても役に立つ。(その内容を事業に聞いてもらいに行こう)
如何に自分たちが、「事業について理解できていないか」に気付くかもしれない。もちろん、意外と理解できていることに気付くかもしれない。


あるいは事業マネジメントを担う組織長の有志でこれを創ってみてほしい。如何に自分たちが、「組織について向き合っていないか」に気付くかもしれない。もちろん、意外と向き合っていることに気付くかもしれない。

部門を超えて、キーマン同士が「分かり合える」ツールとして是非使ってほしい。


ちなみに、、、


このコングルエンスモデルは、組織のソフト部分の大切さも教えてくれる。組織の仕組み(=ハード面)を変えるだけでは組織はワークしない。

ソフトとハードが整合しているから、組織がワークするんだよと。

このコングルエンスモデルを元に、マッキンゼーの7Sが誕生したと言われていて、確かにとても似ている。(見せ方としてハードとソフトが上下逆)


7Sの方が各要素がシャープにはなるが、少し見た目も複雑になり、事業や経営と共通言語をつくるものとしては、自分の場合はやりにくかった。

7Sをまた10年前のリクルートを振り返って書いてみると、真ん中の「共通の価値観」など、とても大事なミッションを記載できたりもするので、状況によって使い分けてもよいかもしれない。

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最後に


今回の記事は、組織の業績が伸びること/健康的になること、の両方を目指すボトムアップなアプローチである「組織開発」のフレームワークを活用し、戦略人事について書きました。

組織開発を世の中に広めていきたいんです。
その実践を、1ヶ月に1度くらいのペースで書いていきたいと思います。

普段は、複数社(5~6社)で人事として働いています。



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