ショートストーリー集『ミックスサンドイッチ』
この度、私が書きましたショートストーリー集『ミックスサンドイッチ』が電子書籍となって復活いたしました。徳間書店さん、ありがとうございます!
当時は1500円(税抜き)もしたんですけどね、なんと電子書籍版は770円(税込み)です。うん、お安い!
30編もの短編小説が収録されておりますので、ひと短編が約25円で読めちゃう計算です。うん、格安!
小説を安さでアピールするのは、我ながらどうかと思います。
ですが、どうアピールしたらいいのか、分からないんです。帯に書いてあるように「おもしろ〜いから読んでネ」なんて、この歳になるとちょっとおこがましくて、言えないんです。
この自信のなさには理由があります。
私は今年からnoteを始めました。
始めたからには、沢山の人に読んでいただきたい。その為には沢山の人に知っていただかなくてはならない。その為にはやはりSNSなのだろうと、呆れるばかりの今更ではありますが、SNSを充実させることにしたのです。
Instagramの投稿数を上げ、Twitterを再開させました。
そして、所属事務所の、デジタルに強い方々からお知恵を拝借し、そのアドバイス通りにアイコンを自撮り写真に変え、投稿の内容の見直しを図り、ハッシュタグを駆使し、なんとかフォロワーさんの大量増加を計った結果!
Twitterのフォロワー数、なんと385人!(2021/10/28)
なにこれ!? ぜんっぜん増えない!!
言うても私、テレビとか出てるんです。日本テレビ系列のドラマにも出演中ですし、バラエティの大食い企画にも出ました。映画の告知もしてますし、芸能人の友人からイイネもいくつかいただいていると言うのに、385人!(2021/10/28)
ってこれ、いかんでしょう!(385人のフォロワーの皆様、フォローしてくださり、ありがとうございます!)
昨今では、ドラマのキャスティングや、CMの起用などは、SNSのフォロワー数が決め手になるのです。
「主役はそうでも、脇はあんまり関係ないよ」
という方もいらっしゃいますが、私は、関係ないはずがないと思うのです。
「さて、主役の父親役の最終候補は池田テツヒロと沢田カニマロか」
「どっちにするか、迷いますねえ」
「ちなみに沢田カニマロってTwitterのフォロワー数は何人?」
「10000人ちょっとですね」
「芸能人にしては少ねえなあ。で、池田は?」
「えーっと……え? 385人!」
「そんな馬鹿な、いくらなんでも見間違いだろう」
「いや、間違いないです!」
「嘘だろ? オレの方がフォロワー多いぞ!」
「この数字、あり得ませんね。ある意味、怖いです」
「ああ、ダメダメダメ〜! そんなヤツにこの役、やらせられねえよ!」
そして、沢田カニマロとか言う、ふざけた名前の俳優に役を奪われてしまうのです。(一応チェック済みではございますが、沢田カニマロという名前の方が実在していたら、大変申し訳ございません。すぐに西部マカロニという名前に変えますのでお知らせくださいっ!)
……大きく話題が逸れました。
そう、どう宣伝したら沢山の方に読んでいただけるのか分からない、というお話でございました。
せっかく書いた小説だもの、できれば多くの方に読んでいただきたい。
でも、その為には、どうしたらいいのだろう……と途方に暮れる私に、徳間書店の元担当編集者、大久保さんが助け船を出してくださいました。
「noteに何編か? ええ、載せてもいいですよ」と。
い、いいんですか!?
大久保さん、女神! 徳間書店、懐深し! なんと寛大なお心!
という訳で、今日から三日間、拙著『ミックスサンドイッチ』の中から、一編ずつ、noteにて公開させていただくことにしたのです。
前置きがこんなに長くなってしまっては、この先を読んでいただけるか、甚だ疑問ではございますが、騙されたとおもって、ちょっと読んでみてください。
それでは……
『給食室、封鎖!』
子供達が廊下で騒ぎ出した。
私はチーフ調理員の須山さんをうかがい見る。帽子とマスクの間から見える須山さんの目は険しく一点を見つめている。決意は変わらないようだ。
「おなかすいたよー」
低学年の生徒が私達に呼びかける。調理員の袴田さんが目を固く閉じた。辛いのだ。それは私もそうだった。きっとここにいる全ての人が辛いのだ。子供達は悪くない。早くみんなに給食を渡してやりたい。子供達の喜ぶ顔が見たい。空になって返ってくる食缶が見たい。だが、私達にもプライドがある。勝つまでは、このドアを開けるわけには……給食室の封鎖を解くわけにはいかないのだ。
全ては昨日の五時間目に起こった。
私達はすべての食器を洗い終え、食器消毒庫に入れた。管理栄養士の私は、献立や食材管理はもちろんの事、調理作業や給食室の衛生管理も任されている。私は慎重にボタンを押して消毒庫に熱風を送り込んだ。須山さん達は全ての火元を確認している。私達はいつもと同じように、丁寧に完璧にすべての作業をこなしていった。
その時だった。校内に大きなサイレンが鳴り響いた。
『只今より火災訓練を始めます。只今より火災訓練を始めます。全校生徒は先生の言うことをよく聞いて、静かに、速やかに、避難をしてください。給食室より火災発生。給食室より火災発生……』
須山さんが調理台を激しく叩き、「また!」と叫んだ。
「またここが……火災発生場所にされている!」
「去年も、その前の年も、またその前の年も……いつ私達が火事を起こしたって言うの!」
一番の古株である調理員の津川さんが須山さんに呼応した。あかぎれだらけの手がわなわなと震えている。
「火を扱う部屋はいくらだってある! 理科室にだってアルコールランプがある。用務員の中村さんだって煙草を吸う。すべての教室のコンセントから火が出ることだってある! なのに……なんでいつも火災発生はここ、給食室なの!」
そう叫ぶ津川さんの目から涙がこぼれ落ちた。
給食室にいる全員が、美しく光る床を見つめて押し黙った。
やがて、須山さんがぼそりと言った。
「明日、ストライキをしましょう」
私は耳を疑い、須山さんの顔を見た。冗談を言う顔ではなかった。須山さんは、真剣そのものだった。
「火災の発生場所を撤回するまで、私はここに籠城します!」
「よくぞ言ってくれました!」
呼応する津川さんのマスクは、涙でしとどに濡れていた。
袴田さんが消毒庫のボタンを叩き、強制停止させると、扉を荒々しく開けて中に手を突っ込んだ。
「袴田さん!」
私がそう叫ぶのもかまわずに袴田さんは高温になっているはずの調理包丁をむんずと掴み、それを天井に向かって大きく掲げたのだ。
「我々は! その軽々しい先入観と、断固戦うものである!」
叫ぶ袴田さんの顔は、鬼気迫るものだった。
みんなが真剣だった。誰もが、子供達の健康と安全を最優先に考えて作業している。一階にある給食室から火が出たら大惨事だ。子供達の命を預かる私達は、毎日神経をとがらせ真剣に調理していた。そう、私達はプロフェッショナルなのだ。私達の気持ちと、そこまでの決意を軽々しく踏みにじるあのアナウンスが憎かった。アナウンス内容を決定した教職員が、憎かった。
「うおおおおお!」
いつの間にか、私も叫んでいた。
そんな私を、須山さんが見つめて大きく頷いた。そして須山さんは宣言した。
「明日、給食室を、封鎖します!」
ドアが激しく叩かれた。
「ちょっと、なにしてるんですか?」
ドアの窓から教頭先生の顔が見える。
「もう、給食の時間ですよ!」
私は教頭が嫌いだった。あいつは一度だって私達に礼を言ったことはない。「美味しかった」のひと言すら聞いたことがない。それどころか(恐らく苦手なのだろう)いつも椎茸を残す。器にこすりつけるようにして汚らしく残す。
「給食室は昨日、燃えたのではないのですか!」
須山さんが大きな声で教頭にそう言った。
「へ?」
教頭がぽっかーんとしている。私は思わず叫んだ。
「へ? じゃない! あなた達が、昨日、ここを、燃やしたんじゃないか!」
「な、なんの話ですか」
そうなのだ、奴ら教職員は無自覚に給食室を火災発生場所にしている。その事実が、私達の神経を逆なでした。
やがて他の教職員達が集まってきた。そのただならぬ雰囲気に気圧されて、子供達が泣きだしたので、何人かの教師が教室へ戻るよう促している。
「早く開けなさい!」と誰かが言った。
「命令しないで! 私達はあなたの生徒ではないのです! いいですか、給食が欲しいのなら、校内放送で昨日の火災訓練の火災発生場所が間違いであったと、速やかに訂正しなさい!」
津川さんがそう要求する。
「訳の分からないことを言うな! 早く鍵を開けろ! いいか、このまま開けないつもりなら無理矢理ドアを開けるからな!」
肩がフケだらけの〈万年雪〉小林がそう叫ぶ。とんでもない。あんな不潔な奴にこの完璧に衛生的な『聖地』を汚されてたまるものか。
「袴田さん、クリームコロッケはどうですか?」
私がそう聞くと袴田さんはニヤリと笑って「揚がってるよ」と答えた。
激しい衝突音がしたので振り返ると、小林がドアに体当たりをしているのが目に入った。元ラグビー部の小林はかなりの巨漢で、三度目の体当たりで、早くもドアは撓んで外れてしまいそうだった。
「おおおおお!」と須山さんが鬨の声をあげた。
「息を止めて」
そう言って津川さんは、寸胴の中でぐつぐつ煮えた醸造酢を、ドアの隙間から廊下へと流し込んだ。
「ヅオ!」
ドアの向こうでドサッと小林が倒れた。激しく咳き込む声がする。
「こ、小林先生!」教頭の叫ぶ声が響き渡った。
私達の戦争が、そうして始まった。
ガラスが割れる大きな音がして振り返ると、若手教職員の坂田が窓ガラスを割って給食室に侵入しようとしていた。混乱に乗じて校舎裏に回り込み、奇襲をかけたのだ。
割れた箇所から鍵を外して窓を開け、窓枠に足を掛けて侵入しようとしている坂田に、袴田さんが高温のクリームコロッケを投げつける。ぶつかったコロッケは衣が裂け、中のクリームが飛び散った。顔に高温のクリームがかかった坂田は、悲鳴をあげて後方へ倒れ込んだ。追い打ちを掛けるように津川さんが、倒れている坂田にオクラ納豆を浴びせた。その滑りに足を取られた坂田は、ドタンバタンと立ち上がれない。そんな坂田に私は、大鍋の中の激辛豆板醤スープをおたまで掬ってかけてやった。
「ぎゃああ!」
これでしばらく目が開けられないだろう。
「酷いね」と津川さんが笑って言った。
「あいつ、私をふったんですよ」
私は津川さんに微笑み返して、そう言った。
「元カレ? ますます酷いね」
私達の笑い声にパトカーのサイレンが重なった。通報によって警官が駆けつけたのだ。
だが、私達は投降するわけにはいかなかった。私達の要求は未だ聞き入れられていない。この戦いは、すべての給食のおばさんの聖戦なのだから。
警官隊が突入する直前、須山さんは大鍋に火を入れた。その大鍋にはたっぷりのとうもろこしが投入されている。やがて大量のとうもろこしが爆ぜるだろう。ポップコーンの大爆発によって、警官隊も、そして私達も絶命するかもしれない。死を覚悟したとき、津川さんが私に言った。
「渡部さんは、死んじゃいけない」
「あなたは栄養士でしょう? 衛生管理もあなたの仕事。生き残って、地面に落ちたポップコーンを子供達が食べないように指示しないと。だけどね、上の方のポップコーンは許してあげて欲しいな。この騒動で子供達は給食を食べていないわ。きっとお腹をすかしているはずだから……」
須山さんはそう言って、私に業務用バターとカラメルシロップを手渡した。
そして私はパントリーにあるダクトからひとり、抜け出した。
校舎を出て校庭に出たとき、背後で大きな爆発音がして爆風が私を包んだ。
やがて、静かに空からポップコーンが降ってきた。爆発によってはるか上空まで飛ばされたポップコーンが、やわらかな雪のように優しく落ちてくる。校庭に避難していた生徒達にも、ポップコーンは優しく降りそそぐ。
やがて校庭は、ポップコーンで埋め尽くされていった。
それはまるで白い花が咲いたかのようで、とても綺麗だった。
(おわり)
この短編小説はこちらに収録されております↓
甘いフルーツサンドのようなラブストーリーも、マスタードがピリリと効いたハムサンドのようなハードボイルドも、ベタベタに甘いピーナッツバターサンドのようなギャグも、いろんなサンドイッチが詰まったような短編集。
「ああ、だからミックスサンドイッチなのね?」はい、そうなんです。
1話、だいたい電車2駅分。
通勤時に、トイレのお供に、おひとついかがですか?
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