終末の麻雀譚
これは架空の物語。いや、現実に起こる未来の姿かもしれない──
第1話
時は21XX年。
この世界は一度終焉を迎えてしまった。
なぜ終焉を迎えたのかはいつか語るとして、まぁとにかく北斗の拳のような世界を思い浮かべてもらえれば幸いだ。
これまで機械やAIに頼って日々快適に過ごしていた人類は、それらを失ったこの終末世界で何を見るのか。
世界から遊戯というものが無くなってもうXX年─
ある一部の人間は熱中できるものを渇望していた。
ここに一人の少年がいる。名をムサシ。
彼は荒廃したこの地を探索し、機械の部品やら何やらを拾ったりしては食糧などと交換して生活していた。
要するにバットである。
そんな彼が、ある日麻雀牌を拾うところから物語は始まる─
「これは…?」
錆び付き、半分以上土に埋もれたテーブルらしきものを開くと中に小さな立方体が並んでいた。
これがマツオカの全自動麻雀卓だったということはもちろんバットムサシは知らない。
相棒のコジローを呼びつけ、一緒に辺りを調べ尽くしたがヒントとなるようなものは残されていなかった。
「こうなったらあのジジイに聞いてみるしかないな」
ジジイとはこの辺の集落にいるヒゲの長い今にも死にそうなじいさんのことだ。物知りかどうかは知らない。ただ一番年寄りだからという理由で大抜擢されたんだ。
二人がじいさんの元へ急ぐと、じいさんは横たわっていた。
「なぁじいさん!これが何かわかるか?」
ムサシはビシッと持ってきた立方体をじいさんの目の前に突きつけた。
「おぉ…これは…」
今にも死にそうな声でじいさんは続けた。
「麻雀…これは麻雀牌じゃよ…」
マージャン…?
「その昔、麻雀という究極の遊戯があっての…」
「国民が盛り上がり過ぎて規制が入った国もあるくらいなんじゃよ…」
ムサシは問う
「それは一体どんな遊戯なんだ!!?」
「メンタンピン…一発ツモ…三色…オモォ…モ…ウラゥ …ラ…」
「おい!じいさん!しっかりしろ!!?メンタンピ…なんだって!!?」
「三倍満じゃよ…」
じいさんはにやりと笑い、とても穏やかな顔つきになった。さっきまで苦しそうに咳き込んでいたのが嘘のように。
ムサシは思った。思い出すだけでこれほどまで人を幸せにする『マージャン』というものはきっと素晴らしいものなんだろうなと。そして『マージャン』とは一体どんな遊戯なんだろうかと。この遊戯を復活させることが出来れば、このつまらない世の中をアツく変えられるのではないかと!
「メンタンピ…一発…なんとか…オモモ…ウララ…」
何語なのかもよくわからないこの謎の言葉を解く鍵はきっとどこかにある!!
もっともっとマージャンというものを知りたい!
ムサシは運命的なものを感じていた。
「三倍満じゃよ…」
そう残してじいさんは逝ってしまった。
あの顔を見る限り、幸せな言葉なのだろう。
もしかしたらサンバイマンという代表的な人物のことかもしれない。この集落にはまだ他にもじいさんはいる。明日から聞き込みを始めなきゃな…
少しだけ未来に希望を見たムサシ少年。
果たしてムサシたちはこの終末世界で麻雀を復活させることが出来るのか…?
彼らの挑戦はまだ始まったばかり…
〈現在の知識〉
麻雀・・・その昔爆流行りした遊戯。内容はまだわからない。
サンバイマン・・・ジジイが残した幸せの言葉。
第2話
麻雀牌を手に入れたムサシとコジローはその辺のじいさんに聞きまくった。麻雀とはどういう遊戯なのかと。
聞きまくった結果、驚くべきことにほとんどのじいさんが麻雀を知っていた。しかし知っているだけで、どういうものなのかを上手く説明できる人はまるでいなかった。
それでも断片的な情報を整理するとそれらしき姿が見えてくるものである。
どうやらマージャンとは…
・持ってきて捨てるを繰り返して役(?)を作る
・役(絵柄の組み合わせ)で点数が違う
・鳥は棒の1
ということが分かった。
中でも「鳥は棒の1」というのが衝撃だった。
なぜ?
この棒は羽か?羽なのか?
でも確かに並べてみると漢字のやつ以外は1から9まで数字が書いてある。書いてあるというか模様の数だが。そう考えると棒の1が見当たらない。
ムサシはこの鳥が気に入った。
鳥が一番強いことにしようと思った。
「よし、やってみようぜ!麻雀!」
とりあえず麻雀牌を見つけた時のように牌を2段重ねで四角に並べてみた。
これだけでそれっぽくなって、何故だか胸騒ぎがした。
「で?どうやって始める?」
コジローもワクワクしている様子だ。
「じゃあ自分の前にあるやつから1枚とってみようぜ」
ムサシは自山の左端から1枚とった。
すると丸の8だった。
コジローは右端からとった。
「よし、せーので見せようぜ!」
タンっ!
コジローが持っていたのは南だった。
ムサシは丸の8。
・・・
これは・・・どっちの勝ちだ・・・!?
よくわからかったコジローはとりあえず南の方を向いた。
「よし、まず強い順を決めよう。鳥が最強な。」
ムサシはそこだけは譲れなかった。
「この鳥のグループが強いとして、丸の1と棒の2はどっちにしようか…」
「なぁ、もういいか?」
コジローはまだ南を向いていた。
そもそも南を向けなんて言ってない。
「じゃあ何も書いてないやつ引けたら戻っていいよ。」
ちょっとだけいじわるした。
コジローは嬉しそうに牌を引いた。
丸の2だった。その次は漢字の七。漢字の三。棒の3
。そして北。
コジローは嬉しそうに逆側を向いて叫んだ。
「マージャン楽しぃーーー!!!」
何が楽しいのか。
一枚ずつ引いて方角が出たらそっちの方を向くゲームの何が楽しいのか。
でもみんな思い出して欲しい。
何だって最初はちょっとしたことが面白いものだ。
ビリヤードだって最初は手玉をまっすぐ突けただけで面白かったはずだ。卓球やバドミントンだって相手の方へ返せただけで楽しいものだ。
その気持ちを皆さんに思い出して頂いた上で、上記のコジローの様子を考えて欲しいんだ。
一体何が楽しいのか。
一枚ずつ引いて方角が出たらそっちの方を向くゲームが面白いはずがなかった。
ムサシは謝った。
「ごめん、一回やり直そう。」
「そもそも組み合わせで勝負しなきゃだから、1枚勝負じゃなかったわ」
これにはコジローも納得のご様子。
「で?何枚勝負にする?」
「1種類が4枚ずつあるから…4枚勝負かなぁ?
あ、鳥4枚が最強ね。」
早くも麻雀牌の魅力に取り憑かれた二人…
しかしまだまだ先は長そうである…
〈現在の知識?〉
麻雀・・・えもいわれぬ魔力を秘めた遊戯。内容はわからない。
鳥・・・棒の1。最強。
第3話
4枚勝負を始めたムサシとコジロー。
偶然にも麻雀の仕組みとして成り立つ4枚勝負となったが果たして・・・
「よし!強さ順はこれに決まり!」
ムサシが決めた強さ順とは、1から順に強く、棒>丸>漢字というもの。つまり鳥が最強で漢字の9が最弱。棒の2よりは丸の1が強いという事になる。
他の漢字の牌に関してはまだ何も考えていなかった。
しかしこれは1枚単位の強さであって、結局は役の強さである。役もまだ何も考えてないが。
「よし、これでやってみて出てきた組み合わせで勝ち負けつけていこうぜ」
ムサシは自山の左端から4枚とった。
コジローは無作為に4枚とった。
ムサシの手牌はこうだ。
棒の3,棒の7,棒の9,丸の1
説明が大変になってきたので今後は
棒・・・鳥23456789
丸・・・①②③④⑤⑥⑦⑧⑨
漢字・・・一二三四五六七八九
漢字・・・東西南北無發中
とする。
コジローの方を見てみると嬉しそうににやにやしている。
ムサシは聞いてみた。
「役はありそうか?」
「あるっちゃあるね」
「俺もあるっちゃある」
「どうする?このまま勝負する?」
麻雀とはたしか持ってきて捨てるを繰り返すはずだ。
てことは4枚勝負なら3枚持ちか?捨てたあとに持ってくるでもいいか?などと考えていたら、
「とりあえず役があるから見てほしいな!」
とコジローが言ってきた。
勝負することに関してはムサシもやぶさかではなかったので、いいでしょうと手牌を開きました。
コジローは
『2二東北』
だった。
「それなんて役?」
「決まってるでしょ!東北だよ!東北!」
東北。
「そっちはなんて役?」
ムサシは
『379①』
「見りゃわかんだろ!奇数だよ!奇数!」
奇数。
この場合は2枚役vs4枚役ということでムサシの勝ちとなったが…
二人は反省した。
「あるっちゃある」程度だとこじつけ過ぎて役が無限にある上に勝ち負けの判断が難しい。
発想力勝負になるのでそれはそれで面白いのだが、もっと簡潔にして皆に広められる遊びにしたかった。
二人はしっかりと話し合い、いろんなパターンで麻雀牌を並べて役を作っていった。そしてルールも。
・最初に4枚持ち、要らない牌を捨て、その分補充する。
・一回に捨てるのは何枚でもOK。
・一人が役の完成として交換をストップしたら、相手はその後3回までしか交換できない。
シンプルながらも実はそこにはちゃんと駆け引き要素が用意されていた。
相手が大きな役を狙ってモタモタしてたら、弱めの役でも先に確定させることで相手の交換を制限できるのだ。
相手がブタならただの兄弟でも勝てる。三兄弟ともなれば結構勝てる上に無理なく全員集合も狙えるが、相手に自由に交換されるくらいなら早めに諦めるのも手だ。
※ブタ…役なし 兄弟…同じもの2枚 三兄弟…同じもの3枚 全員集合…同じもの4枚(命名は全てコジロー)
ある時、コジローは2の三兄弟でストップした。
ムサシが大きく狙っていると感じたためだ。
その時のムサシの手牌は
『鳥鳥①北』
だった。
コジローがストップしたので交換は残り3回。
さすがに鳥鳥①を捨てて『東西南北』のザ・ワールド狙いはやりすぎか。一を引いての1祭りもあるがそれで勝てるか?となると狙いは…
ムサシは長考して①を捨てた。
すると次に北を持ってきた。
『鳥鳥北北』
鳥と北のW兄弟か…
W兄弟の中では強いが…
ムサシは北を1枚捨てた。
次に持って来たのは一。①を残していれば1祭りだった。そのまま捨てた。
ムサシ最後のチャンス…
自然と牌を持つ指に力が入る・・・
ぐぐぐぐ・・・
「さあ!手を開こうではないか!」
コジローは何者かに取り憑かれたようだった。
バラっ
先に開いたコジローの手は2の三兄弟。
「ふっふっふっ…」
不敵な笑みを浮かべるムサシ
「な!?まさか俺様の三兄弟に勝てると言うのか!?」
「くらえええ!!」
バラっ
開いた手は
『鳥鳥北南』
「ばっ!ばかな!ここで渡り鳥だとおおお!!!」
というような遊びはできるようになった。
実際コジローの「相手の速度感に合わせる戦略」や、ムサシの「安アガリ拒否」などは麻雀に通ずるものがある。
「よし、今日はこれぐらいにしとくか!」
気がつけばあたりは暗くなってきていた。
「しっかしホント面白えな、麻雀。」
「ジジイの言葉は嘘じゃなかったなぁ。」
いや、まだ全然麻雀じゃないけどね!!
むしろポーカーに近いけどね!!
でも二人が楽しめてるならそれはそれで良いのかな。
この終末世界でも麻雀という言葉は生き残った。
それで良い…のか?ほんとに…?
「あ!サンバイマンって役作らなきゃ!」
「あー忘れてたな。まあ明日考えよう。」
「うん、また明日な!」
また明日。
第1部 完
〈現在の知識?〉
麻雀・・・二人を虜にした魔性の遊戯。厳密には麻雀ではない。
〈次回予告?〉
麻雀の研究を続けていたムサシたちのもとに(本当の)麻雀を知る人物が現れ・・・!?
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